工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

小ネタ(違い胴付き、あるいは“おしゃぶり”)

仕口を自在に使いこなす、というのは家具作りに限らず、建築はもちろんのこと、様々なモノ作りにおける習熟にとり、欠かすことのできない重要な要素の1つだね。

ボクの修業時代とは、そもそも職人になろうと思うのはバチあたりな30も半ばになってからのこと。
10代から純粋培養で修行を積んだわけでもなく、いくつもの不純な属性を纏いながらのものであったわけだ。

それはともかくも、木工の世界に入ってからと言うもの、夕食後は毎日のように仕口に関わる書に親しみ、取り掛かっている家具制作に有効に使えるものがないか、必死になって探し、研究したもの。
それは修業時代があまりにも短かったことへの幾ばくかの焦りと、申し訳なさと、良い職人になりたいという一心からのものだった。

今ではただの長年弛まずやってきただけの職人風情の男でしかないが、若い頃はそれなりにまじめに取り組んでいたというわけだ。

ま、そんな昔話はどうでも良いことだが、仕口を抱負に持ち、これを適切に使いこなすことで、デザインの自由領域も拡がり、ねらった造形を無理なく、無駄なく、形にすることができるというもの。

今回紹介するのは、それほどのものでもない、昨日ご紹介したカップボードに用いた小ネタの2つ。

違い胴付き

違い胴付き1 違い胴付き2

仕口名称はそのまんまだね。
一般のホゾ組みとは違い、上下の胴付きが異なる。

意外とこの仕口を使う人は少ないようだ。
どういうところに使われるかと言うと、地板の落とし込みなどに、とても有効。
少しホゾ加工はやっかいではあるが、落とし込み部位は、ただカッターで突き通すだけでよい。
そのまま組んで、ハイ、終わり。
ノミなどを使うまでもなく、そのまんま、接合部分を含め、段欠きがぐるりと回る。

こんな簡単で有用な仕口、使わない手はないだろう。

今回はガラスの棚板に用いた。
5mmガラスの落とし込むため、5mmの深さ、6mm巾という段欠きを回す。

ただの枠組みだけではなく、途中の貫などにも、そのまま応用できる。

おしゃぶり(時には“千切り”)

おしゃぶり、墨付け おしゃぶり、打ち込み

以前も紹介した仕口だったね。
今回は、中央の大理石を落とし込んだトレーの枠組みの留め部分に、このおしゃぶりを用いた。

おしゃぶり、そのものを作るときは、それなりの量で作って置くので、通常は留めの枠の加工だけだ。

画像は墨付けの様子だが、こうした留め部分の寸法出しの時には、欧米では一般的らしい、画像のような定規(名称は忘れた)はありがたい。
このような仕口は、墨付け精度、加工精度が絶対的に重要なものとなるが、こうした定規があればラクチンだね。(というよりも、他では使う事がない?)

以前も記述したかと思うが、墨付けの要諦は、やや締まり勾配で穿つことだ。
おしゃぶりを打ち込むことで、強力に吸い付いてくる。
それと‥‥、可能な限りに深く、しっかりと打ち込むこと。

もちろんその前提として、留め加工の精度は徹底的に追求することだね。
同様に、可能な限りに、柾目のよく乾いた材を用いると良いだろう。

こうしてみると、木工は実にやっかいだね。
やっかいなだけに、かわいいのじゃないか。

レンゲは放射能の除染には使えないのかな?つい良からぬことを考えてしまう。


資材購入のために出掛けた帰路にパチリ。
レンゲ畑を気持ちの良い風が吹き抜けていた。
hr

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  • こんばんわ。多方面のご活動大変お疲れ様です。
    久しぶりの木工記事、嬉しく思います。

    違い胴付き、この加工にノミが不要とは驚きました。
    特にホゾ穴加工ですが、穴加工は角ノミだと思うのですが、プロが
    使われる加工機械でもガタはあると聞きます。
    よほど機械の加工精度が良いか、ガタを出さない工夫をされている
    のだと思いました。
    この仕口加工を見たのは初めてで大変勉強になりました。

    ちなみに「おしゃぶりジョイント」ですが、本で見ただけ(アレイ型契)で現物を見た事がありません。良い家具の目利きが疎く、また探求している訳でもないのに大変恐縮に思いますが、経年でアレイの上下に隙間が出ると書いてあった事を記憶していますが真意はどうでしょうか?

    • momooさん、連休中は木工三昧でしょうか。
      大いに楽しんでください。

      「違い胴付き」は、落とし込みのための段欠きなどで、とっても有効な仕口ですね。
      木工の仕口全般がそうであるように、仰るようにこの場合も加工精度は重要です。
      さらに、この場合、ホゾの位置(厚み方向での)も芯々ではなくどちらかにずれることが多くなります。したがって穴開けの位置設定には気をつかいます。

      経験的には、むしろ胴付きの位置が異なるので、この精度を出すのに注意を要します。
      (裏表、同一の胴付きの場合は問題にもなりませんが、段欠きの量だけ胴付きの位置をずらしてカットしなければなりません。この精度が悪いと、組むときに全体が歪みます)

      チキリ(千切り=おしゃぶり)についてですが、
      >経年でアレイの上下に隙間が出る
      これは木製である以上、他の接合の場合同様の特性と考えれば十分でしょう。
      基本的には留め部分の本体の木の繊維方向と同じ方向のチキリを埋め込むことになりますので、懸念するほどの問題は起きないはずです。

      今回もそうですが、一般にはこの接合法は目に付かない場所に穿つものですので、あまり気にしません。
      ただ、強く打ち込みますので、時間経過とともに膨張する方向に戻る懸念があるでしょう。
      一定の時間経過後(よく乾燥させた後)にメチ払いする必要があるかもしれません。

      しかしいずれにしろ、こうしたことは接合の強度の変化(弱体化)をもたらす方向に作用することではありませんので、活用をためらうようなものではありませんね。

      ぜひ一度やってみてください。

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