工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

スペイン・カタルーニャの街角から

今年も残る日めくりはわずか数枚となってしまった。
昨年の3.11大震災、福一原発大事故から迎える2度目の歳の暮。

激動の日々が続いていることに変わりは無いのだけれど、
人は苦しみ、哀しみだけでは生きてはいけない。

今期衆院選の結果がいかに醜悪であったとしても、
この受難に堪え忍び、屈従しなきゃならないということでもないだろう。

苦難の大きさだけ、明日の希望を見出したいと願うのが、
いつの時代も変わらぬ人の思いであり、また日々の営みだ。

そんな思いにふさわしいと感じた〈YouTube〉コンテンツがあった。
知人からのクリスマスイブのメールに添付されていたものだったが、
ここでも紹介したいと思う。

あらかじめ明かせば、日本国内では師走には欠かせない、ベートーベンの第九の演奏。
ただ、少し趣向が違っているので、ご注意を。

Som Sabadell flashmob
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=GBaHPND2QJg[/youtube]

スペイン・カタルーニャ州サバデイで、5月に行われたイベント。

銀行ファサード前に拡がる街の広場の一角。
コントラバスに弓をあて、マネキンの如くに佇むタキシード姿の男性。
その前に置かれたシルクハットに少女がコインを投げ入れるところから、ひとときの物語が始まる。

バスのソロが始まり、広場にいた人々も耳をそばだて、するとどこからともなくチェリストが現れ、演奏に加わる。演目はベートーベンの第九、第四楽章「歓喜の歌」。

次にはバスーン奏者、そして次には弦楽奏者と続き、指揮者も現れ、しまいにはオーケストラ編成へと拡大していく。
第九であれば、当然にも、聴衆の中から普段着姿の男女混声合唱団が現れ、拡大編成され、後ろに着く。

通り行く歩行者も足を止め、スマホを取り出し撮影するもの、子供とともに笑顔で、あるいは感激の涙で、このサプライズを楽しむ家族連れや、若いカップル。
子供ははしゃぎ、てんでに指揮を真似、手を振り上げる。
そして広場は埋め尽くされ、歓喜の終末へと盛り上がっていく。

割れんばかりの拍手と、笑顔。
広場の聴衆と演奏者が一体となって終演を迎える。

よく観れば、これはドッキリCM(Flashmob)だが、それと感じさせない自然さは、企画者、監督の力、あるいは全ての参加者の「演技力」によるものか。

企画は、この地元のバンコサバデルという銀行の創立130周年を記念してのものだそうだ。

いかにもFlashmob(フラッシュモブ[1] )というのとは違い、それとは感じさせない力、あるいは分かっても、決して落胆させないものがある。

欧州の街角にはこうした広場が多い。
近代においては、自由と民主主義を語り、集い、何かを成し遂げるための、共有の場としての広場が、第九の演奏会場となり、集う人々、行き交う人々が足を止め、静かに、楽しく、聴き入る。

まさに音楽の力がそこに働き、人々は音楽とともに、この格別の“場”を共有するという幸せを感じ取る。
Flashmobでありながらも、それを自然なものとして受け入れる歴史に培われた西洋の旧い街の力と、人々の姿がある。

このコンテンツ、720p HD画質で、音質もすばらしい。

YouTubeを確認して頂ければお判りのように、840,000回以上もクリックされている。
世界的に話題になったようで、知らなかったのはボクだけか。

LATimesも語るように、これは世界の誰もが鑑賞できるツール、21世紀初頭のテクノロジーがもたらしたYouTubeにより、全世界の人により共有され、その意味を定着、普遍化させた。

スペインは今、ギリシャに次ぎ、ラテンの国共通とも言える経済的危機が叫ばれている国だ。
ただ、この経済的困窮の当事者の銀行が、こうした企画を仕掛け、人々もこれに応じる、という姿を見れば、まだまだ底知れぬ力があるのではと、感じさせてしまう何ものかがあるように思えた。

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❖ 脚注
  1. ネット上で参加を呼びかけられた不特定多数の集団が,あらかじめ決められた時間と場所に突然現れ,決められた行動をした後,即座に解散してしまう行為。 []
                   
    
  • はじめまして。素晴らしいアップありがとうございました。先生と同じく、ラテンの血に力と勇気を覚えます。また覗かせていただきます。良いお年を。

    • ヒラタさん、初コメント、ありがとうございます。

      >ラテンの血に力と勇気を覚えます
      同意ですね。
      確かに、カタルーニャ、という土壌が醸すBackgroundがあるのかもしれません。

      ところで、私はとかく“暗い”人間と思われることも少なくないですが、実を言えば、ラテン的な感性、エトスが似合っていると思っていますよ。
      AccuRadioで掛けるチャンネルはもっぱらPutumayoだったりと・・・笑

      おっと、“先生”は止めましょう。いちしょくにんです。
      これからも、よろしくおねがいします。

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