工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

機械整備で年越しを

fence

フェンスの直角度をチェック !


今日29日で仕事納めとした。

まぁ一旦仕事を終え、工場の大掃除、の“まねごと”をしたというところ。
決して大きな工場でもないので、所狭しと機械、材料が置かれた状態にあり、加えて様々な切り落とし、端材が散乱。

これらを整理していくわけだが、なかなか当事者としては思い切った処理ができない。
‥‥これは次の機会に利用しよう‥‥、この材種は貴重だから‥‥、この木目は捨てるに忍びない‥‥、などとひとりゴチながらの作業はまったくもって効率が悪い。
「断捨離」[1] というのが流行語になっているらしいが、ボクらにこそ必読書なのかもしれない。

さてところでこうした折節、木工所では掃除よりも重要なことがあるんだ。
木工機械の整備だね。
内部に堆積したダストを落とし、回転部へのグリスアップ、摺動部への注油、あるいは刃物の交換など、来期へ向けリフレッシュさせてやる。

汎用の木工機械などというのは、一部を除けばとてもシンプルな機構を持つ機械であるので、さほどの専門知識など備えていなくとも慣れ親しんだ木工職人であれば十分にメンテナンスができる。
また、そうでなければ日常の仕事そのものにも差し支えるというもの。

これらはいわば木工職人としては常識の範囲内のことであるのでさしたる意味もないわけだが、せっかくだからここで数点書き残しておこうか。

傾斜盤(=丸鋸昇降盤)のメンテナンスに関わるポイント

フェンスの精度チェック

フェンス、いわゆる鋸と並行の定規のことだが、一般には無垢材が使われていることと思う。
うちでは耐摩耗、耐変形ということから、マカバの柾目を使うことが多い。

人によっては耐変形というところを優先し、安易に合板を使うと言うこともあるというが、やはり耐久性から考えれば望ましくない。
また環孔材の材種も同じ視点からしてよろしくございませんわね。

今日はこのフェンスを外し、手押し鉋盤 → 自動一面鉋盤と、さらさらと削り、平滑性を蘇らせ、再接着。(何度も調整してきた板なので、だいぶ薄くなってきた。そろそろ限界か)

その後、定盤との直角、および鋸との並行度の確認(Top画像)。
このような精度確認、修正の作業は極めて重要。
徹底した精度追求を怠らないというのが職業人としての考え方。
日常の加工作業において、快適、かつ高精度な加工が確保できるかどうかが掛かっているからね。

例えば、このフェンスが不定形に摩耗したとしよう。
簡単な話だが、このまま使い続けると、四方胴付きのようにぐるりと鋸を回した場合、見付け、見込み、で微妙な誤差がでてしまうこと請け合いだ。

傾向的に定盤に近い下側がへたるもの。

三日月定規(Miter Fence)の摺動部をタイトに調整

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三日月定規

定規のスムースな摺動と、揺るぎない移動というものを両立させておかねばいけない。
いかにフェンス精度が正しくとも、このMiter定規が揺らぎつつ摺動するようでは良いホゾ加工はできないよね。

傾斜盤の定盤に彫り込まれた溝にぴったりと納まり、全く揺るがないような設定が必要。

簡便にやる方法があるんだ。
この溝に納まる棒の両端末部分の左右エッジを立てれば良い。
溝との緩みをチエックしながら、玄翁で叩き、エッジを立たせ、巾を仮に広げるわけだ。
棒の全域をタイトにする必要は無い。そんなことをすれば摺動そのものがきつくなり、移動が困難になるだけ。

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摺動部はタイトに

この方法もしかし使い続けることで摩耗し、緩みが出るので、その度に調整する。
数分で済んでしまうほどの簡単な調整方法なので厭わずにやれる。

口板の平滑性を蘇らせる

口板も重要だね。
いかに定盤の平滑性が高精度であっても、口板がへたっていれば良い加工はできない。
フェンス同様に、さらさらと削り、そうして定盤の高さに一致するように調整しておこう。
この部分の材種だが、フェンス同様の考え方でいきたいね。

うちの場合、この樺の他、南洋材で比重が1.0に近い、豆科のめちゃくちゃ堅い板があるので、これらも使っている(ハイスの刃で削ると、一度で切れ味が落ちるほどの堅い木だ)
当然にもこうしたところには、フェンス同様、軟材や、合板は使うべきではないよね。

いかに高級な木工機械であってもメンテナンスと調整が不十分であればその性能を発揮させることはできないので、使う職人の機械への愛情と軽快な作業追求のために厭わずにやりたいもの。

今日はWorkBenchのワークトップの平滑度も調整しておきたかったけど、時間切れだった。
年に2,3度、ワークトップをさらさらと削ることにしている。
こびり付いたボンドやらを落としておくことも重要だしね。

いわゆる当て台と呼ばれる日本古来の作業台は樺の一枚板だが、これはそのまま手押し鉋を通せば一発で平滑性が蘇るが、ワークベンチほどの大きさではそうもいかない。
ただ、一般にこの大型のWorkBenchの甲板の構成は3寸弱ほどの巾でハギ合わせている(厚みも3寸ほどのもので構成したい)。
これは単に材料確保の問題からそうせざるを得ないというよりも、反張、変形を嫌うためである。
小巾のものをハギ合わせることで、変形を最小限に押さえることができるということになる。

これを年に数回、横摺りでサラサラと鉋掛けし、平滑性を蘇らせるというわけだ。

手工具の手入れもできなかったので、明日に可能な範囲でやっておこうか。

ハイス刃<超硬刃

なお、以前にも数回触れたことがあったが、手押鉋盤、自動一面鉋盤などのジョインター刃のことについてアドバイスを。

特段の理由がなければハイス鋼の刃ではなく、超硬刃を使うという選択肢を考えてみよう。
ハイスでは、一般の家具材(硬質材)を削ると、たちまち刃こぼれがする。全体の切れ味も早く止まる。

超硬刃はなかなか刃こぼれが出ないし、持ちもはるかに良い。
経験上、3〜5倍ほどのランニングが可能。
確かにハイス刃の2倍強の価格差があるが、それ以上のランニングコストと、快適な作業環境が得られると考えれば、決して高い買いものではない。

うちでは600mmの自動一面鉋盤の刃を超硬刃で3セット、手押鉋盤では1セットを超硬、2セットをハイスとしているが、来期、手押鉋の方も、超硬刃でもう1セット用意しておこうかな。

寒波が日本列島を覆っているようで、またインフルエンザの情報もでてきているようだ[2] 。どうぞ、うがい、手洗い、咳エチケットを心がけていただき、そして良質な睡眠と食事ですね。

年越しの気象予報では大雪の恐れ、とのこと。列島北部、日本海側、岐阜、長野地域の方々はくれぐれも対策怠ることなく。

忙しい年の瀬ですが、心安らかに、お元気にお過ごしください。

《関連すると思われる記事》


❖ 脚注
  1. 「断捨離」(だんしゃり)とは、ヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」をもとに生まれた言葉。(やました ひでこ 著)
    開かずの段ボール、ギチギチのペン立て、積ん読本…モノを断ち、ガラクタを捨てれば、執着も離れていく。(amazon.com、紹介より) []
  2. 北海道、九州北部、宮城県など。
    AH3亜型(A香港型)が最多、次いでAH1pdm、B型の順 []
                   
    
  •  どうやらグリス・アップは明日になりそうです、、。
     年末の、独りの、工房って、いいですよねぇ。 今日はなかなか独りにはなれませんでした、明日こそは!

  • >年末の、独りの、工房って、いい
    年越し、1年間世話になった工房にひとり静かに、最後の作業に勤しみ、あるいは物思いにふけり、というところでしょうか。
    喧噪から解き放たれ、静かに来し方、行く末に思いを巡らすには、良い環境かも知れませんね。
    そこへ子どもさんが駆け込んできて、忙しい現実に戻される ‥‥ ?

    うちも職住隣接という環境ですが、工房に籠もることで、あることに集中できる、ということは少なくありません。

    工房整理も今日で全てを終えるはずでしたが、もう半日ほど掛かりそうです。
    年明け後もいくつかの設計見積などのデスクワークで追われるという実態ではありますが、何事も区切りは必要なようですし、精神的なリフレッシュ、あるいはリセットをするようにしたいものです。

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