工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ウォールナット テーブル 制作その3

板矧ぎ
注文を受けたテーブルの大きさは 180cm×90cm 。
無垢板の天板でこのサイズを1枚の板で構成することは至難。(ブラックウォールナットで1枚ものでご希望でしたら、こんなものもありますが[参照1] [参照2])
一般に、数枚の板を合わせて(矧ぐ、と言います)希望のサイズにします。
昨日は足の痛みも引いてきましたので、力仕事が伴う甲板(天板)の矧ぎ加工を進めました。
(写真は矧ぎ加工、圧締中のもの 2枚の天板です)
簡単ですがプロセスと、圧締工具を紹介します
選木 (数枚の板を合わせ、1枚の板の如く構成するための重要なプロセス)
幅、長さのカット (適切に部位を切り取る)
矧ぎ口を取る (矧ぎ口のシャープさはとても重要。ただ真っ直ぐであれば良いのではなく、乾燥が進み、矧ぎが切れやすい木口部分をより強く圧締させるために、木端の中央部にかけて、やや透き気味に削る、などのビミョウな調整が求められる)
ボンドを用意する(うちではPIボンド[大鹿]を使います)
圧締作業
といった工程を踏みます。


いずれの工程も重要なポイントがあるのですが、今日はいくつかの点に絞って紹介します。

(1)矧ぎ口
この矧ぎ口を取る工程はとても重要な項目です。
訓練校などでは「長台鉋」を使って削ることを指導されるものと思います。その通りにしましょう。
うちではまれにこのような方法を取りますが、多くはジョインター(手押し鉋盤)で、削り取ります。
もちろん、ジョインターは平滑、ストレートに削る機械ですので、透かし削りは一般にできません。しかし、テーブルの調整によってこれが可能になります。
これは機械それぞれの機構の特性、クセなどもありますので、ここで紹介することは無理ですのであえて詳細は省きます。
工場では2台のジョインターを設置し、1台を矧ぎ専用にセッティングすることも多く見受けられます。
(2)圧締工具のご紹介
うちで使用している圧締工具の1部を紹介します。
写真上から、
1.端金(はたがね)、
2,Jorgensen Pony Clamp、
3,PowerGrip Clamp、
4.BESSEY Kボディークランプ、
5.自作 矧ぎ専用クランプ
クランプ
1,端金(はたがね)
最も一般的な圧締工具。どこの大工道具屋、ホームセンターでも扱っている。
ステンレス製の良いものを入手するようにしましょう。(アルミダイキャストのものもあるようですが、破損しますので止めましょう。道具は一生物です)
現在使用中のものも開業の時に大小60本ほど求めたものですが、全て故障なく使えています。
なお、今回の圧締工具の紹介は大きな甲板の場合を主に対象としています。板が薄く幅の狭いものなどは、この「端金」を用いて行うことが多いです。(軽量で圧締力も十分なのでこちらのほうが使い勝手は良いでしょう。反りの調整も用いる数を増やし、圧締力を調整すればOK)
2、Jorgensen Pony Clamp (日本ではポニークランプとして普及している)
< 使用感 > バーは水道管を用いるので、長さなは自在。使い勝手もハンドル部の精度の高さを含めとても良い。価格も安価(米貨$10)
< 入手方法 > 国内でも多くの工具通販サイトで扱っている。米国通販サイトからは、より安価で入手できるでしょう。(パッドも合わせて購入することをお奨めします)
水道管はどこの配管工事屋にでもある普通の物で良いでしょう。そこでねじ切りをやってもらえばOK。(参照
3, Power Press ( Quick-Grip社)  これはJorgensen のものと使い方はほぼ同様だが、ハンドル部が異なる。Jorgensen のものを使っているならばあえてお奨めはしません。(参照
4,BESSEY Kボディークランプ
< 使用感 > 圧締部が硬質プラスチックで、一定の面積がある。しかも押さえ角度の安定性が高い、などの特徴があるので、名称通り(ボディークランプ)の使用環境を提供してくれると考えても良いと思います。バーの剛性は「世界のクラフトマン御用達」のBESSEYといわれるだけあって信頼性は高いです。このメーカーはほとんどのクランプのバーに押さえ位置を安定させる細かな刻みが入っていることも、付言すべきでしょう。
< 入手方法 > 日本での総合代理店は「大同興業(株)」になっているはず。
米国の様々な工具通販ショップでも扱っている(参照)。
12″〜98″(30cm〜250cm)まで8種類の長さがあります。
5,自作のWバークランプ(写真 上)
板矧ぎ専用の圧締工具。板矧ぎに用いるクランプに求められる機能は、堅牢性、ハンドル部の機能性、反りの修正機構を有すること、などでしょうか。
やはりこれにはWバーが必須になります。片側からの圧締では板は反ってしまうのを、両側から圧締することで均等な圧力を掛けることが可能になります。
それでも微妙な反りを生じてしまうのが常ですが、Wバーですと、この反り部分にクサビを挟み込み調整することで、反りを極限まで押さえ込むことが可能です(写真に1つ写っています)。
< 入手方法 > Pony Clamp でもWバーのものもありますがかなり高価です。ネジ部分はネジ屋で求め、後は近くの溶接屋で、製作してもらえば1組2.000円ほどで出来るでしょう。
ボクは長さを3種類用意しています。(60cm ,100cm ,120cm )
なおネジ部は必ず「角ネジ」(台形でも良いでしょう)にしませんとあきませんよ。(既製品のクランプ類の中にはネジ部に普通のネジが用いられているのが散見できますが、これは論外です。堅牢性、スムースさを考えれば角ネジでなければなりません)
 

*注意
最後に1つご注意を ! 。
Top写真のように矧ぎ 圧締状態をどの程度の時間を置けば良いか、ということに関することです。
大鹿のPIボンドの圧締時間はさほど長い時間を指定されてはいない(数時間)。
しかし矧ぎの場合はかなりの長い時間、圧締することをお奨めします。
以前、経験が浅かった頃の話ですが、丸1日置いて、圧締を外し、削り作業、仕上げに持っていったのですが、塗装工場で指摘されたのです。
「矧ぎ口が凹んでる・・・」。そうなのです。真っ平らに削ったはずが、矧ぎ口部分がわずかに凹んでいるのです。塗装しなければ視認できないほどのわずかなものでしたが・・。
これは矧ぎ口に付けたボンドの水分、および矧ぎ作業の過程の余分なボンドの水洗い工程で、その部分にかなりの水分が供給され、湿潤状態におかれることなどで木が膨らむのですね。周囲の含水率と平衡な状態まで戻らないうちに平滑に削ると、しばらくしてこの膨らんだところが痩せてきて凹んでしまうわけです。
これが原因です。
どれだけ置けば大丈夫かは季節、環境、矧ぎ口の面積 他 ケース バイ ケースですので一概に申せません。(経験を積みましょう)

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