工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

工場見学の効用

今日は2つの木工家具の工場を見学させていただく。

静岡は全国でも有数の家具産地であるが、うちは関連する組合、団体などには所属しておらず無所属の一匹狼、いや一匹うさぎ (^_^;

そんなわけで業界との付き合いはあまり無い。
ただ全く無いというわけでもなく、先日はある中堅メーカー従業員の飲み会に誘われ、いそいそと出掛けたりもするので、ほどよい距離でのお付き合いというところ。
そんなわけで中小メーカーの工場にお邪魔する機会がさほどあるわけでもないので、工場見学ともなれば興味津々というところ。
1つめは「bases」(バーズ)という中堅の家具メーカー。

bases
社長の平盛氏とは起業の頃から面識はあったものの、お訪ねするのは今回が初めて。

一時期、朝日新聞県内版に連日広告を打つなど、その積極経営は傍目からも感嘆するほどのものだったが、そうしたことも奏功しているのであろう、ショールームを併設した300壺ほどの建屋はまごうことなく家具工場の佇まいで、この不況期にも関わらずとても活気のある職場だった。


作風はいわゆるトラッドな洋家具、アーリーアメリカンスタイルのものをモダンテイストで味付けしたという風。

そのベーシックさというものはデザインにおいて見られるだけではなく、仕事のすべての内実において貫かれているようで、破綻無く安心して見ていられる。
中堅メーカーとはかくあるべし、という堅実路線の正統性を見る思い。

もちろんプロパー商品の製造だけで回っていくほど甘くはないのだろう、いくつかのOEMも手掛けているようだが、それもまた信頼の証しでもあろう。
家具産地・静岡は昨今、寂れていくばかりのようでもあるのだが、こうした堅実な中堅メーカーはそうした悪しき量産家具のイメージとは一線を画し、良質な家具づくりの文化を育んでいってくれるものだろうと思った。
お忙しい中、丁寧な解説と心温かい接遇をいただいた平盛社長にはあらためて感謝を。

次にお邪魔したのは浜松の椅子専門工場の「イスヤ工芸」さん。
こちらは恥ずかしながら、その存在すら知らなかったが、大きな椅子製造会社である。
戦後間もなく百貨店家具部からスタートし、その後、ヤマハ浜松からの依頼に応え、いわゆるピアノ椅子の製造を軸として、三越家具のアーリーアメリカンシリーズ、あるいは業務用椅子の大量生産など、幅広く、量産スタイルで一貫生産している。

ボクたち工房スタイルの職人からして、そうした量産工場の見学はどれだけの意味があるの?と、訝る向きもあるやも知れないが、いえいえ、いろいろと勉強させていただけるのだった。
1つのラインを弛まず、美しい動線で働くその姿は見ていて気持ちの良いもの。
「労働」の尊さというものがそこにはあるからだね。
徹底した業務作業管理を貫くことで、無駄なものを廃し、合目的的に洗練させていくことでより高次のレベルへと到達していく。
1つの機械に向かうにしても、そこには無理や、無駄はない。
これらは木工という産業が前時代型のものであることで救われている側面もあるのだろう。

これが先進的なIT関連モノ作り工場では、ブラックボックス的な領域がほとんどで、量産ラインに立つ労働者は、さぞ肉体的、精神的平衡を保つのは困難ではないかと考えられるが、子供が座るかわいらしい姿の椅子が仕上がっていく過程というものは、本来のモノ作りの喜び、労働の美しさも失われていない、と読み解くこともできる。

しっかし、今日の雨はすごかった。
工場見学は午後からだったので午前中は自分の工場に入っていた。
扉など、框ものをいくつか組むスケジュールだったが、この激しい湿気の中ではとても叶わず、断念。
養生の布団から出すのは憚られるものだった
切り替えて、機械の手入れ、刃物の研ぎなどで費やす。

梅雨明け10日、とは良く言ったもので、今月17日に梅雨明けしその後ちょうど10日間厳しい炎暑が続いた。
一昨日あたりから吹く風の色も変わり、あれっ、と思っていたら炎暑が止み、いきなりのこの大荒れの天気。
豪雨の中、東名高速道路を浜松までの往復。視界数mという路面状況下での走行は恐怖感すら覚えるもので、さすがに疲れた。

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