工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

箱(手筺)制作中

筺
画像はアシスタント(見習い?)に作らせているものだが、やっと塗装工程にまでこぎ着けた、というところ。
組み手の天秤差しからはじまり、面腰の仕口を持った蓋に至るまで、決して安易にできるような設計基準でもないし、加工、仕上げ精度も相応のものを求めている。
修行の考え方というものも様々だろうが、基礎を修得して以降というものは、やはり持てる技能水準に準じて課題を与えるというだけではなく、本来果たすべき品質基準を獲得すべく努力してもらうという、やや本人にとっては厳しい手法を取るということも試みるべきと思う。
才能などというのは、多くの場合見出せずに死蔵されている場合の方が多いもの。少し難易度の高い課題を与えることで、そこを突破し、獲得できた地平が得られたとき、本人もその達成感に酔いしれ、さらに次なる世界へと飛躍していけるものではないだろうか。
今回の筺はミズメ樺とブラックウォールナットの2種。
材料も手抜き無し(笑)だよ。
ミズメ樺は末口60cmほどの丸太であったが白太が少なく最高品位の原木からのもの。蓋の鏡板に至るまで全て柾目取り。駆体は2.5寸板(75mm)を挽き割っていくことで、柾目木取りに、しかも木目が四方、全てが繋がるという高品質な木取をした。
ウォールナットの方は、杢がかった部位を挽き割っていった。


したがっていずれも鉋掛けにおける熟練度が試される困難な板となった。
ミズメ樺そのものも国産材の中では最も硬く緻密な部類に属し、しかもトラフ(虎斑)という細胞繊維の複雑な配列(簡単に言えば両逆目)は鉋の仕込みと、技量が要求されるだろうし、ウォールナットの杢も逆目ギラギラで仕上げの難易度は高い。
しかしこれは適正に仕上げることができるならば、濃色で、とても美しく映え、その材種の個性というものを見事に引きだしてくれるということになる。
オイルフィニッシュという塗装システムは木工の加工精度はもとより、仕上げ精度が如何ほどのものかを偽り無く映し出す。
木地の段階では判読できなかったものでも、少しでもムラがあればオイルを浸透させるだけでたちどころに難が浮き出て何とかしてくれ〜と訴えかけてくる。
残念だが、最後の仕上げ工程はまだうちのアシスタントでは難があり、結局親方の手に委ねられることになったが、困難さを知ると言うことだけでも木工の真髄へと近づき、次へのステップへと繋がっていくことだろう。
*関連記事、 過去記事
ウォールナット手筺(ジュエリーボックス)
ウォールナット 筺
ウォールナット筺 その行方

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