工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

機械、電動工具をその性能、品質から考える(海外メーカーとの比較において)【その8】

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木工機械、電動工具の現状

革新的な電動工具の開発は、決して容易ではない

新しい道具を開発するというのは、実に困難で容易ではない事柄です。
まず何よりも、ある固有の作業工程において、それまでの作業工程を大きく塗り替えるような画期的な道具がありはしないか。
そうした着眼点というのは、とてもクリエイティヴな発想が要求されるでしょうし、またそのためには現場の実状を知悉する高度な技術体系への深い理解がともなわねばなりません。

まさに問題解決としてのデザイナー的発想と、豊かなアイディアが湧き出る柔らかな頭脳を持たねばならないでしょう。

また企業レベルでこうしたことを求めるとなれば、デザイナー、技術開発担当、金型担当、電気技術者、そして木工分野の道具であれば、木工の熟練工などのグループワークでの総合力が問われ、加えてこれらを差配し、予算設定し、開発から市場投入に至るまでの長期にわたる指導、指揮態勢が必要となるのは言うまでも無いことです。

つまりは、企業としての力量、単に他社のコピー商品を作るという次元のものでは無く、業界を豊かにするという意欲、木工産業の一翼を担うという高いレベルでの意識を保持し続けるという高いフィロソフィー、企業理念というものが問われることになるのだろうと思います。

日々の自社の株価だけを企業の評価軸として位置づけるような経営陣だけでは、決して為し得ない分野での事柄です。
長い射程でのビジョンを描き、これに向かって経営資源を投下し、弛まずに開発部門を奮い立たせていく。そうした作風が必要であるのでしょう。

日本の企業が問われているのは、まさにそうした領域での高い意識改革だろうと思います。

民生品への進出

マキタ ハンディクリーナー

マキタ ハンディクリーナー

なお、Makitaですが、ご存じの通り、ハンディータイプのクリーナー(掃除機)の評価はとても高いものがあり、鉄道駅構内の清掃で見掛けるのは、ほとんど全てがマキタ製品といっても過言では無いほど。

その吸塵力はダイソンの同種のものにひけを取らないとの評価もあるようです。
これは生活全般にわたり良質なものを取り扱っている「通販生活」社の売り上げの中でもTop5に入るほどの人気商品であるらしいところからも良く理解できます。

こうした民生品への進出は、そのマーケットの大きさからして企業経営としてとても重要な部門であるでしょう。
ぜひ、こうした分野で営業利益を増進させ、これを木工関連の工具開発資源として潤沢に投下して欲しいものです(笑)。

ボール盤開発の不思議

先に詳しく紹介させていただいたデルタ製のボール盤(Drill Press)。

DELTA:18-900L

DELTA:18-900L

長尺ものへのボーリングが可能な床置き型であったり、捨て板を受ける機構を有し、左右、前後に傾斜する広く大きな定盤を持ち、レーザーポインター機能、LED照明を装備し、長いストロークの機構と速度調整が容易な(あぁ、疲れた)木工専用機としての仕様を備えた機械が開発されようとしないのでしょうか。

決して需要が少ないとは思えませんが、旧態依然とした(=古色蒼然とした)マシンを「この程度のもので我が国のユーザーは十分だろう」と見くびった感じの市場展開は疑念無しとはしませんね。

他の機種でもそうなのかもしれませんが、ユーザーが何を求めているのか、という第1線の声を汲み取り、それを開発部門にフィードバックさせる、そうした姿勢が弱いのでしょうか。


こうした産業機械の分野では、かつてはメーカー主導での開発と市場展開を、ユーザー側はそのまま受け取り、既存のラインナップから選択することを受忍してきたでしょうし、メーカー側も、同業他社が進んで新機種を開発すれば、すぐにでも同様の対応を見せるのかも知れませんが(横並び体質という日本的風土?)、そうしたことが無い限りにおいて、十年一日の如く、ルーチンワークを続けてきたというわけです。

しかし、海外からの情報やモノが容易に入手できるようになりつつある現在、そうした姿勢を頑なにとり続けているとすれば、このような記事を上げられ、広く企業イメージを損なうということにもなってしまいかねません。

しかし、私がこんなインターネットの隅っこで、いくら電動工具開発への意識を糺し、例えそれが開発者の目に留まったとしても、恐らくはこんなボール盤への開発意欲がもたげてくるものとも思えません。

所詮、そんなもの製造して、一体何台売れるというのさ。
株価をどれだけ押し上げるというの? と、そこまでです。

それ以上、一歩も、半歩も進まない。これが日本の大メーカーの経営姿勢というものです。

したがって、これからも、将来も、やはり船便の遅れにヤキモキしながら、東京税関に届くのを待つしか無いと言うことに、何ら変化は起こらないだろうと言うのが、哀しい結論なのかもしれません。

それでもなお、一縷の望みを託し、こうした記事を上げているわけでもあるのですが…… 。

ユーザーサポート戦略からみる

Festool社などはオーナーのフォーラムを自社Webサイト内に設置しており、活発に運用されています。(下がそのページ:イメージ)

これは製造メーカーが設置したオープンなユーザーフォーラムです(掲示板機能など)。

リアル現場でのワークショップの展開など、宣伝普及活動とともに、ユーザーの意見を集約し、新たな改良、開発の情報戦略としていることにも明らかなように、ユーザーととても近い距離での企業姿勢というものが垣間見られるのに対し、日本では全く無いわけでは無いでしょうかが、Festool社のそうした姿勢に比肩するだけのものは寡聞にして触れることはありません。

しかし、インターネット社会の充実を背景とし、こうしたBlogでの発信、情報の共有などが当たり前に行われる時代となり、そこで交わされる議論から抽出されていく企業への期待、アイディアの提供などを有用に活用できる時代ですので、ぜひユーザー側に歩み寄り、より使いやすく、高性能で、快適な工具、海外メーカーにコピーされるほどの革新性を持った機種を開発していただきたいものです。

無論、こうした場の設置、および運営には相応のコストも掛かることになりますが、そうしたコストはそこから得られる改良策へのヒント、新規事業へのアイディアの収集などで十分に回収されるでしょうし、またその企業への信頼性の高まりとして結果するでしょうから、経営判断として間違ったものではないはずです。

要するに、ユーザーとの関係性の位置づけ、意識の在り様の問題、つまりは企業理念の指標の1つというわけです。

こうしたユーザー vs 製造メーカーとの関係ですが、当然にもユーザー側にも責任があるでしょう。
私にしても、メーカーのカスタマーセンターの担当者と電話での議論をすることはあっても、決して十分なものではなく、もっと有機的な関係性を作るべきだろうとは思います。

ともに盛り上げていくという姿勢が無いところで、一方的な方向性の開発思想は歪みます。
そうした機会をどう設けていくのかは1つの課題です。


数日前、HafeLeの担当者がうちを訪れてくれたのでしたが、直接的な仕事の話より、もっと大きな業務全般の話になったのでしたが、担当者も目を輝かせて対応してくれたものです。

その彼はHafereの全般的なアシスタントマネージャーであるわけで、同社扱いのFestoolは担当外と言うことで十分な知識を持ってはおらず、基本的なことしか理解されていなかったのですが、その特徴を概念的に説明をさせていただいたところ、顧客先での営業トークにも活用できるものとして喜んで頂いたところです。

メーカーからのユーザー側への歩み寄りも重要ですが、我々の側から積極的にアプローチするという姿勢も必要というわけです。

さて、これまで内外の産業機械、電動工具の状況を垣間見てきたところですが、次回はシリーズ最終回として、こうした彼我の差異というものを歴史的な背景、国民性などから照射させ、さらなる深層へと迫っていきたいと思います。

機械、電動工具をその性能、品質から考える Index

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  • 家具メーカーもWWM業界もドイツ製をパクリ、ゴクリ。ずっとおいしい思いをしたのでやめられません。まねする伝危、種だけほしい農耕眠続。DNAがそうなっているのでやめられないと。まがい物は、内部劣化も進むのが成り行き。切り花と寝付きの違い。本家は復元力あり、再活性していると見えます。
    昨日、カモシカが雪解けのムスカリを喰いにきました。一度ゴチすると、忘れられないようです。人も餌からはなれられない動物ですから上等なことは言いにくいですが。ドンドン人手がへるので、どいつにまけせるのか。そうしませう。
    ぎくり脳梗ABE。

    • WWMとは、WoodWorking machineryですね。

      最終回を準備中ですが、先に結論めいたものを出されてしまいましたね。

      複製技術も、この日本ほどに洗練されてくれば、それも1つの能力というものでしょうが、
      やはり、世界を(それぞれの業界を)驚かせる真の力が求められるのが、これからの時代なんだろうと思います(製造産業のアジアへのシフトを背景とし)。

      半ば、諦念でもあり、悔しくもあり、じっと我が民俗の来し方、行く末を想念する日々です

  • 再集界ですと。まだまだお宅後免にはなりません。ご異賢板がいないと凡倶羅はおしまいです。閉店セールを難度もやる誤時世。貴楽荷黙樂。反応できない見えない御仁にはまだ語過誤が必要です。段階積年の仕付けミスをお許しください。クラウド木工は、これから吉。
    キコル 消せ裸 ABE 

    • ペシミスティックは私にも似合わず、ケセラセラでいきたいものですw
      若い方々は、私たちの世代に視られる拘り(拘泥という元の意味は「ささいなことにとらわれる」とある)などほとんど無いところからスタートし、好きなようにやっている人が多いです。
      挫折も知らない一方、自分を深く掘り下げる努力など関心外。

      このBlogもひところよりずいぶんと少なくなったとは言え、
      1,000〜ページビュー/day をカウントしますので、視てくれているはずですが、
      噛みついてくる人はとても稀。
      恰好の場を提供している積もりではあるのですがね。
      言語感覚が元々違うのかも。
      かといって、このBlogはそうした世代に取り入るような文体は馴染まない。

      ただ若者への期待は大きいです。
      我々の世代は、もうどうでも良い。若い世代にどう繫げていくのか、それだけ。
      キコルABE先生とともに。

  • ぼこぼこ去れ雨のが超え−。返事スト夜部ェ。声を出さないのが安落巣体流。
    仕い悶になるのは、1-2%が総場。国外では、発言しないと言語思考能力なしと見られますね。阿晴れ。豊樂時代にゆるく杜撰に育った次世代が生き延びるだけでも大変なんでし。なまくらでも生きていけそうな気分で衰酔、このまんまがよさげ。社長さん、親方は頭かかえる図、いとあわれなり。
    大工・木工職人は、戦線から外れて重用され、生き残りが多く、安全・平和な仕事ですから優れた技能は学校では教えないので親方筋をもてと。
    大寒の朴戒厳令下、喰えない、路頭にころがるソウルステーションでは、朝に動かない地方出稼ぎを毎日みましが、ある日崩壊奈落はどこにも起こる。免駅がないともっと悲酸、「情報と仕事は人づてに」が確実デス。
    キコル 某總 ABE

    • 多岐にわたる問題指摘でここで応えるのは至難。耳朶異は変転し、若者像も大きく変容。価値観などもかつてのように一括りで語れるほど簡単では無くなっています。
      でも世代を継いでいかねばならないのが世の倣い。
      人生なんて、その程度のもの。捨て石として、その耳朶異の良質なエッセンスをどれだけ伝えられるのか。
      モノ作りをしていればこそ、そうした卓見は意外と自覚的になれるものです。
      70年代、ソウルでのお話し、とても興味深いものがありますが、機会があればお聞かせください。

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