工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

映画『ウィンターズ・ボーン』

忙中閑あり、などと言い訳することもないが、見逃せないものがあれば、仕事ほっぽらかしても出掛けていく。
映画『ウィンターズ・ボーン』(原題:Winter’s Bone)を観る。

隣がそのポスター(アメリカ版)だが、この色調のように、その舞台は鉛色に塗りつぶれされた荒涼としたアメリカ中西部のオザークと言われる高原。

農耕で生きていくのはさぞ難しいだろうと、素人目にも判るほどの困難な地勢。

冷ややかな空気に支配され、ドラマもまた緊張感あふれるものだった。


ボクの感想を一言で言い表せば、アメリカ国土の奥底で、開拓時代を今に生きているルーツたちの物語を垣間見た、といった感じか。
(アメリカ国土の奥底とは、言い換えれば、いかに時代が代わろうが、古層がいまに息づいているアメリカの心臓部とも言える場所なのだろう)
エンターティメント華やかなハリウッド映画とは対極、日本ではほとんど紹介されることの無いアメリアカ社会の闇を描いて実に秀逸なものだった。

監督デブラ・グラニク

監督デブラ・グラニク

また一方、この映画で描き出される特徴として、男たちの頼りなさとは逆に、信頼に足る女たちのたくましさは、女性監督デブラ・グラニクのメガフォンによるものだから、と言ってしまうのは容易だが、それだけではないだろう。女はこうした過酷な世界においてなおたくましいのである。
主役、リーを演じたジェニファー・ローレンスの強さは気高くもあり、聖少女のごとくに印象的なものだった。

インディペンデンス映画のサポートプロジェクトとして有名な、2010年サンダンス映画祭で初公開され、ドラマ部門のグランプリを受賞。
第83回アカデミー賞では作品賞、脚色賞(デブラ・グラニク)、主演女優賞(ジェニファー・ローレンス)、助演男優賞( ジェニファー・ローレンス)にノミネート。


物語はドラッグ製造の罪で捕らえられた父親に代わり、幼い弟妹、そして廃人同様の母親の世話をする17歳の少女、リー(とはいっても、肝っ玉が据わった女性でもあるのだが)の元へ、「お前の父親は裁判を放棄し逃げた。この家は保釈金の担保物件なので、近々没収される」と伝えに来る保安官。

この家だけが家族の生きる唯一のよすが。奪われるわけにはいかない、とばかりに単独、父親探しの行動に出るが、それを待ち構えるのは、リーにはまだ理解の及ばぬ一族の固い絆が支配する酷薄な裏社会。
……
……

このアメリカ中西部の山岳地帯に居住する山の民の彼らは、一般には侮蔑を込めた呼称「ヒルビリー」と呼ばれているらしい。

アメリカ音楽に詳しい人であれば、ウディー・ガスリー、あるいは一時はかなり影響を受けていたと言われるボブ・ディランの志向から、アメリカのカントリーミュージック(ルーツミュージックとも言われるのかな)も、「ヒルビリー」と呼ばれていたと聞く。

ルーツを辿ればスコットランドからの移民者だが、そこにはアメリカの公権力が及ばないような、部族としての掟が厳然としてあり、これを破ったものが辿る路は、この映画の父親のような結末を迎える。

現在もなお、ドラッグ密造(ぜんそく薬から覚醒剤を抽出する)で生き延びる彼らに、明日への希望を見いだすのは困難。

この「Winter’s Bone」という題名だが、その意味するところは最後のクライマックスで明かされるのだが、そのシーンはまさかと思わされるほどのものだった。
日本語の“ボーン”では“born”だか、“bone”だか判らない。

リーの軍への志願(採用されれば、かなりの額の金がもらえると言うことで志願するのだが、年齢が17歳ということで門前払い)のシーンがあったが(少し前に米軍のイラクからの最終的な撤退のニュースもあった)、まさに米軍を構成しているのは、こうしたアメリカ社会の底辺の人々であることの意味もまた軽かろうはずも無いと、あらためて考えさせられた。

エンドロールの前に置かれるシーンは、残された姉弟妹3人が家の前で腰掛け並ぶもので、それはかすかな希望を提示するものと受け取ったが、監督デブラ・グラニクの望みでもあったろう。
例えそれが根拠があると言えないものであっても、しかしこの家族は明日を生きていくのだから。
父親の骨を抱きながら ……。

* 参照
■ 〈銀の街から 沢木耕太郎〉(朝日新聞)ウィンターズ・ボーン ~酷薄な現実に立ち向かう少女
■ 日本の公式サイト

画像は米国の公式サイトからお借りしました。 感謝 !!

Trailer YouTube
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=5O8F8JtSVmI[/youtube]
ヒルビリーらの憩いの場で演奏されるカントリー&ウェスタンはこの映画では欠かせない要素になっていると思った。太めの女性(Marideth Sisco)の歌がすばらしかった。
ボクはあまりこの類の歌は好まないが、映画の中へと耽溺すれば、ピタッとくるものだ。

サウンドトラック YouTube
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=EfZyRSuRLIs&feature=results_main&playnext=1&list=PL20BE09B8ADEA8371[/youtube]

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • ご覧になられたのですね。
    TBSラジオ『キラキラ』で映画評論家町山智浩さんの紹介を聴いて観たいみたいと思っていましたが約1年半越しの日本公開となりましたね。原作小説もあるのでそれも読もうと思ってます。主演の女の子がこの後『X-MEN』に出たのはびっくりしました。

    • ユマニテさん、町山智浩さんの紹介、私は他のインタビューで視聴していますが、彼のようにアメリカに深く棲み着かないと、この手の映画の解説はできないでしょうね。

      >原作小説もあるのでそれも読もうと
      入れ込んでいますね。ワォッ!

      >主演の女の子がこの後『X-MEN』に
      ジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)って子、意欲的ですよね。
      『X-MEN』って、アレルギー体質だというのに、全身ブルーにペインティングしちゃっているじゃない。

      良い役者の素地があるように思いました。
      この作品では多くの映画祭で主演女優賞受賞、ノミネート。

      ところで、ちょっと教えてくれませんか。
      映画の中の「ヒルビリー」のことについて。
      スコットランド系ということですが、
      アイリッシュ、あるいはケルトの血を引く、という解釈もあり得るのかしらん?

      また、映像コンテンツの世界で、他に彼らを描いたものが、ありや無しや?

      アメリカという国は、近代以前の植民者に限ってみたとしても、一括りに語ることなどできやしないし、ましてや昨今は人種の坩堝。
      アメリカの強さ、そして難しさ。いろいろと考えさせられましたね。

  • こんばんは☆
    ブログの内容とは関係無いのですが (画面に)雪が降っていますね!
    今日からですか?
    変にうるさくないし とってもカワイイ!
    ステキです!
    これは記事の内容がウィンターズ・ボーンだから?
    それともしばらく降り続くのでしょうか?

    • ターナー女子? Turner Girl ? のサワノさんじゃないですか。

      あ、この雪ね、私の心象風景?、

      でも、この〈Let It Snow ! 〉というJavaScriptですが、昨年は、邪魔くさい、と叱られたりと、散々な評価。
      確かにCPUをかなり喰いますので重くなってしまう …>_<…
      ‥‥‥ ほどほどに稼働させますわ。

    • 追伸 ! 、 追伸 !
      ちょっと遊んでみますか !

      Google検索窓に let it snow と入力、検索かけてみてください。
      ほらね、

      そこで、マウスで落書きしてご覧 !
      ほら、
      ‥‥‥
      他にも do a barrel roll と入力、検索すると‥‥‥

      このようにGoogleではいくつもの遊び心のある隠しワザがあるようです。

  • artisanさん、ぼくなんぞに訊かずにこれをご一聴ください!
    なぞが解けますよん。

    http://podcast.tbsradio.jp/kirakira/files/20100625_machiyama.mp3

    • 謎が解けましたよん !
      アメリカの隠れたルーツの1つですね。
      なるほど‥‥‥、

      ところで、日本でも近代化以降、スコットランド民謡が「唱歌」として取り入れられてきたせいなのか、ヘンにしっくりくるところがありますよね。

      小島慶子、こんなポッドキャストがあったんですね。
      ユニークなゲストばかり、楽しそ。

  • 早速「let it snow」してみました!
    すごーい(笑)!

    でもこの画面の一番下に 雪が落ちて
    しばらくすると解けて消える芸の細かさもいいですね!

    • この〈let it snow !〉というJavaScript、WordPressのプラグインの1つですが、
      雪の落下速度、雪の数、下に貯めるかどうか、etc、いろいろとユーザーが設定できますが、

      記事閲覧に邪魔にならないよう、かなり遅く、少なく、などと設定。

      今日は木工関連記事のupですので、停止中(すみません)

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