工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

CLARO (クラロ)ウォールナット その表情


CLAROという樹種、過去何度か紹介してきたが、今日はここ数回取り上げてきた卓に用いた甲板を事例として、その表情に迫ってみよう。

まずWebサイト「工房 悠」に残した樹種解説のテキストから再掲してみよう。

ブラックウォールナットの亜種だが大変貴重な材種。主に北米西海岸に産する。幼木の頃、米国産ブラックウォールナットに西欧のウォールナットを接ぎ木したもの。(その痕跡が板上にくっきり残っている)

性質もブラックウォールナット以上に粘りがありきめが細かく、色調もとても複雑で多くの色が絡む。そのほとんどにちぢみ杢、こぶ杢などのさまざまな杢をかもす。
入手困難で高価なためそのほとんどは突き板、合板にされ高級家具となるが、私の場合は丸太原木を入手し厚板、一枚板に製材している

ここにさらにいくつかの特徴を付け加えておこう。
まず産地だが、ブラックウォールナットが北米一帯(米国、カナダ東部)に分布するのに対し、このCLAROウォールナットは西海岸カリフォルニア州に限定的に分布する。
(これはボクの想像だが、CLAROは人の手を借りた樹種であることを考えれば、自然条件における植栽の特性というよりも、移民の歴史がそうした分布の特徴を見せているものと思う)

 
 
材種の特徴としては再掲した通りだが、もう少し付け加える。
まず色調だが、心材はチョコレートブラウンと言うのがもっともふさわしい理解だと思われるが、実は赤紫、青紫、灰褐色、灰緑色、などと1枚の板面でも部位により様々に発色し、これに多様な描線を見せて紫黒色の縞状が走り、複雑多彩な紋様を描き出す。

木理は複雑多岐に交錯し、その結果、縮み杢を醸したり、多くの場合、根に近い部分には瘤杢を醸す(画像には木端に瘤だらけの部位が見て取れる)

次に加工性だが、比重は0.6〜0.68あたりで、ブラックウォールナットとほぼ同じだが、しかしその細胞レベルでの密度は大きく異なり、似て非なるものと言わねばならないほどのものだ。
とても緻密でねっとりしている。
決して堅いものではなく、加工性は良いのだが、この加工性が良いというフィーリングというものは、ボクの表現力では描き出すことのできない、曰く言いがたい独特の材質を持つ。
つまり、実際に切って、削ってみなければ理解することの困難な独特のものだ。

展示会などでは、この木は堅いんでしょうね、などと聞かれる人が多い。
いいえ、堅さは中庸です、などと応えるのだが、この堅さというのは誤解されやすい性質ではあるよね。

例えば、豆科、柿科などの樹種はめちゃくちゃ堅い。比重も1.0近くあるのが多い。
堅いが、しかし“もろい”、という性質を併せ持つ、ということは一般にはなかなか理解されにくい事柄かも知れない。

ブラックウォールナット、そしてCLAROウォールナットは堅さこそ中庸だが、しかし靱性は木の中では最高度に高い。
言い換えれば、とてもねばり強い、ということ。
そうした性質を有するところから、銃床などに好んでもちいられる他、家具材として要求される物理的特性を高度の次元で備えていると言うことができるわけだ。

CLAROはブラックウォールナット以上に靱性は高いと言えるだろう(部位によっても異なるが)

そうした特性を持つところから、その用途は、銃床(ガンストック)、楽器、工芸美術品、高級家具、化粧単板などに用いられる。
昨今、高級車のダッシュボードなどにCLAROの化粧単板が用いられているところをよく見掛ける。
ボクの○▽車のダッシュボードはABS樹脂なんだが、張り替えちゃおうか ! (ゼンゼン 似合わないって?)

考えて見れば贅沢な樹種なんだね。

そんなわけだが、画像は1枚の甲板の特徴的な部分を取り上げてみたところだ。
矢印部分は、接ぎ木されたところの痕跡。あえて、CLAROの生育ストーリーを語るものとして切り落とさずに残すことにした。

* 画像:最下段の2枚はオイルフィニッシュ後のもの、後はすべて木地(サンディング前、鉋掛け後)

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • ひとつ分からないのは、なぜ出回る量が極端に少ないのでしょうか?
    例えば、クラロが黒柿のように自然の偶然によってできあがる材であれば理解できます。
    または、輸出規制がなされているのであれば、これも理解できます。
    しかし、「米国産ブラックウォールナットに西欧のウォールナットを接ぎ木したもの」であるならば、いくらでも植林が可能であると思われますし、植林した物が流通しても良さそうです。
    接木しても、全てがクラロになる、という訳ではないのでしょうか?
    それとも、接木の生存率が極端に悪いのでしょうか?
    実情は今一分からないですね。

    • ブラックウォールナットは再生可能な木材資源として、植林も精力的に行われているようで供給は潤沢ですが、クラロウォールナットは残念ながらそうした状況にはありません。

      これはCLAROという品質を獲得するには“膨大な時間の蓄積”が絶対的な条件だからですね。
      単に接ぎ木されたからこの特有の材質をもたらす、というものではなく、やはり他の樹種における杢を醸す必須の条件が“樹齢”であるように、この場合においても150〜200年(あるいはそれ以上の)、風雨に晒され、揉まれ、生き抜いてきたからこそ醸される“時間の芸術”であるわけですね。

      したがって、今日のように豊かな消費社会が訪れ、私などの異国の家具職人までが手を出すようになることで、需給は逼迫する、ということになっちゃうのですね(罪な職人です)。

      しかし一方、材木の適切な伐採時期ということもあるのですね。
      様々な要因で、倒木してしまう前に適切に伐採し、これを工芸品、家具用材として、新たな生を与えてやるということも有用なことであるわけですね。

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