工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

新工房 建具について(2)

建具、その2:展示室ー居住スペース、仕切りドア

建具に用いる材種について

建具に用いられる材種は様々でしょうが、国内では広葉樹ということでは、広く一般にタモ材が用いられていると思われます。
理由はいくつかあるでしょう。

建具という性格上、機能上において支障をきたさぬよう、その材種は物理的特性において反張(反ったり、捻れたり)を嫌うということから、通直性の良い素材であることを条件とします。

この条件に叶うのは、他でも無く日本の木材を代表する杉であり、ヒノキということになります。
ただ、この2種は、日本の建築分野において古来より伝統的に用いられてきた材種で、日本人の古層に深く刻印されてきた木材のアイコンのようなものです。

したがって、これらを用いる事で伝統的な日本家屋の様式にストンと納まる一方、そうした様式から脱し、モダンな様相をねらう場合、どうしても避けた方が良いという選択になります。

あるいは、この建具に要求される物理的な強度を考えた場合、杉、ヒノキのような針葉樹を避け、より堅牢である広葉樹に材を求めるという合理的な判断にもなり得るわけです。

その点、タモ材は長尺なものでもストンと真っ直ぐに成長するのが特徴で、通直な材を確保できますしすし、杉、ヒノキに較べても、より堅牢ですので、洋風の建築空間での建具には最適とされているようです。

またこれに加え、より反りを抑えるため、板目を避け、柾目の木取りとするのが良いということになります。
展示室ー居住スペース、仕切りドア

あるいはまた、建築の構造材として用いられる、杉、ヒノキや、米松といった針葉樹と、通直性を特徴とするタモの木目はとても親和性があり、そうした美質のバランスからも好まれる要因となっているのではと思われます。

タモ材は均質性な白さを色調の特性としますので、日本家屋に良く合いますし、また着色するにも、ベースが白いので着色しやすいということもあるでしょう。

タモ材の市場流通について

現在、日本国内で流通しているタモ材のほとんどは極東ロシア産のものと考えられます。

他の広葉樹と同様に、日本国内で産するタモ材(ヤチダモ)は既に枯渇しており、これに替わり80〜90年代には、圧倒的な物量で輸入されていたのが中国産でした。

しかし長江の氾濫による森林破壊、そして中国国内、社会経済の急速な近代化により、ほとんどまったくといって中国からの輸入は無くなり、そして現在は極東ロシアからの輸入にまるごと依存しているというのが実状です。
しかし、この現状もいつまで続くか、心許ないという状況です。
極東ロシアでの森林伐採も、年を追うごとに困難になりつつある(違法伐採の摘発、中国要因等々)のが実態であるようです。

こうした現状ではあるものの、広葉樹全般から見渡し、タモ材が優位に選択される理由は当面は変わらないのでは無いでしょうか。

さて、前置きが長くなりましたが、当工房・建具の2回目、展示室ー居住スペースの仕切りドアです。

ドアの構成と仕口

こちらも親子ドアです。
この建築の場合、廊下、通路の幅を5尺弱ほどと、車椅子でもゆったり通ることのできるサイズを考え、比較的幅広く取っており、ドアもこれに対応させ、親子になったという経緯です。
展示室ー居住スペース、仕切りドアその2

框組み(面腰)に、同種タモ材の鏡板をドブで嵌め込んでいます。(ドブ、というのは、羽目板の厚みをそのまま框材の小穴(溝)に埋め込むことを言い表す職人の符牒)

ハードウェア(ハンドル)羽目板はタモの柾目材を数枚で構成し、これらはホンザネ(無垢材の伸縮に対応させる仕口の接合法)で接合されています。

やはり、上に縷々記述してきたように、このドアはタモ材のリニアなライン(通直性)をそのままシンプルに活かしたところが成功の要諦であったように思います。

広葉樹という条件下で他の材種ではこのような簡素で美質な仕上がりにはならなかったでしょう。

框の見込みは37mm、羽目の厚みは13mm。

ハードウェア

ハンドルは大阪の家具、建築金物のメーカー「シロクマ」です。
このメーカーは鍵など一部のジャンルは業界雄のBESTからのOEMですが、品揃えも良く、比較的廉価(普段から取引のある家具金具販売店からの発注)です。

ハードウェア(フランス落としフランス落とし(子のドアのストッパー)はRYOBIですが、ダイキャスト製で、仕上げも良い品質です。

一部の金具メーカーでは鉄板切出しといったものも見受けられますが、耐久性、精度、仕上げ品質において次元が異なるものとなりますので、注意したいものです。

フローリング材

映り込んでいる床材はカバ材のフローリングです。
白木のフローリング材で一般的なのはメイプルですが、この樺材は材質としての強度はメイプルに劣らず堅牢ですし、赤白で非均質なイメージですが、廉価であることも含め、悪くないです。
床面積で50坪を超えますので、単価はシビヤにならざるを得ません。

無論、無垢材、無塗装のものを求め、オイルフィニッシュとしました。
合板、無垢材、いずれも塗装済みのものもありますが、ツルツル、テカテカはうちには似合いません。

腰痛を抱える身としては、ハードな作業となるフローリングへのオイルフィニッシュは決して容易ではありませんが、それもまた楽しからずや、でやりました。

別途リポートするかもしれませんが、用いたOSMOフローリング用のオイルは、品質、塗装法において、お奨めできるものと実感しています。
因みに2回塗りです。

間仕切りは、さらに増強しなければ・・・

この展示室ー居住スペースの間仕切りのドアですが、実は展示室側にもう1セット増強しなければならないのです。
この2種の建具に挟まれた空間はトイレへのアプローチでして、未だこれが設けられていないという現状。
トイレの建具がまだ無い、というのではありませんのでご安心いただきたいのですが、いずれにしましても、早くこの個所の建具を収めねばならないことに違いはありません。

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