工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「ウィーン工房 1903-1932 モダニズムの装飾的精神」展

 仮面のいただきをこえて
 そのうねうねしたからだをのばしてはふ
 みどり色のふとい蛇よ、

 その腹には春の情感のうろこが
 らんらんと金にもえてゐる。
 
 みどり色の蛇よ、
 ねんばりしてその執着を路ばたにうゑながら、
 ひとあし ひとあし
 春の肌にはひつてゆく。
 
 うれひに満ちた春の肌は
 あらゆる芬香にゆたゆたと波をうつてゐる。
 
 みどり色の蛇よ、
 白い柩のゆめをすてて、
 かなしみにあふれた春のまぶたへ
 つよい恋をおくれ、
 そのみどりのからだがやぶれるまえで。
 
 みどり色の蛇よ、
 いんいんとなる恋のうづまく鐘は
 かぎりない美の生立をときしめす。
 
 その歯で咬め、
 その舌で刺せ、
 その光ある尾で打て、
 その腹で紅金の焔を焚け、
 
 春のまるまるした肌へ
 永遠を産む毒液をそそぎこめ。
 みどり色の蛇よ、
 そしてお前も
 春とともに死の前にひざまづけ。

これは〈みどり色の蛇〉と題された「大手拓次」という詩人によるもの。
ボードレールのような詩情を感じさせるものだが、萩原朔太郎も影響を受けたと言われる大正年代の詩人であるとのこと。
ボクは初見だった。

これは「ウィーン工房 1903-1932 モダニズムの装飾的精神」展のパンフレットに引用されていたものだが、妖艶なエロスに満ちた詩歌だ。
なるほど、同時代の日本においても、浪漫的というか、ある種の退廃的な文芸が流行し、社会風俗もそのような傾向を見せていたようだが、美術工芸においてはなお顕著であったかもしれない。

さて、モダンデザインの源流を辿れば、世紀末から新世紀へと大きく時代が移る時代に華ひらいたウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動に行き着く。

マシンエイジの到来により失われつつあったモノ作りの精神を、生活の総合デザインとして復権させようとするモリスの精神は、その後ヨーロッパ全域へと拡がり、様々な美術家、工芸家、デザイナーへと引き継がれていったが、本企画の「ウィーン工房」もアーツ・アンド・クラフツ運動の理念を実践的に提示した主要な流れの1つ。

この時代の家具において印象的なものをといえば、迷わずボクはヨーゼフ・ホフマンのあの黒ラッカーの緊張感あふれる椅子のいくつかを上げるだろう。
ある先輩デザイナーのマンションの一室にそれを見付けたとき、決して古びた美しさというのでなはない色あせない時代を超えた普遍的な美を感じ取ったものだった。

一般には「ウィーン・ゼセッション」(分離運動)と呼ばれるが、この呼称はその時代の既製の価値観から抜けだし、新たな時代精神を示すものだったからだね。
画家のグスタフ・クリムトは中心的な人物だったが、ヨーゼフ・ホフマン、コロマン・モーザーらのデザイナーにより担われた「ウィーン工房」の展覧会がこのように開催されるのは嬉しいものだ。

かなり昔の話になり恐縮だが、まだ伊勢丹美術館に勢いがあった時代、「ヨーロッパ・アール・ヌーボーの華麗なる美の全貌」[1] という企画があり、まるごとその時代を写し取ったかのような展示企画に圧倒されたものだった。

今回の企画はそれには及ばずとも、国内の美術館に収蔵されている関連美術品を借りだし展示し、またパーテーションにも「ウィーン工房」のデザインエッセンスを取り入れ、あるいは壁には「ウィーン工房」の意匠をプロダクトとして継承する布をあしらうなど、展示空間の設営、デザインに贅をこらしていたのも好印象を与えた。

また特徴的なものとして、それらのデザインには日本美術、日本の意匠に影響を受けたであろうことが随所に見られるのもおもしろいことだった。

このギャラリー「汐留ミュージアム」は、このような近代における工芸を様々な視点から企画立案し、高品質の展示空間を作り上げることで定評があるが、必ずしもそれにふさわしい来場者数を数えるという風でも無く、いつもゆったりと鑑賞できるのが良い。
こうしてあまり宣伝しない方がホントは良いのかも知れ無けれどね(そうか、それほどには影響を及ぼさぬBlogなのでどうでもいい話だな)。

展示会場のあまり目立たないところに、ちょっとしたペーパークラフトの素材が置かれており、これをハサミで切って、貼り合わせたのが右の画像。

小さな規模の展覧会だが、このような遊び心が楽しい。
運営主体の「パナソニック電工」は近く「パナソニック」本体に合併されるのだが、変わらずに良い企画を続けてもらいたいものだ。

ところで、この時期、府中市美術館では「世紀末、美のかたち」展(〜11/23)という企画をしていることを、今日の夕刊で知った。
その記事は、この汐留ミュージアムの企画と併せての紹介だったが、東京の西と南でヨーロッパの世紀末〜20Cの美術工芸企画が同時開催されるというのもおもしろい。

府中市美術館では数年前にも同様の企画があり、その時は観に出掛けたのだが、今回はちょっと無理かも知れない。
汐留の方は、福島への深夜バスを待つ間に立ち寄ったものだったが、11月中に再度「除染」へと向かう企画があれば、立ち寄れるかな?

名称:ウィーン工房 1903-1932 モダニズムの装飾的精神
会場:パナソニック電工 汐留ミュージアム
会期:2011年10月8日(土)~2011年12月20日(火)(月曜休館)
主催:パナソニック電工 汐留ミュージアム、朝日新聞社

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♦ 脚注
  1. 図録のクレジットを見れば1993年1月とあるので、18年も昔のことだ []
                   
    

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