工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

楢チェストの場合

チェスト
今回の個展に出品したいくつかの家具について紹介していきたい。
まず、昨日も紹介した楢のチェスト。
松本で修行したという出自がボクの制作する家具の構成、仕口に反映していることは隠しようがない。
門前の小僧というほどの年齢で門を叩いたワケではないが、やはり諸先輩の仕事を見聞きする中から身体に奥深く染みついているものは多い。
したがってこのようなチェストの場合、帆立(側板)は框で構成することが多い。
しかし今回はそれではなく板差し。
框と板ではどっちが良いんだ?との設問には、きっぱりとどっちが良いと応えられるものではないと思う。
構造的には框の方は無垢板の反張、痩せ、膨張からの影響はより少ない。間違いなく少ない。
一方板の方は環境からの影響を受けやすいものの、接合部位は少なく、シンプルであるために、より堅牢性があるという言い方もできるだろう。
つまりそれぞれ長短を持っているのであって、適宜使い分けるというのが、ボクたちの基準であれば良いだろう。
ただやはり高級感ということからすれば、特に日本国内においては板差しの方に軍配が上がると言えるのかも知れない。
構造的に言えば框の方が、より高度な技法が投下されているとも言えるのだがね。
ことほど左様に、その善し悪しを語るのは難しい。


楢チェスト1さて、前振りが長くなってしまったが、このチェスト、板差しではあるが、ちょっと意匠がユニーク。
他でこんなことをやっているのを見たことがない。
1枚の帆立の板はこの場合2枚の無垢板で構成されているが、中央部分に意匠を施し、造形し、かつ黒檀を埋め込みアクセントとした。
内部をお見せできないのは残念だが、ただフラットな1枚の板になっている。
つまり厚みの2/3ほどの位置に異種材を埋め込み、内部はそれを見せず、外側に意匠を施す。
そこで駆体前面のデザインも、最上段の抽斗前板部分を帆立と同じように異種材埋め込み、同様のスリットを入れることで帆立部分と調和させた。
ま、遊び心といえばそれまでだが、一般にフラットな抽斗面も、まだまだ意匠にこだわる手法もあるように思う。
しかもさらにここにオリジナルな技法を投下することで、その作家性を訴求することも可能となるだろう。
楢チェスト2
なおここで序でに1つ触れて置こう。
これは会場に来られた若手の木工家(志願者?)からの問い。
駆体と、甲板の接合について。
こうしたところは様々な手法があると思う。
今回の場合は帆立も、甲板も無垢であるので、枘を立て甲板に打ち込み、完全に接合するというのも1つの見識だろう。
あるいは人によっては吸い付き桟を帆立上端に施し、結合するというのも良い方法だ。
今回は、それらの方法ではなく、ぐるりと金属のクランク型のコマを用い結合させた。
この金具は市販されていない。
海外から求めることも可能なようだが、その強度はやや懸念がありそうだ。
可能であれば、木工家仲間で、数1,000個単位で作れば、1個数10円ほどでできるはず。
ボクはある地元の木工所などとともに15年ほど昔に作り、あと何年木工ができるのか分からないが、その時まで何とかぎりぎり間に合うほどの数はストックしている。
もちろんしっかりした鋼で、また面も処理し、GB焼き入れ塗装も施しておいた。
駆体側は1.8mm鋸でスリットを穿ち、ここに2mm板厚のコマを叩き込んで、トラスネジを打ち込めば、実に強く吸い付いてくれる。
木でコマを作ることもあるが、恐らくはこの金属のものの方が、堅牢性は高いと考えられる。
木の家具だから木のコマの方が良いだろう、という考えもあるだろうが、結局は木とは異種材になる木ねじという金属を使うということであれば、そこにおける差異はさほどあるとも思えない。
いずれが丈夫で、かつ作業性が良いのか、という選択基準で良いのではないか。
▶ コマ関連、過去記事 ウォールナット テーブル 制作

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 板組みの時、私が悩むのが内部の構造なのですが。
    棚口というのでしょうか?、横框というのでしょうか?
    を框構造にするのか、一枚の板にするのか、で、まず
    悩みます。
    さらに、框の場合は帆立の反りをどう抑えるのか、
    板の場合は仕口をどうするのか、帆立との接合を
    ホゾで行くのか、蟻溝を掘るのか、未だに自分の
    スタイルは決まっていません。
    横からビス留め&ダボというのもあまり使いたくないし。
    帆立が環境によっては反ってしまって引き出しが開かなく
    なることもあります。
    悩ましいところです。

  • 板差し(板組み)の場合の棚は、板でやるケースと、棚口(桟)でやるケース、様々ですね。それぞれ一長一短。
    帆立の反りを防止させることを考慮するということでは板差しが有利ですし、棚の部位の経年変化での機能障害を避けるには棚口が有利。
    これらの併用と言うこともあります。(キホンは棚口で、数本置きに帆立の反り防止の意味合いで板で、といったように)
    帆立を板差しで行う場合、棚を板でするにも、棚口でするにも、ボクはいすれもホゾで(しかも2枚ホゾで)接合します。
    ホゾは前後それぞれ2枚ホゾ。それ以外の中央部は大入れですね。
    ボクはしませんが板差しの安物はホゾは使わず、メチボソ(大入れ)と木ねじの併用ですね。
    (所謂「手作り木工」でもこの手の手法はよく見かけます。「手作り木工」というよりも「木ねじ木工」ですね)
    ダボテール(蟻桟)というのは欧米のものに見かけますが、接合度が高く良い方法かも知れません。
    普段はボクはしませんが、ただ最上部の棚口は、ほぞの効かせ方難しく、ダボテールで押さえることもたまにします(框の場合、柱と横桟、1つの棚口の延長線上にそれぞれにダボテールを施す)
    ま、しかしダボテールは一般的ではなく、ホゾで構わないでしょう。
    ただ接合が切れるのを避けたいところですので、ここは2枚ホゾで決めたいところです。
    いずれも自分なりの最善の方法を取ればよいでしょう。
    過度ではなく、しかし申し分のない、丁寧な手法ということで。

  • 切れるのを避けるために2枚ホゾですね。
    なるほど、なるほど。
    ありがとうございました。

  • 以前もどこかで書きましたが、ホゾの1枚、2枚というのは接合度において、大きな差異が出ますね(単純に倍の強度というのではなく、それ以上です)。
    また機会があったら、画像を示さないといけませんね。

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