工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

陶芸家 小川幸彦 回顧展

陶芸家 小川幸彦さん(1998没)の七回忌の機会に回顧展が地元島田市で開催されることになりました。
会場は「島田市博物館」、8月6日〜9月25日の会期です。

多くの方にご覧いただけるようご案内します。

小川幸彦 陶芸の世界
 〜須恵器から志戸炉焼きまで〜
・会期:8/6(土)〜9/25(日)
・会場:島田市博物館 (問い合わせ:0547 371000
【博物館講座】
・開催日:8/28(日)
・内容:小川幸彦の作陶について
・講師:阿部和唐(陶芸家)、鈴木正彦(陶芸家)

今日は少しこの小川さんとの交流を話してみましょう

1989年頃だったか、静岡市内の良く知られた飲食店の新規店舗内装を請け負い、カウンター、テーブル、椅子などを制作させていただいたのでしたが、小川さんとはこのオープニングパーティーでご紹介を受けてからの交流でした。

最初の印象はむき身の日本刀が振り上げられているかのような人で、あまり良い印象ではなかったというのが本音です。

ボクの手がけた家具へのいくつかの評価を皆の前で披露されたのでしたが、このことがあまり良い印象ではなかったことに繋がったのかもしれません。
決して酷評というものではなく、造形的な領域での批評であったのですが、それは見事に正鵠を射るもので、「この男は一体何者なのだ。陶芸家のくせに木工のことがいやに詳しい…」たじたじとさせられるものでした。

小川幸彦3
炉器凡字文瓶子

小川幸彦2
炉器線文偏壷

小川幸彦1
志戸炉釉大鉢


その後は、たまたま当工房の近くに窯を構えていらっしゃったことなども幸いし、ご夫婦で拙房へ遊びに来てくれたり、こちらからも伺うようになったり、またいくつかの美術展をご一緒させていただいたり、といった関係が造られていったのでした。

また新たな店舗立ち上げに小川さんが建築全般のプロデュースをし、ボクが什器、家具を製作するといったことなどもやっていました。
その間に美術、工芸のことを何も知らないボクにそれとなく美意識、工芸家の生き方等々、多くのことで世話になったものです。

小川さんは明治大学を卒業後、京都、岩淵重哉 氏に師事し、20代で日本伝統工芸展に連続4回の入選を果たし正会員になるなど、どちらかといえば天才肌の陶芸家であったようです。

そうした若い頃の話の中でも興味をひいたのは「谷川徹三」氏からの高い評価が与えられていたということでした。
谷川徹三といえば哲学の大家とし著名な人でしたが、同時にまた芸術、文明論などの著作も多く、骨董のコレクター、目利きとしても良く知られた方でしたので、「轆轤を挽かせれば、東西多くの陶芸家のなかでも小川の右に出るものはいない」といわせたという話には普段のある種のはちゃめちゃぶりを知る者としてはオドロキでもありました。【谷川徹三】(=谷川俊太郎の父)

彼の焼き物は、とてもシャープで、繊細な線と、釉薬に依存しない灰釉、自然釉が特徴的ですが、少量の釉薬を流し掛けしたもの、筆で垂らした点描などには静の中に動をもたらし一幅の抽象画を見せてくれてもいるようでした。

しかし陶芸で1番に重要なことは、やはり「土」なのだ、ということでした。
「今ではどこにいてもどこの土でも手にはいるかもしれないが、如何に自分の土を見つけ、確保するかが勝負だ」と伺ったこともあったが、やはり素材から与えられる力に工芸というものが依拠しているということをあらためて教えられたのでした。

若い頃から一貫して須恵器の習作、研究に勤しんでいたというのも、結局は「土との対話」を探し求めての作陶活動だったように思います。
日本伝統工芸会の正会員ではありましたが、いつの頃からかそうした会との付き合いも疎遠になっていたようで、独自の道を歩んでいたようでした。

実力から考えて見て、必ずしも広く多くはない知名度、ファン層のようでしたが、しかし全国に彼の力量を見抜き強い紐帯で繋がっていたファンは決して少なくはないようでした。
多くの陶芸ファンが死去の知らせを聴いて、散逸している作品を何とか自分のものにしようと浅ましいぶんどり合戦を繰り広げたことも、彼のその実力を示してあまりあることなのかもしれません。

東大寺長老の清水公照 師とは深い交流があったようです。
支援者でもあったのでしょうが、書画を能くする師でもありましたので、彼の窯に居留し泥仏をひねり、2人展なども開いていたものです。
その際、木製ベース制作のお手伝いをさせていただくといった個人的にも印象的なことなどもありました。

残念ながら病に倒れ、その後の死去の前後に至る経緯も壮絶な闘病と、葬儀全般にわたって彼らしい最後を見届けることになったことはとても印象深く思い返されます。

これにつきましては、近く改めて記述します。
小川さんの長兄は、ある仏教界の理事をしていたのでしたが、彼の遺言は「葬式するな、墓造るな…」でしたので、周囲は大騒ぎ。
写真は京都書院【陶】「小川幸彦」より
 3/30追記しました

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  • 前略 栃木県小山市で「あるてざなあと匠」というギャラりーをしています。小川幸彦先生の個展がギャラリーオープンの杮落としでした。初めてお会いして4時間位さまざまなお話を伺いました。またその作品に心引かれておりました。
     今回、吉筋恵治先生からこのお話を伺い、たびたび検索していました。夏是非拝見にいく予定です。ご成功を祈念しております。

  • 茂呂さま comment 感謝いたします。
    この記事にはコメントとしてはついていないものの、数人の方からお問い合わせがあったり、お訪ねいただいた方もいらっしゃいます。
    一様に小川さんへの追慕の念を示されます。
    夏の回顧展は楽しみですね。
    サイト拝見しました。良い作品をコレクションされています。

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