工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

切削方向を考えて(面取盤の安全な活用 ─ 1/2)

横浜方面への所用の帰路、親交のある家具メーカーに表敬訪問。
独立する以前から世話になっている会社なので、その交流も20数年にもわたるが、久々の訪問となった。
5年ほど前に知人から紹介を受けた訓練校出の若い木工志願者を社長に頼み、採用してもらっていたのだが、その人の賀状にはここを退社して独立自営へとリスタートを切るとの決意が記されていた。
おやおや、それでは社長への挨拶も必要だろうからと訪問を思い立った。
用途地域では工業区域にもなっていると思われる立地環境にその会社はあるのだが、立派なショールームを併設し、いくつもの様式家具のシリーズから、オリジナルなデザインのものも含め、なかなか壮観な佇まい。
久々の訪問だったが、社長はじめ、職員の方々も快く迎えてくれ、活気ある工場の雰囲気に心浮き立つような思いにもさせられた。
その退社する人は業務中でもあり、さほど詳しい話を聞くことも適わなかったが、職場の雰囲気にとけ込み、活発に仕事をしているところを見ただけで、5年という時間の蓄積を見る思いがしたし、工場長などとの話の端々にも、彼女を失うことの名残惜しさというものを感じ取る事が出来たので、よく頑張ってくれていたのだろう。
あれこれと社長に工場内を案内してもらっていたとき、ふと彼女を見ると、面取盤(SHAPER)での切削作業を始めるところだった。
この工場には、いわゆる洋家具を製作するにふさわしい製造機械が設置されているのだが、面取り盤は3台ほど設置してあるようだった。
多くの家具メーカーが量産態勢にふさわしいフラッシュ構造の生産システムに転換していく中にあって、ここでは頑なに無垢での工法にこだわり、高品質な家具製造をしているのだったが、しかし生産性を追求するための機械設備などへの投資は怠るようなところではなく、とても良く考えられた製造システムを考え出しているように伺えた。
余談だが、うちで桑原の600mm自動一面鉋を導入しようとした際、中古とはいえ小型車が1台買えるほどの価格ではあったので、少しビビリ、ここの社長に相談しアドバイスを受けたのだったが、それは絶対買うべき ! との一声で決まったものだ。
ボクなどは松本民藝など数カ所でそれぞれ短期間の修行をしていただけだが、こうした望ましい家具工場での修行は、恐らくは独立後の製造設備の設置への考え方はもちろん、制作スタイルの高度化に大いに寄与してくれるはずである。
思うのだが‥‥、訓練校など基礎教育を終えて、実践的な現場での経験も経ずにいきなり独立起業する人も少なくないようなのだが、これは薦められる話しではない。
製造設備が整備され、数十年にもわたる職人たちが蓄積させてきた汗の結晶を丸ごと浴することができるというのは、何にも勝る資産の継承であり、これを獲得せずして良い家具作りができようか。
(続く)

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