工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

小海町高原美術館・木の椅子、関連イベント

17日から昨日19日までの3日間、小海町高原美術館では集中的にいくつかの関連イベントが開催された。

イベント内容については先に案内したところだが、主要にはフィンランドの国情、自然、建築(アールトをその代表とする)などの紹介、メディカルを強く意識したフィッティングからアプローチする椅子制作の実践的事例の紹介、そして木工家たちをパネリストとした木工界の現状と展望、といったような内容のシンポジウム。

フィンランドに関しては〈木と森の国、サンタクロース、ムーミン、『フィンランディア』のシベリウス、そしてPISA Top(OECDにおける学習到達度調査でTopの成績を誇る)、そしてさらにはNOKIA、Linux‥‥〉といった誰もが知っている程度の認識しかなかったので、なかなかに興味深いものがあった。
今回は監修者・島崎信氏の解説による大使館の広報資料DVDの上映で進められた。


中でもアルバー・アールトは近代建築界では代表格の一人だが、ボクも好きな建築家の一人で、セゾン美術館での《アルバー・アールト展》は(確か美術館閉館前年の開催だったと記憶している)大規模で華やかな開催だったこともあり、印象深く脳裏に残っている。
サナトリウムの模型を含む展示、成形合板ならではの椅子デザインの数々、さらにはガラスの器らは展示方法までも思い返すことができる。

豊富な映像でのアルバー・アールトの建築、その特徴、またアルバーというペンネームの由来(アルファベット、a.b.cの上位にくるようにという)などのエピソードを交えた話しは楽しいものだった。

吉野崇裕氏によるチェアーフィッティングもまた、メディカル面からの椅子に求められる造形の要素を徹底追求したもので、そのプレゼンとともに興味深いものがあった。

他にも伊藤嘉康氏による椅子制作のワークショップも学生、訓練校生などに人気があったようで、こうしたワークショップならではの企画の妙を見る思いだった。

最後の「これから木工家は何を目指すか―自己満足の家具作りから踏み出す―」という、問題提起型のやや挑発的なシンポジウムも席が足りなくなるほどの人気ぶりだった。

シンポジウム内容に関してはあらためて記述するとして、こうした企画をパブリックな場で設けるということは、過去ほとんどなかったことなので、1つの画期を為すものであったかもしれない。
1つだけ明かせば、全体を監修した島崎信氏による日本の木工界への危機意識を背景とした企画であったことは明らかなようで、老教授の意を果たして満たせたのかどうかは、今後の展開に掛かっているというところか。

ところで、この美術館の設置運営母体、小海町は昨年「小海フィンランド協会」を設立発足している。(webサイト:http://koumisuomi.theme-site.com/
これまでもこの美術館ではフィンランドの生活文化、デザインを紹介する企画を何度も重ねてきており、「暮らしの中の椅子展」(朝日新聞社)の展示会場であったことも記憶にあたらしいところで、何かとモダンデザイン、椅子デザインには関係が深い美術館だ。

ぜひ今後は椅子に留まらず、フィンランド、日本、両者の木工全般にわたるような企画を望みたいものだ、

関連イベント会期中、関係者は美術館中庭を開放してのキャンプで交流を深めたが、それについては稿をあらためよう。

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