工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

二枚ホゾの薦め

椅子の貫
ホゾをどのように設計するかということは、木工家具の構造を考えるときいくつかの課題の中の重要な1つになるが、二枚ホゾを積極的に導入するということについては過去何度かこのBlogでも触れてきたところ。
今回のものは椅子の貫というかなり細い部材においても二枚ホゾを付けちゃおうという紹介である。
下の画像の「アームチェア大和」という椅子はこれまで100脚以上制作してきたうちの定番の椅子だが、ご覧のようにブラックウォールナットという広葉樹の中でも気乾比重≒0.63というやや重厚な部類に属する樹種ではあるものの、比較的軽く作られている。
多くの客が手にとってその意外な軽さに驚かれる。
“手作りの椅子”でござい、というジャンルのものではとても重く、日常ダイニングチェアなどで用いる場合、その使い勝手、清掃の際の移動などでかよわい女性の手には余るものも少なくないようだ。
そうであってはならないだろうという考えから、見た目は重厚ではあっても、可能な限りに軽くしたいものだ、ということで贅肉を削ぎ落として設計された椅子でもある。
したがってこのH型の貫も細身のものとなっている。
貫という部材は、椅子に限らずいわゆる主要な構造材ではなく脇役ではあるが、しかしそれが無いとちょいとまずいだろう、という名脇役。


お恥ずかしながら、この椅子を作り始めた初期の頃、このH型貫の接合部分の胴付きが切れるというトラブルがあった。
納入して2年後ほどの頃だったか。
木部の経年変化、使用環境、使われ方で無理がきた、など理由はいくつか考えられるが、木の椅子では仕方がない、などと端から諦めるという訳には参るまい。
如何に過酷な環境でもトラブルは避けたいもの。
アームチェアさて、この初期のH型の接合部分のホゾは一枚ホゾだった。
部材は18×24という寸法だったのでホゾは11の厚みで長さはぎりぎりの15mmだったかな。
やはり接合嵌めあいの弱さがあったと考えねばならない。
この部材でホゾ強度を確保するには一枚ホゾでは無理があったというべきだろう。
そこでそれ以降はこの問題を克服すべく二枚ホゾとした。
なお、その後ホゾ切れということも全くないので、部材も17×21とスケールダウンし,より細めにした。
本当は貫など無くしてすっきりとしたデザインにしたいのだが、しかし構造強度は大きく弱体化することは自明であり、できない相談だ。
因みにホゾの寸法の割り振りは 2・5・3・5・2 (mm
以前も確認したところだが、一枚から二枚にしたことで、その嵌めあい強度は2倍以上になっていると思われる(一度、工業試験場あたりでテストしたみたいね)。
わずかに5mm厚のホゾでも2枚にすることでかなり強いホゾになるなんて嬉しいじゃない。
たたホゾの嵌めあいは言うまでもなく適正な精度を確保することが前提。
つまり部材が細く、ホゾ強度が出しにくい場合は、むしろ積極的に二枚ホゾを使うことで接合強度を確保していこうというのが賢明な思考ということになる。
例えホゾ厚が11mmから5mmになったとしてもだね。
それとね、こっそりと言うのだけれど、一枚ホゾでの接合は、組んだ後一定時間ハタガネなどで圧締しなければならないが、二枚ホゾだとしっかりと打ち込めば抜けてくることもなく、ハタガネ不要で組み上がる(無論、接合嵌めあいが高精度であることが前提)。
なお、もう1つ大事なことを付言しておきたい。
こういうH型の貫のような場合、胴付き寸法は、設計寸法よりわずかに長くとること。
この程度の椅子であれば数mmほどか。
つまり、やや張り気味にすることで、抜けのリスクはより少なくなる。
ボクは通常、寸法精度はメチャクチャ高いものを課している(0.1mm以内)。
しかしこのように時と場合によっては、何でもかんでも設計寸法通りにやれば良いというものではない。
こういうことは専門書などでは書かれてはいないだろう。経験からの知恵、あるいは心優しい先輩からこっそりと授かる“書かれざる一章”だね。
またこれは椅子に限らず、キャビネットなどの時もほんの少し長く取るということもあり、広く一般に用いられているのではないか(束も貫と同様の考え方)。
以前、キャリアの建築棟梁とお話しした時も、ほぼ同じような意見だったことが思い出される。


* 過去関連記事
二枚ほぞ
“手作り家具”と機械設備

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • こんにちわ。
    こちらの木工訓練校情報で情報を得て、
    4月から訓練校に行くことになりました。
    ありがとうございます。
    木工のことやその他の記事についても楽しみに見させてもらってます。

  • ぽーる さん、お初のコメントですね。
    まずは訓練校への入校が決まったということで祝意を表しましょうね。
    おめでとうございます。
    どのようなお考えと経緯で木工を志願されたのかはともかくも、
    決して長くはない履修期間、ぜひ集中して臨み、
    希望に満ちた春を迎えられるようにがんばってくださいね。
    またコメント寄せてください。

  • お初のあいさつもせぬままコメントしてしまい失礼しました。
    祝意を頂きありがとうございます。
    自分がなぜ木工をしたいのか、どういうものを作りたいのか、どう生きていきたいのか?
    この1年でその方向を決めていきたいと考えています。
    履修中は技術の習得はもとより、さまざまなご縁を大切にして来年以降に備えたいと思います。
    また、見に来ます^^

  • 今、グループ展を開催しています。家具にとって、展示会場の空調環境が最も過酷なこの時期、胴付切れを起こす作品が多くあります。接着面積の倍増もさることながら、木の収縮に対応する2枚、2段ほぞの重要性を感じます。
    工業試験場での実証、是非やりましょう。研究会復帰お待ちしてます。

  • takumiさん、コメントありがとうございます。
    確かにこの時季の空調は悩ましいものがありますね。
    昔、OZONE出展の際、5日目ぐらいから間口6尺2分割の裏板が痩せてきて
    隙間が空いてしまうのではないかと畏れたことがあります。
    ひどいものはバタバタになってしまいますからね。
    二枚ホゾについてはキャビネットの棚口、束などでも大いに活用すべきですね。

  • あけましておめでとうございます。
    調べ物をしていたらまたまた杉山さんのブログにたどり着きました。丸々教科書にして読みたいぐらいです^^
    つい本来の目的とは別にこの記事が目に止まり一気に読んでしまいました。

    2枚ほぞ、強力ですね。
    ちょうど図面を書いていて、2枚を積極的に入れよう!と影響を受けたのですが、そうなってくるとあらあら・・・1枚のほぞはもう出番ナシでは?と極端な考えになってきてしまいました(笑)

    ほぞの長さや太さも十分とれれば1枚で済ます事もあるのでしょうか?
    棚の仕切り等は1枚で、椅子等の重さがかかるところは2枚 のような分け方をされてるのでしょうか?

    これこそ経験による判断で”書かれざる一章”かもしれませんが、参考程度にご教授いただければ幸いです。

    • aikoさん、本年もどしどしコメントで賑わせてくださいね。

      さて、二枚ホゾ、必要に応じ、可能な限り、採用しましょう。

      >ほぞの長さや太さも十分とれれば
      それも1つの考え方でしょうね。

      基本的には、
      その接合部に外部的な圧力、あるいは経年変化、季節変動などで変形しがちな部材が絡んでくるようなケースには必須でしょうね。
      例えば、板差しの帆立に接合される棚口や桟など、あるいは無垢の甲板を支える束などですね、

      ところで、この記事ですが、相当昔のもので、本WordPressのBlogではない、以前のデータを移植させたものであり、改行とかのタグが無い、素のテキストのままですね。
      読みづらく申し訳ありません。

  • 返信ありがとうございます。
    キーワードは経年による変化ですね。
    1枚だとただ緩くなるばかりですが、2枚だと縮む事で締める事ができますね。積極的に使っていきます。

    読みづらくありません!
    なるほどなるほどとスラスラ~と読めました。
    またこれからも質問させて下さい。m(_ _)m

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