工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

可変 斜面取りカッター(替え刃式)

高速面取盤(SHAPER)は椅子などの不定曲面を持つ倣い成形などに欠かせない機械だ。
先に「可変斜面取りカッター」なるものを入手したものの使う機会も無く経過していたが、今回おあつらえの活用機会がおとずれたので使ってみた。

期待以上の効果と仕上げ結果を認める。

このカッターの特徴は何と言っても傾斜角度を自由に設定できることだ。
0°〜75°まで無段階。
この設定は替え刃の超硬刃を固定するボルトを緩め、刻まれたゲージ寸法に合わせるというシンプルな機構。
2枚刃を同一角度に正しく設定するのが必須の条件となり、かなりビミョウな作業となるが、いわゆるノギス様の目盛りが打たれており、1度単位での設定が比較的容易にできる。

→ 画像下参照:(ここでは12度に設定)
アルミボデーのゼロを基準とし、角度可変の刃押さえ機構に刻まれたゲージを12度あたりに傾斜させ、
次に刃押さえ機構のゼロをアルミボデー側のゲージ2に合わせ(黄色のライン)、それぞれ2個所の固定ボルトを締め付ける。

運転してみたところ、アルミボデーということもあるのか、比較的軽やかに回転し、切削負荷もさほど重さを感じさせず、よく切れた。
うちの高速面取盤は無段階変速を可能にするインバーターを嚙ましており、やや低速(7,000回転ほど)で運転してみた。


ところで、この可変斜面取りカッターだが、ほとんど同じものをleitz社も取り扱っているが、このleitz社には同様の機構を持ったルータービットがある。

SHAPERと同様の機能を発揮してくれるはずだが、一般には勧められるものでは無い。
なぜなら、その外径は何と100mm。傾斜させると最大で117mmとなる。
回転に伴う慣性モーメントは質量に距離の二乗を掛けたものなので、一般のルーターマシンでは怖くて使えるものでは無い。(回転数を大きく減じればそのかぎりでは無いが、一般にはそのような調整機構は無い)
ハンドルーター?、この世の終わりを迎えてしまうだろう。

したがってこれはNCルーターのためのものと考えるべきだろうね。

さらにこのカッターの優れたこととして、傾斜角を0度を中心として、上下に振ることができるという点にも注目して欲しい。

例えば今回の椅子のアーム+笠木の内面側の傾斜角切削だが、アームは左右対称であるので、型板は通常左右それぞれに準備されねばならないが、このカッターであれば、傾斜角設定を上下に替えることで、1枚の型板で左右に対応可能となるわけだ。

因みに傾斜角設定は左右にそれぞれ45度を超え75度まで設定可能となっている。凄すぎ !! 

なお、過去何度も触れてきたことだが、こうした倣い切削においては寸法精度の安定が必須であることは当然で、カッターの径が変化してしまうのは好ましくない。
つまり研磨の摩耗はによる寸法変化を避けたいわけだが、こうした替え刃方式はこの問題からフリーということだ。

替え刃のランニングコストだが、一般には超硬刃の左右に刃がロウ付けされていることもあり、研磨の経費と変わらないばかりか、むしろ安価なケースもあるので、大いに活用すべきだと考えている。
研削力、安全性においても固定のものと変わらず何ら問題が無い。
ただ刃を取り付けるときは、定められた固定位置に確実に取り付けることが必要。

ところで、この刃物の入手の経緯を少し ……、
以前よりボクは高速面取盤に用いるカッターは一部カネフサの直刃を除き、ライツ(ドイツ、leitz社)のもので揃えているのだが、このラインナップに加えたいと思っていたのが、この可変斜面取りカッターだった。
ただ使用頻度とコストを省みて、購入への飛躍には届かなかったというところ。

そうした折り、かのIkuruさんがストックホルムから帰還される際、せっかくだから欧州の工具などで欲しいものがあれば購入手配の上、引越荷物コンテナに同梱しましょうか、とのお話しを受け、いくつかの刃物をお願いしたのだったが、その中にこの可変斜面取りカッターを入れておいたという経緯。

購入したものはLeitz社のものではなく〈HAMMER〉というブランド名のものだが、ほぼ同様の仕様。ドイツかオーストリアあたりの製品だろう。
こちらの方はボデーがアルミ製。比較的大きなサイズのカッターで、高速回転するものなので、剛性への懸念も無くは無かったのだったが、今回本格的に使用し全く問題なく使えることが分かり、安堵し、あらためてその時の心遣いに感謝したものだった。

hr

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