工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ピンルーター、その汎用性

ルーター1

前回に引き続き、キャビネットの機械加工の一部をご開陳。

今回はピンルーター(ルーターマシーン)の活用。
かつても何度か触れてきた繰り返しになってしまうかもしれない(ネタ切れか?)。

【天秤指しの胴付き部分のカット】
まずは天秤指しの胴付き部分のカット。
切削肌、切削力は大きな刃物ほど良いが、ピンの胴付き部分のカットには当然にも細いビットでないとダメ。今回は6mmのストレート刃を装填。

オスメスとも、裏、表、両方向から2度に分けて切断(ルーター切削ではバリの悪影響は少ないため、片側から1発で裁ち落とすことも可能だが、細いビットでもあり負荷を考慮したもの)。

〈ルーターマシン選択について〉
・こうした作業は丸鋸傾斜盤では全くできない相談。
・手ノミでの切削は、精度が出しにくい。生産性が低い。
・ハンドルーターでも同様の切削が可能。しかしピンルーターとの比では生産性に劣る
  ピンルーターは切削ポイントの視認性が優れている。
   (ハンドルーターは外装が邪魔して回転軸周囲の視認性が悪い)
  ピンルーターは寸法設定が簡便
・他の機械の応用はどうだろう?
 帯ノコ、糸鋸、あたりの活用も考えられなくはないが、
 胴付き切削において精度比較の対象にはならない

ルーター2

手ノミ

ルーターマシンでの切削は80%ほどまで。隅が残ってしまうので、ここを画像のように当て木を使い手ノミで一発切削。

あらかじめピンルーターで切削された胴付き部位にノミ裏を合わせて切り落とすだけなので、超簡単作業。
この場合のノミは鎬であることは言うまでもない。

【段欠き加工】
段欠き加工もルーターマシンを活用するとすこぶる快適。
(ここでは裏板パネルのための段欠き)
まず、第1段階として、丸鋸傾斜盤でカッター切削をしておく。これがあくまでも基本。
なぜ基本かと言えば、丸鋸傾斜盤でのカッター切削は圧倒的に高精度、かつ高生産性であるということ。
必要量の切削断面を1発で軽快にカットできるということと、ケヒキ刃が付いていることで、切削肌が美しいことにある。

段欠き

最初から全てをルーターでやるというのはどうか。
機械、および刃物の特質上、ルーター刃とカッター刃を比較した時、丸鋸傾斜盤+カッターの方が圧倒的に高性能(周速度の差、刃物回転方向の差、などあらゆる点で)
ただ、大きな直径を持つために、端末が大きく残さざるを得ないことがある。
この残ったところをピンルーターで限界近くまで切削させる。

画像の2枚重ねの上がカッター切削を終えたところ(末端残しがシビアであるために、焼けが入っている → パネルが納まるところなので、全く問題はない)。
下がピンルーターでさらったところ。

もちろん、これで完全というわけではないが、この状態で組み立ててしまう。
残りは組み立て後の、仕上げ削り(メチ払い)工程でここに交接してくる相手側の段欠き部分に合わせて手ノミ1発でさらえば良い。
(つまり組み立て前の段階で完全にカットしておこうというのはかえって賢明ではないということ。)

【その他】
画像では、蹴込み台輪、天板に取り付ける幕板などの、メチ細の大入れ部分。
幕板のように長い距離であれば丸鋸傾斜盤であらかた切削しておき、残りをピンルーター。
距離の短いところはピンルータのみで。

なお、この台輪、幕板などは、構造的パーツではないために、ホゾとしての機能は不要。
あくまでもイモではなく、位置決めと、接着強度のためのメチ細である。

ルーター4

【余談】
暑い日が続く。
ボクの暑さ対策
その1:“暑い、暑い ○▽■×”とわめかないこと
    日本の夏は暑いというのが相場
その2:早朝に工場に入り、昼休みは長めに取る
その3:シャワ−を浴びた後の昼食後、軽くお昼寝を取る。
    10〜15分ほどの短い睡眠で効果有り。長いとかえって疲れが残る
その4:適度な水分補給は必須だが、摂りすぎないことも重要
    胃液が薄くなり、食欲が減退する
その5:良質なタンパク質の食事とビール、スイカ、
    ビールはともかくも、あまり冷たいものばかり摂らないこと
その6:夜更かしせず、良質な睡眠を摂ること
    
ボクは体質もあり、痩せぎすではあるものの、夏バテというのはあまり経験がない。
体重も年間、ほとんど増減がないしね。
無論、真夏もエアコンなど縁のない木工所での作業であるが、かえってこのことが幸いしているとも考えられなくはない。
エアコンの冷気を受けることでの体調悪化からは無縁であるということだね。

良い仕事をするためにも体調管理と安定的な精神状態は必須。
明日23日は二十四節気の「大暑」、ご自愛ください !!

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 機械の選定の参考に、このブログ内のピンルーター・面取り盤・縦軸についての記事をひと通り読んでいるのですが、ピンルーターの有用性についていまいち掴めていません。

    面取り盤・縦軸に関しては、例によって「危険な機械」ということでまともに使い方も教わっていませんでしたが、このブログの記事を読むことで、ルーターテーブルの延長として想像ができ、有用性も理解できました。こちらは導入を決めています。

    そこでピンルーターはどうするかということなのですが、紹介されている使用例を読む限り「刃が上から出ている」ということが一番のアドバンテージに感じました。

    段欠き、溝堀、底さらいなどは、刃が見えたほうが作業しやすそうです。
    また、ヘッドの昇降で途中からの加工が簡単にできるというのもいいですね。

    しかし、上記の作業は工夫次第で他の機械でも可能に見えますし、倣い加工や面取りには、面取り盤・縦軸のほうが向いている場合もあると思います。

    今のところピンルーターでないと不可能な作業があると言うよりも、他の方法で加工するための「工夫」にかかる手間と作業性向上に対する投資、という認識ですが、合っていますでしょうか。

    また、ピンルーターのヘッド昇降の機構は、画像を見る限りボール盤のような仕組みではないようですが、どこが動くのでしょうか?

    短くまとめようと思いつつも、例によって長文になってしまい申し訳ありません…
    中古機械の中では比較的高いので、どの程度必要な物かと思案しています。ご意見いただければ幸いです。

  • >短くまとめようと思いつつも、例によって長文になって
    いえいえ、motorajiさんほどには、私は要領よく回答できないかも知れません。

    ▼木工加工プロセスにおける機械の選定はたいへん重要なことです。
    加工目的、加工頻度、習熟練度、などにより異なるのは言うまでもありません。

    ▼一般には安全性、切削性能などから、丸鋸昇降盤で行える作業であれば、
    それを優先させるというのが基本です。
    その理由の詳細まではここでは紙面の都合から詳述は避けます。

    ▼次いで、丸鋸昇降盤では無理な加工を、ピンルーター、高速面取り盤、あるいはハンドルーターなどで補うという考え方になります。

    ▼ピンルーターの特性(有用性)については、過去何度も語ってきているようですので十分かと思いますが、しかし聡明なmotorajiさんから不十分さが指摘されるようであれば、やはり説明不足であったと反省多であります。

    ・高速面取り盤との比較で言えば、より汎用性が高いのがピンルーターで、高速面取り盤の方は、面取り、および倣い切削に特化した(他にもいくつかの機能を発揮させることができますが)ものと考えることができるでしょう。

    ・ピンルーターは
    >倣い成形(刃物が〜40φほどまでの制約があるので、切削性能もそれに規定される)
     逆に高速面取り盤が40φ〜という制約があるのに比し、ピンルータは小さな曲率の成型も可能
    >大入れは高速面取り盤ではできない、
    >底さらいはルーターでしかできない。

    ⌘ なお、ご指摘のヘッド昇降とテーブル昇降の作業性の差は大きいです。
    ただヘッド昇降の方は市場には明らかに少ないです。(無いわけでは無く、少ないと言うだけ)

    ‥‥ハンドルーターとの比では
    >切削性能は圧倒的に優位(切削力、視認性、固定定盤の安定性)
     倣い成形など、ハンドルーターでは危なっかしくてできない。

    ・高速面取り盤は、その圧倒的な切削性能(周速度、大きな刃物が装着可能 ← 幅100mmほどの椅子の笠木も一発成型できます)から
    椅子などの曲面成型にはお薦めです(ピンルーターでもできないわけではない)

    (機械での成型は、手加工と異なり、複製加工において圧倒的に優位性があります)

    このように、それぞれに特性とスタイルの差異があります。

    以上は一般的な評価ですが、
    何を対象とした加工をするのか、どのような造形の加工を目的とするのか、によって、その選択の視座も異なってくるでしょう。

    これ以上はここではそぐわないので、明日にでも電話ください。
    (悪文でやっぱり説明が下手くそだから‥‥‥)

  • 少し補足させていただきます(質問項目への回答適正化のため)

    >ルーターテーブルの延長
    普段から「ルーターテーブル」なるものをお使いの方からすれば、そのような位置づけになるのかも知れませんが、

    まずは、ピンルーター、および高速面取り盤(Shaper)というものが開発され、後にその簡易版、あるいはハンドルーターの拡張形として、「ルーターテーブル」なるものが出てきた、というのが正しい解釈だろうと考えます。

    ご指摘のように、
    ▼「刃が上から出ている」
    ▼刃が見えたほうが作業しやすい
    ▼ヘッドの昇降で途中からの加工が簡単
    ということになります。

    これらの特性は、その作業性、安全性、汎用性、拡張性などにおき、決して些末な要素ではなく、極めて本質的なものと評価されるべきでしょう。

    したがいまして、ピンルーターが設置されているとすれば、「ルーターテーブル」の出番はほとんどありません(優位性が無いから)

    ただ1つ、「ルーターテーブル」なるものに世話になることはあります。
    その希有な事例とは、直角の基準面の下に刃物があるということでのメリットを買う場合です。
    平角断面の角の面取りなどはとても作業性が良くなります。
    平角のどの角の部位でも、同じ条件で加工物に接するという機構であるためですね。
    (ピンルーターですと、定盤の位置を変えねばなりません)

    なお、補足しますと、国内メーカーのピンルーターには、装着できる刃物の径に違いがあることを知っておいてください。
    一般には12φ(このジャンルの最大のシェアを有する庄田鉄工は全てこれです)ですが、16φのチャックを装着できるマシンも多くあります(丸仲鉄工、菊川鉄工など)
    言うまでもありませんが、16φには大きな径の刃物が取り付け可能です)
    径が大きいと、刃物の周速度が高まり、またスクイ角に余裕が出て、軽い切削で、かつ切削肌も美しく、逆目にも強いと言うことになります。

    最後に
    >ピンルーターのヘッド昇降の機構は、画像を見る限りボール盤のような仕組み,

    大きく分け。2つのタイプがあります。
    市場におき圧倒的なシェアを誇る庄田のマシンなどは、足踏みペダルでテーブル(定盤)を昇降させ、固定された位置で高速回転する刃物に被加工物を当てていきます。

    逆にテーブル(定盤)は固定されており、ここに高速回転する刃物が装着している主軸が足踏みペダルで降りてくる、というスタイルのものもあります。

    ここでは詳述しませんが、拡張性、汎用性、安全性としては後者の方がはるかに優位性があると思います。

    ここではこれまでとします。

    なお不明なことがあれば何でもどうぞ。

    (これらの中古機械は決して高いものではありません。手押し鉋盤、テーブル傾斜昇降盤、などと同等価格帯と考えれば良いでしょう)

  • 丁寧なご説明ありがとうございます。
    僕の文章力も褒められたものではないと思いますが^^;

    ピンルーターのほうが汎用性が高いというのは、言われてみればたしかにそうですね。いままで、上に挙げたような丸鋸では出来ない細工は、ハンドルーターとそれをひっくり返したルーターテーブルでできる範囲の事しかしてこなかった(できなかった)ので、使い分けについて具体的にイメージできていませんでした。

    また、整理して考えてみると自分がいちばん気になっていたのは、いわいる縦軸と呼ばれるルーターテーブルが200V仕様になったような機械と、ピンルーターの使い分けについてだった、ということがわかりました(その点、質問の仕方が曖昧でした)。この2つに関しては、刃の取り付け方向(上下)の違いが大きいのではないかと思っています。

    お電話で相談に乗っていただけるとのことですが、お忙しいところご迷惑になりませんか?特別急ぎませんので、今日以降で都合のよい時間帯をメールにでも送っていただければと思います。

    ※本当は工房の見学をさせていただいて、直接お話もできたらと思いつつ、意外と遠いので行けずじまいです……でも、いろいろと興味が広がっているので(笑)、やっぱり近いうちにお邪魔させて頂きたいなと思っています。。

  • 補足を読む前にコメントしてしまいました。

    2つのご回答で、疑問が解け、ちょっと間違っていた認識が修正されましたので、お電話してまでお時間をいただく必要はなさそうです。

    また、機械の構造や価格に関しては、近くの機械屋さんにも問い合わせてみます。ありがとうございました。

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