工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

雇用不安とフランスゼネストとメディアの相関

昨日は雇用不安と手仕事の相関などという、ちょっと意味不明なタイトルで茶を濁したが、今日は金融破綻とこれをめぐる人々の対応を、メディアの視点から視てみる。
29日のフランス全土における勤労者の生活防衛、雇用維持と賃上げを要求する主要8労組が呼び掛ける大規模なゼネストは国内メディアも取り上げていたので、見入った人も多いことと思う。
250万人の参加(警察発表でも100万人)というから、その規模には驚く。
こんな画像(AFP BB News)も配信されていいるが、意外と平穏で負傷1名、逮捕13名とか。
いつものことではあるが、今般の金融破綻の影響は労働者に直撃していると言うものの、その怒りというものがなかなか大きな声となって表れないという日本的なる平穏さには苦笑いするっきゃないのだが、さすがに「自由、平等、友愛」が貫かれるというお国柄だけあって、フランスの民衆は強いね。
怒りは怒りとして組織され、その意志がが抗議行動として貫かれる。
健全で当たり前の民主的手法がちゃんと生きているんだよね。
経済悪化を労働者だけのせいにするな、という叫びだ。
今般のアメリカのサブプライムローンの破綻に発する国際的金融収縮からの経済悪化、リセッションは、多くの専門家が語るように強欲資本主義による帰結であり、決して「自己責任」というもっともらしい物言いで労働者だけにしわ寄せをするのはお門違いというわけだ。


今回の鉄道などの交通機関におけるゼネストのTV報道を見ていると、取材を受ける市民の反応が、日本とは何かが違うんだね。
彼らは、ストライキで鉄道が停まる、学校が休みになる、ということへの対処として、お父さんが子供を引き連れ、隣人宅に子供を預けに行き(臨時の託児所だね。子育てをシェアしているという感じでもある)、自分は自転車をガレージから出して、通勤の足にすることを強いられているのだが、何かインタビューでの受け答えは、自然と笑みがこぼれ、仕方ないですね〜、デモもストも労働者の権利ですから、などと諦念しているという感じで、ほぼ皆さん共通している。
日本では、まずこのようなストライキも無くなって久しいので、若い方はストライキなどというものへの概念も無いだろうと思われるが、恐らくはスト決行をすれば、利用者からは強い憤りの言葉が投げつけられることが容易に想像される。
憤りを向ける方向が違いだろ、と言いたくもなるが、この国では働くものの権利の主張すら共有してもらえず、孤立させておいてへっちゃらだ。
中曽根政権以来の労組潰しもほぼ完成されたかに見える今の日本だが、この年末からの派遣切りと、これをめぐる「派遣村」報道の裏に隠されているのは、本来の労働者が抱える問題を組織すべきところの労組、支援組織、政党が全くダメになってしまっていることの表れだろうね。
いわば、こうした労働者、市民たちが依って立つべきところの公的空間というものが、今の日本には無くなってしまっていることの悲劇なのだろうと思う。
確かにこうした傾向というものは日本に限らず世界的なもののようでもあるのだが、しかし250万人が喜々として街頭を支配する労働者たちと、これを苦笑いしながらも暖かく包摂するフランス市民。これもまた、一方の世界の現実であることを見失ってはいけないことだろうと思うのだ。
それとともにメディアの扱い方に大きな差異があることは知っておいた方がよい。
ボクはNHK BS1の外報を良くチェックするようにしているが、紹介したフランスのTV取材は、「France 2」という公共放送で、バランス良く市民、労働者の声を届けてくれるが、どこぞの国の公共放送などからはほとんどそうした声が届かないばかりか、デモなどの取材報道などは皆無に近い。
最近「朝日新聞」の声欄で、そのことに触れていた投稿があった。
01/23付けの「創刊130周年記念特集」での池澤夏樹氏と船橋主筆の対談があり、ここで「イラク開戦の前、アメリカでもヨーロッパ諸国でも大規模な反戦デモがありましたが、日本ではとても低調だった。世界の動きへの関心がない。日本の社会への関心さえ薄い。本当に自分の身辺にしか興味がない」(池澤夏樹)との認識に、この声氏が、訝った。
「大勢の人を集めた抗議デモが各地であったが、新聞も含め、メディアが全く伝えてくれなかった」というのだね。
池澤氏の認識の多くは賛同できるが、しかし声氏の異議には全く反論できないだろう。日本のメディアは死んでしまっているかのようだ。
日本のジャーナリズムは一体どこへいってしまったのか。TV芸者になりさがった輩ばっかし。
悲嘆ばかりしていても詮無いので、関連して、明日の夜のTV番組をここで紹介しておきたい。
■ ETV特集「作家・辺見庸 しのびよる破局のなかで」(NHK教育TV)
■ 放送日程:2月1日(日)午後10時00分〜11時29分
〈辺見 庸〉
共同通信社の外信記者として鳴らし、芥川賞受賞(『自動起床装置』)後、退社。
フリーの立場で執筆活動に専念。
数年前、講演中に脳出血に倒れ、また癌にも冒された身を引きずりながら、精力的な執筆と講演活動を続けている。
読者へも態度表明を強いるような厳しい批評精神と強い倫理観で貫かれている。
近年の論考からはもちろんいろいろと示唆を受けているが、チョムスキーとの対談は印象的だった。
*〈公式サイト〉(Blog)辺見 庸

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