工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

3.11大震災、風化と抗う社会とメディア(今、問われていること)

ETV特集、取材スタッフのBlogから

「目標1%」と題されたBlogのタイトルがある。
NHK ETV特集を最前線で担うTVマンのBlogのある日の投稿に付けられたタイトル。(こちら

ここまで書けばお判りかと思うが、1%というのは視聴率のことである。
つまり自分が作る番組への自嘲的な物言いであるわけだが、同時にそこにはそうした社会からの受容の在り様に抗いつつ、番組作りをしていることの誇りも垣間見える。

抗う対象は、再稼働へ向け「新たな安全神話」を振りまく、原発ムラであり、政府当局であり、メディアの報道姿勢であり、あるいは社会総体なのかもしれない。

3.11後、福島原発による放射線汚染については、NHK、民放、それぞれ様々な番組が企画、放映されてきているが、中でも多くの人々に感銘と、実学的な情報をもたらしたものとして、高い評価を受けたのが、放射線測定の草分け的存在、岡野眞治博士、気鋭の若き放射線衛生学の学者、木村真三氏とともに作り上げた「《ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月~」》だった。

【各賞受賞】
文化庁芸術祭賞 大賞
石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞
日本ジャーナリスト会議大賞(JCJ大賞)
シカゴ国際映画祭ヒューゴ・テレビ賞「ドキュメンタリー部門」 銀賞
ワールドフィルムフェスティバル・ドキュメンタリー部門銀賞
ギャラクシー賞 5月度 月間賞≪上期入賞≫

一方、最近になってこのETV特集については気になる情報が流れている。
月刊マスコミ市民「放送を語る会 談話室」】が「‥‥ETV特集班のプロデューサーとディレクターが、口頭での「厳重注意」、もう1人のディレクターが「注意」を受けていた‥‥」と言うのだ。(こちら

直接的には、当時、政府の屋内退避区域の設定である、30Km圏内で取材し、これをその後刊行された単行本「ホットスポット」で明かしたことが理由とされたようだ。

今となっては大本営発表でしかなかったことが明らかな政府の規制と、汚染状況の発表だが、これを食い破り、取材を敢行した両研究者とNHK ETV取材クルーの英断は高く評価されるだろうし、またNHK内部における取材陣と幹部間のギリギリとした緊張関係を知った時、視聴者側としても襟を正しつつ視ていきたいものだと思う。

風化に抗して

ボクは3.11、1周年のその日は、郡山市で開催された【原発いらない! 3・11福島県民大集会】の一員として、寒風吹きすさぶスタジアムに席を取り、大きな盛り上がりに感銘を受け、声を枯らしてデモの列に並んだのだが、高揚感とともに胸に去来するのは、1周年を超えれば、こうした物事の習いとして風化の一途を辿っていくのだろうか、ということだった。

この懸念は一面ではまったくその通りに推移しているようだ。
他でも無い、大飯原発の再稼働に象徴される、原発推進側の焦りと反撃のことである。
風化を見透かしたように、全く無根拠の「新たな安全神話」を元に再稼働を迫った野田首相、そして、それは「脱原発」を願う市民らの無力感と諦めを通し、より風化をもたらす効果を狙ったものとも言える。

しかし他方、これまでのこうした運動に見られた風化という運動の傾向は、この問題に関しては当たらない状況を生み出してもいる。
毎週欠かさずに展開される、官邸前の「脱原発。再稼働反対」の集会・デモに見られる新たな運動のことである。
大飯原発再稼働後の先週6日にも、衰えるどころか、15万人(主催者発表)が集結し、大きなエネルギーを見せ、この市民運動は日本社会に明確に定着しつつあると言って良い。

こうして3.11後の問題は何一つ解決などしていないことを広く共有するためにも、ボクは例え無力なものでしかないとしても、その陣営側の一員でありたいと思う。

震災直後、ボクも含め、1市民のブロガーの多くが震災を論じ、原発被災を論じたものだったが、今やその多くが全ては過去のものとして語ることを止めてしまっている。
‥‥まだそんなこと言っているの?‥‥、などと呆れるように‥‥、
これはまさに原発ムラ、為政者、既得権益者、政府当局者らがねらうところの“風化”と言わずして何であろうか。

いかに多くの人が、人の噂も七十五日、とばかり、服をとっかえひっかえするように違う話題に移ろうが、しかし東北の被災者は、全ての問題はまだまだこれからであり、あるいは何も始まってはいない、という状況でさえあるのに。

前回このBlogで取り上げた若い東北学の研究者、山内明美氏が、東北は「植民地」として捨て置かれ、そのことが浮き彫りにされた3.11、と語る先には、その地から送り出される電力、労働力、あるいは第1次産品の受益者であった植民者、自分たちがいるのだということに、思いを寄せねばならない。

さようなら原発10万人集会

そして今、上にも述べた繰り返しになるが、諦めずに、弛まずに、「原発を止められない社会」を変えようと奮迅する若い人々が広汎に生まれ、大きなエネルギーとなり、切っ先鋭く、原発推進側を追い詰めつつあることに、かすかながらも希望を見る思いがする。
ボクは当然にもそうした人たちとともに歩みを進めていきたいと思う。

来る16日、代々木公園を舞台として【さようなら原発10万人集会】が開催される。

■ 呼びかけ人 
 坂本龍一、鎌田慧、内橋克人、大江健三郎、鶴見俊輔、
 落合恵子、澤地久枝、瀬戸内寂聴、辻井喬
■ 主催者:さようなら原発1000万人アクション
■ 詳細はこちら
■ 呼びかけ文

福島第一原発で発生した、世界最大級の過酷事故によって、日本の豊かな自然―田んぼや畑、森、林、川、海、そして雲も空も放射能によって汚染されました。
原発周辺で生活していた多くのひとびとは、家も仕事も失い故郷を追われ、散り散りになっていつ帰れるかわからない状態です。
福島のみならず、さまざまな地域のひとびと、とりわけ子どもたちやちいさな生物に、これからどのような悪影響がでるのかの予測さえつきません。

メルトダウン(炉心溶融)とメルトスルー、そして原子炉建屋の水素爆発という、あってはならない最悪事態はいまだ収束されず、圧力容器から溶け出た核燃料の行方さえ把握できない状況です。
さらに迫り来る大地震が、原発を制御不能の原爆に転化する恐怖を現実のものにしようとしています。
それにもかかわらず政府は、電力会社や財界の要求に応じて、やみくもに再稼動を認めようとしています。

日本に住むひとびとの8 割以上が、「原発は嫌だ」と考えています。世界のひとたちも不安を感じています。
しかしその思いを目に見える形で表現しなければ、原発を護持・存続させようとする暴力に勝つことはできません。私たちはいまこそ、日本の指導者たちにはっきりと、「原発はいらない」という抗議の声を突きつけましょう。
電気はいまでも足りています。さらに節電ができます。いのちと健康を犠牲にする経済などありえません。人間のための経済なのです。利権まみれの原発はもうたくさんです。反省なき非倫理、無責任、無方針、決断なき政治にたいして、もう一度力強く、原発いやだ、の声を集めましょう。

■ 公式チラシ
adobe readerアイコン集まろう10万人集会 532KB

公式サイトをご覧いただければお判りのように、脱原発で意志を共有する全国の諸団体、個人、グループが一堂に会し、恐らくはこの種の集会・デモとしては史上空前規模のものとなると思われる。

※ 参照
1、月刊マスコミ市民「放送を語る会」原発被災者の木村紀夫さんの発言(こちら
2、通販生活「さようなら原発1000万人署名」に賛同する“脱原発国会議員”は、たったの80人。

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  •  なるほど。 低視聴率というデータと確固たる自身の信念を比べて、それだけで問題提起が出来るということですねぇ、、。
     これは何かしら大きなヒントを頂いた気持ちです。

    • 今朝(120711)の朝日新聞にNHK専務理事を退いたトヨタ出身の金田という人のインタビュー記事が来ていました。

      彼にはNHKはまるで指揮命令系統がなっておらず、困惑したことが語られていました。
      現場では部門部門が独立性を持っていて「NHKのために」という意識が希薄だとか。

      カンバン方式のトヨタと“公共放送”現場を並べられてもねぇ。

      ジャーナリズムというのは、社の精神の前に、個々の記者、ディレクターの力量、魂、価値観(真・善・美)に依るところ大ですからね。

      武士は食わねど・・・というのは、今は死語?

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