工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

栃拭漆座卓

栃拭漆座卓a
栃の座卓。
当初の構想では“きはだ”という材種で制作する積もりだった。
10数年前に製材したもので、素性の良いものを在庫していたからだ。
しかしいざ木取り段階で確認すると、きはだでは脚部に必要とされる厚い板、3寸板を製材していなかったことが分かり、栃に切り替えたという経緯だった。
結果、栃に漆という手法は和家具としてスタンダードな取り合わせだし、なかなか良い風合いに仕上がった。
この栃はさらに旧く、20年近く前に材木市で競り落とし、製材在庫してきたもの。
画像は若いファミリーが住まう住宅の内部に1室設けられた炉が切られた和室、つまり茶室に納品された座卓である。
この納品設置にあたり、主人はわざわざ茶花(石楠花)を添え、そしてお軸を改められた。
お茶会に臨む亭主のもてなしがここにはある。
この茶室はここの若いご亭主が設計し、床板から床框までご自身で探してこられ、また施行にも納得のいくまでやり直しをさせるなどの懲りようだったそうだ。
考えても見ればお茶室に限らず、住まいというものはそうありたいもの。
そして過分にもはるか遠方の職人に家具制作を依頼してくれた。
やはり雑然とした生活臭のある部屋ではなく、こうした非日常の空間に置かれることで、この卓も一段と見栄えがしてくるから不思議なものだ。
墨痕淋漓とした書と、果たして釣り合った品格を備えているかは、ご亭主の見立て次第であろうが、作者の手前ということもあってのこと、大いに気に入ってくれた。


まだ就学年齢に達しない子供さんを抱えたご亭主だが、子供達もこの部屋に足を踏み入れるとやんちゃな行動も止み、正座するのだという。
一般には日本の住宅事情からすれば、こうした日常と非日常を切り分けた住まい方を確保することは困難であろうけれども、しかし考え方によってはこのような立派なお茶室を設けることでなくとも、居ずまいを正すというしつらいを設けることは決してできないことではない。
その家族の有り様、子育てにおいて何を大切に伝えていくのか、という心構えの範疇の問題かも知れない。
ボクたちの家具づくりというものも、実はそうした精神的な営みに何某か関わってくるということに、やはり時には自覚的でありたいと思う。
いずれまた、この子供達が就学年齢に達する時には、彼らにふさわしい学習机を作らせていただくことになるだろう。
住まいは家族の風景であり、そこに納まる家具もまたそれに随伴していくことになる。
家族の日常の風景の中に溶け込み、家族の記憶の中に長く留まっていく。

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