工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

東日本大震災・災害ボランティア活動日録(6)

被災地・災害復興支援活動

3月24日(地震発生から13日経過)天気:晴のち曇り

ボランティアセンターへの活動登録は1日単位でのものとなっており、この日も朝9時に受付を行い、被災者からの依頼に応じ、適宜マッチングされ活動対象地域へと向かうのだが、2名は前日の継続となり、ボクは炊き出しの手伝いを担うことに。

朝9時の受付には十分な時間の余裕があるので、ボランティアセンターの責任的立場の人に掛け合い、石巻近郊の壊滅的地域の様子を伺うとともに、地図を含めてそれらの地域へのアクセス方法を確認する。
最初は少し渋ったが、事情を話すと快くアドバイスをくれた。

この日は9時までに野営地、石巻専修大学に戻ることを条件とし、近郊で最大の大津波の被害を受けている「雄勝町」(おがつちょう:宮城県北東部沿岸、2005年より石巻市に合併)方面に向かうことにした。

メンバーは我々と、前日の活動で合流していらい寝食を共にしている学生ら、若いソロのボランティアの2名を加えた5名。

服部さんが今回の災害ボランティア運行のために急遽買い求めたカーナビを頼りに、大地震・大津波被災地の石巻市街を駆け抜け、一路雄勝町へと峠を越えて東進する。

旧北上川の支流にあたる真野川沿いを抜けていくのだが、周囲は旧北上川を逆流した津波に大きく侵犯されたようであり、様々な痕跡が認められる。
車が水没し、あるいはでんぐり返り、あらぬところへと打ち捨てられている。
小舟が陸の上を漂流した後、家屋に突撃している。

そして津波に洗われた家屋から吐き出された家財、畳がところ構わずうずたかく積まれている。

真野川、川面には様々なガレキが落ち着くところもなく漂流しているが、その何倍ものガレキが水底に堆積しているのだろう。
この川沿いに拡がる田畝一帯は全て浸水し、果たして今年の稲作は絶望的であろうことは素人でも分かる。
周辺の住民が三々五々通りに出ては、捻りはちまきでの困惑顔、苦笑いの顔、顔。
こちらは遠慮気味にカメラを構えつつも、こっくりと軽く会釈しながら通り抜けていく。

車両4面には災害ボランティアのステッカーが貼られているので、遠方の他府県ナンバーではあっても見咎められることもない。
明示的では無いものの、それなりの敬意は持っていてくれるようにも感じる。

山間に入ってからはほとんど出会う人もいなければ、通り過ぎる車も数台という状態。
本来であれば通勤通学の時間帯であるので、すれ違う車両なども多いはず。


峠を越え、しばらく山間を走り抜けると、いきなりさして広くもない沢に、大きく傾き、原形を留めない1つの家屋の異様な様が眼に飛び込んできた。
10mを大きく超える津波が、こんな山間の沢伝いに住居を運んできたのだろう。
我が眼と常識を覆す、ただ驚きの光景。

間もなく山道の勾配が緩み、杉木立が途切れ、たと思うと、一気に視界が拡がる。
雄勝町である。
大きく破損した低層の鉄筋コンクリートビルが点在しているものの、後は震災後に整備されたと思われる1本の主要な道路とガレキだけの空間。
モノ皆全てが消失し、これに代わりどこから運ばれ来たとも知れぬガレキがうずたかく無秩序に散乱するだけ。

書くことも憚れるが、もしやこの下には累々とした犠牲者の亡骸もあるやもしれないと思うと、緊張と弔慰とで気持ちは捻れ、定まらない。

奇妙な静寂が支配するだけの、この世のものとはとても思えぬ異次元の世界。
人間の営みを一気に消し去った自然の猛威の前に、ただ無力に呆然と佇み、皆、言葉も無く唖然とするだけだった。

以前のBlogでは「神なき苛烈な現場」などと書いたが、いかなる表現行為も虚しくなるばかりの壮絶なものだった。
それまでは石巻市街の様々な被災光景を見てきていたので、それなりの抗体はできてはいたものの、この空間が支配しているものは明らかに別世界。

許された時間は限りあるものだったので、港近くまで走行するものの沿岸部へのアプローチは断念し、Uターンして石巻ボラセンへと戻ることに。
帰路は皆均しく黙りこくったまま。



右の航空写真は3月19日撮影のもの。(国土地理院提供:詳細はこちら

帰路、峠を過ぎたあたりで、レンタカーナンバーのマイクロバス車列に出遭う。
米軍と思しき連中。雄勝町にどのような活動に向かうというのだろう。



下に航空地図を貼り付けるが、この撮影は3.11以後のものであるはず。

大きな地図で見る

雄勝町は硯の一大生産地。600年の歴史を持つ(経産省の伝統的工芸品指定)
現在は完全に生産停止状態。復興が待たれる

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