数日前〈My Work〉にアップした家具〈ミズナラのキャビネット〉は、気仙沼在住で教職に就く顧客にお納めしたものです。

何度も何度もメール、Fax、電話でやりとりし、作り手としても精魂込めて作ったもので、大変喜んでいただけたのでした。

納品されたキャビネット(部分)

納品されたのは一昨年末の頃だったか。
つまり3.11激甚震災に見舞われる数ヶ月前のこと。

ご記憶にあるかも知れませんが、3.11の数日前、三陸沖を震源地とする大きな地震が気仙沼一帯を襲ったのでした。

この顧客の安否を確認するための電話をしたのは言うまでもありませんが、気丈に、元気であるので心配無用との返事でした。(この家具の耐震対応についてはその時は聞きませんでしたが‥‥)

そして1日をおいての、あの3.11でした。

忘れもしない、気仙沼市全域に襲った地震と津波被害は大火災を伴い、その猛火は海岸線から市街地までほぼ全域を飲み尽くす勢いで拡大していったのでした。
この世のモノとも思えない惨状を見せつけるTV映像には、怖ろしくて身震いが止まりませんでした。

この猛火の渦の中にこの顧客がいるのかと思えばなおさらのことです。

災害とはメディアが伝える悲惨な状況の前に、その眼差しは縁者、知人に襲いかかる個別具体的な人生の苦難への想像と共感というものによって支配されるものです。

その後、なかなかご本人とは連絡も取れず、あるいは連絡をすること自体、ある種の覚悟を求められるという状況でしたが、
結果、仲介していただいている地元ギャラリーのオーナーを通し、無事であることを確認できたのでした。

その後、3.11直後の緊急災害ボランティアとして石巻市に赴き、活動させていただいた後の8月、あらためて盛岡〜三陸一帯〜仙台と現地に出向いた折り、この顧客と出遭うことができたのでした。

既に決まっていたようなのですが、ちょうど年度替わりで4月から別の地域の学校へと赴任し、落ち着いた頃だったのでしょうが、気丈に明るく振る舞い、接遇していただいたものです。

初期のいくつかのプラン

納めさせて頂いた家具は、上述のキャビネットの他、文机もあったのですが、いずれも無傷で回収され、新しい住まいへと運び入れることができたようでした。

もし修理が必要であったり、あるいは修復困難な状態であれば、制作者として無償で修理するなり、再度制作することなども考えていただけに、ご本人のお元気な姿とともに、家具の無事に深い安堵をいただいたものでした。

無論、多くの教え子たちの被災状況、惨状も様々で、心痛めておられるだろうことも想像に余りあり、心中いかばかりかと思ったものでしたが、美しく明るく聡明な先生に指導され、元気を取り戻し、新たな歩みを開始してもらいたいと願ったものです。

私の場合、東北地域には少なくない数の顧客がいますが、沿岸部に居住の方はこの方だけで、他の方々は幸いにして大過なくご無事でおられたようでたいへんうれしく思うのですが、津波で全てを失った被災者を顧客に抱える家具屋も少なくないわけで、そのような立場の同業者のことを考えますと、心中穏やかでは無いのです。

私たちの作る木工家具というものは、顧客にとって見れば、とても大切な調度品、あるいは人によっては人生の随伴者のように扱われる場合もあるでしょうから、その責任も相応のものがあるということでしょう。

Top画像は三陸沿岸部:陸に上がった大型漁船(2011年8月下旬)