工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ブラックウォールナットを後ろから撃たないで !

鉛弾

鉛の弾が


ブラックウォールナットの木取りはワクワクさせられることが多い。
倉庫から引きずり出した状態ではなかなか分からないが、一皮剥くと例えようもないほどの色調豊かな杢を拝むことも少なくない。

ところがこのウォールナット、この樹種固有の、と言っても良いような欠陥があることは知っておいた方がよい。
銃(ライフル、ショットガンなどの)の弾が入り込んでいることによる欠陥だ。

過去3度ほど経験している。(当たり屋か、オレは‥‥‥)
今回のものは白太に近い部分であり、また曲面成形することで除外できるところだったので、胸を撫で下ろした。
(顧客によっては、記念だからそのまま残して欲しい、という奇特な人もいたりするが)

直径8mmほどの鉛の弾だ。
外観からは全く気づかず、そのまま手押しに掛けたものの、それでもその異常さには気づかなかった(超硬刃だったこともあるのだろうか。しかしさすがにその後はその部分だけ傷が残ることになり、刃を替えざるを得なかった)

勝手墨を付けようとした時にキラリと光っていることで気づいた。
あちゃ〜、弾や、どないしょ?

と、ドライバーなどでほじくり、取り出す。
白太から少し赤身に入ったたところに潜り込んでいた。
この弾を包み込んで10数年後に伐採されたというところか。

今回は意外にも周囲への悪影響は少なく、上述のように使い回すことができた。

これは察するに、射撃の練習としてブラックウォールナットの樹木を的にして撃ち込んだということも考えられるだろうし、あるいはまた山中でのハンティングで流れ弾が入り込んだ、ということもあり得るだろう。
建国以来、自己武装が許容された米国ならではの、物言わず、そこでただひたすら屹立しつつ成長する地球上最大の植物・樹木ならではの受難というところか。

さて、ところで、以前にも書いたと記憶するが、こちらは銃痕ではなく、CLAROウォールナット特有の金属潜り込みによる欠陥騒ぎ。
CLAROウォールナットはご存じのように異種のクルミを接ぎ木したことによりもたらされる亜種だが、この接ぎ木の際に使われたと考えられる釘、針金などが潜り込んでいることが実に多く、これも悩ましい欠陥の1つ。
その部分の取り除いた痕の穴だけではなく、周囲に広く、鉄の酸化によるものと思われる青紫の変色をきたし、障害になる。

あるいはまた、これはウォールナット固有のことではないかも知れないが、CLAROを製材していた時、大きな石を包み込んだ状態の個所があり、製材職人を泣かせたこともあった。
彼は口をニッと開き、歯を指さすのだった。
大型の製材機の大音響の中での作業なので、声でのコミュニケーションは難しく、歯を指させば、刃がやられた、の意である。
大きなバールを持ってきて、石を取り出すのである。
忘れもしない、この時は小指の第一関節大ほどの大きさだった。

いずれまた機会があればこうして埋没した石やら鉄砲の弾やらの展示会でも開けるだろうか。

* ブラックウォールナットという材種の一般的な欠陥に関するメモ

国内のWeb上では、ブラックウォールナットは節などの欠陥が多く、木取りに苦労するといった物言いも散見される。
ハズレちゃったんだよね、それは‥‥、と慰めの言葉を送るしかない。

個別の板についての感想は様々だろうから良いとしても、それらを材種一般に拡大解釈し流布されるとなると、ちょっとそれは‥‥、と頭を抱え、口ごもってしまうだろうね。

流通する木材のそうした欠陥は小径木であったり、等級の低いものにごく一般に現れるもの。
こうしたことをウォールナットに傾向的にありがちなどと言った評価を下すのは飛躍が過ぎる。

“個別の粗雑な印象”と材種の“客観的評価”は別に論評するという配慮が求められるというわけだ(特に広く公開されるWeb上ではなおのこと)。

事実、これまで数多くのブラックウォールナット原木を購入し製材してきた経験から言えることは、無欠陥の高品質な特等品から二級品まで多様であり、こうした評価というものは他の国産広葉樹の場合とほとんど変わらず、これは自然有機物として何ら不思議なことではないのだから

hr

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  • 私の数少ない経験では、やはり鉄のクギですね。

    一度は安かったこともあり、クギが入っていることを承知で
    買った板がありますが、クギが2本づつ等間隔に並んでいました。
    1枚の板の中に5-6本のクギが確認できました。
    芯に近い所に直線上にクギがあったため、芯の部分は切り取り
    残りを角材として使いました。
    製材の時はさぞかし苦労しただろうと思われました。

    そんなのを見ると、土地の境界線上に植えられたブラックウォールナットの木を木柵を設置するための柱にした、という感じです。
    クギの場合は特に導管線上に広範囲に渡って青黒く変色してしまうので
    困り物です。

    • acanthogobiusさん、
      >木柵を設置するための柱にした
      なるほど、ご名答 !、という感じですが、そんなのも流通しているのですね。
      ビックリです。 見てみたかったです。
      ブラックウォールナットの場合は、やはり色調に大きな価値がありますので
      困りますね。

      次はきっと弾ですよ。(笑)

  • こんにちは。
    ウォーナットに鉄砲の弾、ビビッときて初めてのコメントですぅ。

    私にも経験がありますよ。
    そこだけ色がヘンだなぁとは思ったのですが、
    プレーナーで削る時に出ました。泣きました(笑)
    アメリカのことですからチェリーなんかでもあるんでしょうか?

    「ブラックウォールナット・・関してのメモ」ですが、
    お話しは分かりますぅ。
    等級という考え方からすればartisanさんの言うとおりでしょうし、
    品質というのも人それぞれのとらえ方ですよね。

    私も若い頃は安いものばっかり使ってましたが、手間ばっかりかかるのでやめました。
    いい材料を使う方がキモチよく仕事ができるし、手離れがいいし、かえってコストを押さえられ、しかも良いものができます。
    「安物買いの銭失い」ってことわざはその通りですね  汗

    ブログ応援してま〜す

    • athena2さん、ようこそ、です。
      ご同類がおられましたね。
      鉛ですので刃には大きな欠損は無かったかもしれませんが、大変だったですね。

      >チェリーなんかでもあるんでしょうか?
      ウォールナットの場合↑acanthogobiusさんの見解にもありますが、栗などと同様に比較的人里に近いところにあると思われますので、射撃練習の的になりやすいのではないでしょうかね。

      後段の方は仰る通りです。材料も安くはないですが、今の日本の場合、労働単価の方が比重が高いですから。
      エールありがとうございます。athenaというハンドルネーム、ステキですね。

  •  ウォールナットの安いものを集めて「苦労している、、、」と嘆いているひとは意外と多いですね。 指物をする為にあるような木だと僕は思っていますが。
     見る目、作る技術が無いひとによって、材料のイメージが使用者に固定されていくのは迷惑な話、でもそれを逆手に取れというのが僕の親方の教えでした(笑)。
     木を多少知っていると言われる方に「栗は堅いでしょう」とか「欅は削りにくいんですよね」とか「檜だったら加工賃は安くてすみますね」と言う言葉を頂いて、「そうですね」と言う大きさはまだ僕には無いです(苦笑)。

    • たいすけさん、
      >逆手に取れる
      いろんなことを含意する考え方と思われ、とてもおもしろいお話しです。
      トロの部位だけ使うことが高品質の条件というものでは決してなく、
      例えば節など自然素材ならではの様々な表情を適切に活かすことで、
      美質を獲得することに繋がるということもありますし、
      実はそういうことも作り手の力量の1つになるのじゃないかな。

      トロばっかしじゃ、まるで突き板を使った合板と変わらんでしょ。

      私が高く評価する木工家のDさんは、製材屋の片隅に打ち捨てられている割れてしまった材をあえて取り込み、造形豊かですばらしい作品世界を作る人です。

      いわば量産家具において木材はあくまでも工業製品におけるマテリアルの1つでしかなく、木取りで難儀するようなものは忌避されますが、
      私たちはそうではなく、自然素材としての木材を単なるマテリアルとしてではなく、
      美質の観点から捉え直し活かすような立場に立ちたいものです。

      栗は栗ならではの、欅は欅ならではの、檜は檜ならではの固有の特性と魅力がありますので、
      加工性というのも、単にコスト換算から云々される以前に、
      作り手としてはそれぞれの個性を楽しむという要素が、実は大きいというのが、この世界の魅力であり、作り手の特権でもあると思いますが如何でしょうか。

      また作られたものにもそうした作り手の息づかいが封じ込められているものですので、
      当然にもこれらは使い手へと伝わっていくものなのですね。

  •  、、それぞれの個性を楽しむという要素が、実は大きい、、
     
     全く同感です。好みが違ったとしても、好みを共感できるところがいいところです。

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