工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工家具制作におけるサンディング (その2)

サンディングバナー
第2回目の記述に先立って、何故このような一見ありふれた作業工程について記述する気になったのかについて冒頭触れておきたい。
その意図を共有していただければ、この論考もより強い関心を持ってもらえると思う。
まず1つには、木工家具制作におけるスタイルに関わることなのだが、いわゆる“手作り”木工と称する木工のスタイルにおいては、仕上げ加工の手法についてのこだわりが少なからぬ要素を占めていると思われるが、“手作り”木工における仕上げ加工の手法とは言っても実に様々なプロセスがあるというのが実態であり、ここで一度、仕上げ加工工程のサンディングというものについて(鉋での仕上げとの対比において)整理しておきたい、という動機があった。
2つには、未熟な職人に傾向的に見られることとして、「サンディングぐらいだったら上手くできます」と言われるものの、実はそのほとんどがサンディングというものがどのようなものであるかを正しく理解しないままルーティンワークとしてやっているという実態を見るに付け、サンディングという工程の重要性と、高度な技能であることを語っておきたいという動機があった。
3つには、サンディング作業に使われるいくつかの機械への故無き誤解というものが厳然としてあることを正しておきたい、という動機があった。
“手作り”という呪縛からのことなのであろうか、
手作業でのサンディング > ポータブルサンダー > ベルトサンダー(マシーン)
と、並べた場合、左の方が品質は高いだろう、という根拠薄弱な誤解があることについて指摘しておきたい。
先に結論を言えば、一般に多くの場合(いくつかの例外はあるものの)その優劣は逆なのだ。これは別項で詳しく記述しようと思う。
さて1、3、については項をあらためて考えるとして、まず2番目の問題から述べておきたいと思う。
「サンディングぐらい」という粗末な扱われ方
良く新参者が「サンディングぐらい出来ますのでやらせてください」などと軽いノリで請け負おうとすることがあるが、この「サンディングぐらい‥‥」というのがくせ者。
任せた結果、とんでもない結果が待ち受けている。
サンディングの目的とするところは材面の研削ととともに材面の均質化というものも同じく要求されるのであるが、未熟な職人に任せた場合こうした要請にはほど遠いばかりか、時には、あるいは多くの場合、材面の形状を変質、阻害させてしまうという結果をもたらしてしまうから話しはやや複雑になってくる。
未熟な職人には材面の木理を判別する眼というものが無いからであろう。一通りサンディングされているからそれで良いだろう、という程度に留まっていることによる。
一見きちんとサンディングされているように見受けられても、実は目的とする材面の均質化が図られていないことが多い。
これは薄暗い工房の中では分かりづらいレベルのものになるので、見落としがちということもあろう。
これはは木という有機素材ならではの固有の特性が影響していると考えて良いだろう。
つまり材面というものは複雑極まる細胞の配置によって構成されている。
また木という有機物を構成している繊維細胞というものは、1つとして同じ配置ではあり得ない。
繊維の向きも違えば、配列の密度も違う。とりわけ日本の広葉樹は四季の多様な変化に彩られ、年輪というものを明瞭に醸しだすものであるが、この年輪こそ複雑極まる細胞配列の多様さを規定づけている。
したがってこうした複雑な材面を均質にサンディングするにはその材面の木理をしっかりと読み取る眼を養わねばできるものではない。
同時にこうした木理を的確に判断し、これを均質に研削するためには一定の熟練と、研削技能が要求されてくることは理解していただけるだろう。
さてどのようにしてこの均質さを識別するかと言えば、塗装すれば明瞭に浮かび上がり、判別が容易になる。
適切にサンディングされている部位の塗面は、本来の木理が明瞭に浮かび出て、美しい。対し不十分なサンディングの部位では、浅黒く木理は沈んだものとなる。
でもこれでは工程というものは非可逆なものだから、答えにはならないね。
ではどうするか。意外と簡単なことだ。誰しも経験のあるところだと思うが、明るいところで板面をよく見れば識別できるし、なお太陽光に角度を微妙に変えながらかざしてみればさらに良く分かる。
しっかりとサンディングされていれば、板面は曇りというものがなく、木目が明瞭に浮き出ているはずだ。対し、不十分なサンディングでは木目が不明瞭で毛羽立っていたり、ぼやけていたりする(その多くの場合、逆目のところにこうしたぼやけが生じやすい)。
別項で詳しく述べたいが、手作業でのサンディングでは、この明瞭な木目を引きだすのはかなり困難であり、逆にあまりむやみやたらサンディングすることで、平滑性を奪ってしまう、という落とし穴に落ち込む怖れは多い。
サンディングとはあくまでも適切なサンドペーパー番手の選択、適切なサンディングシステム(機械、工具の選択)、適切な加圧、およびスピードで、平滑性を維持させつつ、均質化を図り、木目を明瞭に引きだす、という工程であることを知っておきたい。

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