工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工家具制作におけるサンディング (その5)

サンディングバナー
サンディング機械の種類と特性
サンディング作業は現在においては様々な機械によって生産性が高められている。先進的な工場では自動化も進んでいるだろう。
ここでは無垢の材料を対象とした高品質な家具制作のサンディング作業という制約での記述を基本としたい。
本件、サンディングについての記述も実はこの項を主要な関心事として考えているので、少し詳述していきたい。
先に述べてきたところだが、工房スタイルでの家具制作においては機械によるサンディング作業は量産家具のような低品質な家具制作を対象とするものと考えるので、使うべきものではない、というような間違った解釈が流布されているようでもあるので、そうした根拠のない誤解については正さねばならないと考えている。
これはどういう理由からなのだろうか。
機械加工=量産家具において取られているライン加工の悪しきイメージ。
手加工=良質な家具制作においては手作業が全てにおいて高品質なものをもたらす。
こうした根拠薄弱な考えを持つ木工家は決して多くはないと思うが、機械性能の本質を見極めることなく、手作業の「優位性」を頑なに信じ込み、固執している墨守派もいるかもしれない。
しかし多くは機械も導入したいが、さほど導入を決断するほどの評価を与えられない、あるいは他の諸般の事情で導入できない、と言った中間派なのではないだろうか。
なおボクは信州の訓練校で基礎を学び、また信州の木工所で働いた経験があるが、いずれもサンディングの機械はほとんど設備されていなかった。
また、訓練校への就職の募集にあたって、サンディング機械が設備されている工場への先輩諸兄の評価はあまり良いものではなかった、ということも経験している。
そうしたある種の地域的な特異性などに規定された誤った評価が今もなお厳然として残ってることもあると思う。
読者には本稿に出会ったことを契機としてぜひ一度はこのことについて真剣に考えていただけれ幸いだ。
さて、前振りが長くなってしまったが、具体的に記述していこう。
サンディング機械の種類

  1. ベルトサンダー
    (a)2点式、3点式ベルトサンダー
    (b)ユニバーサルサンダー
  2. ワイドベルトサンダー
  3. (a)スピンドルサンダー
    (b)スポンジサンダー
    (c)エアースピンドルサンダー
    (d)オシレーティングスピンドルサンダー
  4. プロフィールサンダー

おおよそ以上のようなラインナップになろうか。
1(a) 2点、あるいは3点ベルトサンダー
〈機構〉
動力機からベルトにより伝導され主軸の大型のプーリーと、空転するプーリー間に装填された10cm幅のベルト状のサンディングペーパー。(その長さ4.3〜5m)
このベルトにテンションを与えるためのレバーと分銅が付いた小さなプーリー。
その間を作業者の任意の操作で前後させられるように左右2条のレール上でスライドするテーブル、とで構成されている。
回転数は900〜1,200rpm
〈操作方法〉
任意の番手のサンディングペーパーを装填し、被研削材をテーブル上に置く。
サンディングペーパーと被研削材は適度な距離を保ち、高さ調整する。
ベルトを動力回転させ、この回転するベルトの真上から手に持ったパッドを被研削材に密着させながら左右に(ベルト回転方向)、あるいはテーブルを前後に(ベルト回転とは直交する方向)動かしながら被研削材、板面の全域にわたりペーパーの接触位置を替えながら研削する。
パッドはアーム状にあらかじめ機械にセットされたものもある。
〈特徴〉

  • 被研削材の大きさの制約は、長さは左右のプーリーの幅(=テーブルの長さ)に規定されるが一般に1,800mm〜2,400mmというところか。
    幅の制約は機械設置環境によるだろう。前後に空間のある限り制約は無いと言うことも出来るが、被研削材を移動させず固定された状態であれば900mmほど。
    つまり比較的大きなテーブルの板ぐらいまでは研削できるということになる。
  • かなりの高速での運動になるので、研削力は高い。
  • 回転方向が一定の、一般には繊維方向のみでの直線運動での研削になるので、いわゆるサンドペーパーの“脚”と言われる研削痕が残りにくい。(オービタルサンダーのような回転運動を基本とする電動工具との大きな違いがある)
    なお框組みの接合部分のように繊維が直交するようなところはどうするかと言えば‥‥、
    これは框組への鉋掛け(メチ払い)におけると同様に、まずは繊維をまたぐ方向から研削し、その後90度移動させ、繊維方向のみをサンディングすることで最上の仕上げを獲得できる。(留め部分も同様に、パッドの角度操作で問題なく可能となる)
  • 設置に要する面積は、(被研削材の最大長さ+1m)× (1m)といったところか。
    ただ作業内容が仕上げに関わる領域であるために、窓際などの明るいところにすべきだろう。
    なお強力な研削力を有し、そのためかなりの研磨粉が発生するので、強制排気、集塵の機構が必要だろう。
  • 簡単な機構の機械なので操作が簡便、当然比較的安価である。メンテナンスもレール摺動に気をつけるぐらいでイージーなものだ。

〈注意点〉
研削力が大きい、ということは、生産力が大きいということと同時に、研削のコントロールは作業者の任意な手さばきに依るため、平滑な研削が阻害されることがある。
そのために一定の技能が求められる。(たいしたものじゃないが)
少し具体的に記述してみよう。

  • 全てはパッドの当て方という一点に多少の技能が必要とされる。
    水平に、一定の加圧力で、ということに尽きる。
    最初のうちは意外とこれが難しい。
    特に被研削材の端っこ、エッジ部分がだれやすい。
    パッドに一定の加圧がされているために端にくると、加圧力のコントロールが難しくなってしまうことによるものだ。
    被研削材にはほぞ穴があったり、小穴があったりと、平板な板であることの方が少ない。そうした様々な状況があれども常に一定の平滑さを維持しながら加圧していくという、少しばかりの技能が求められる。
  • この技能を助ける方法として、被研削材のテーブルへの置き方、テンションの掛け方、ペーパーと被研削材のスペースの取り方、などいくつかのコツもあるだろう。
  • サンディングペーパーの番手の選定
    これは被研削材の材種にもよりけりだ。
    針葉樹のように比較的柔らかい材種には粗い番手を、唐木のような硬い材種には細かい番手を、というのが基本だが、一般に楢、樺のような材種では、鉋掛けされた後の素地調整を目的とするサンディングであれば、#240あたりから始まり、#320、#400と追っていけばよいだろう。
    木目が複雑で #240では逆目が取れない、ということであれば #180ぐらいから始めれば十分だ。
    それでもダメというのであれば、それは素地調整の問題ではなく。前の段階の鉋掛けの問題ということになろう。
  • なおこれはサンディング全般において共通することであるが、ある番手で目的とする素地を得られないようであれば、むやみに同じ番手で加圧力を高めて研削する、などということはやるべきではない。
    そのままむやみに続けることでは一見シャープな肌になっているように見えても、その実本質的な意味での適切な素地にはなっていないということになる。
    あるいはそうした方法では多くの場合平滑性が損なわれ、凸凹なものになってしまう。
    必ず1つ手前の番手に戻し、あらためて平滑にサンディングすべきだろう。
  • 加圧力
    上述したように不均等な加圧は1番良くない。常に一定の加圧力で、軽快にパッドを動かすことが肝要。
  • テンションの掛け方
    ただ平滑に一定の面積のものを掛けるのであれば、テンションはある程度高くして、サンディングペーパーの回転を安定させた方が良いだろうし、被研削材に、角度があったり、凸凹があるような場合にはテンションを緩めることで、あるいはまた、それに合わせたパッドを用いることで目的とする研削を可能とするだろう。

〈補足〉
さて、この項の最後にクイズだ。
この機械も含めて、一般にサンダー全般に共通することでもあるが、
サンディングペーパーの回転方向に順目を合わせるべきか、逆目を合わせるべきか ? 。という問いを出して見たいのだが。さて‥‥。
多くの人は当然にも順目、と回答してくれるだろうと思う。
これは正解。でも半分だけ。
どうしてかって。
複雑な木目を適切にサンディングするのは意外と難しいものだ、ということは分かりやすい話であるが、実は中杢のような素直な木目であっても、きちんとサンディングするのは難しい。
未熟者がサンディングし終えたと考えているものも、十分な研削肌をもたらしていないことは多い。
実はまず、逆目方向からサンディングするというのが効果的な方法なのだ。(おいおい、本当かよ ?)
これはサンディングという研磨・研削方法というものは鉋などの切削道具と異なり、刃物で一定方向にカットしていくものではなく、逆目によって刃物が過剰に食い込んでしまうということが無い、という特性を活かすことで生産性の高いサンディングを可能とする。
どういうことかと言えば、順目研削では繊維を寝かせる方向での研削になるが、逆に繊維を断ち切ってしまう方向(逆目)にサンドペーパーを運動させることで研削性が高く、また品質の高い研削肌が獲得できるということになる。
その後に順目方向に置き直すことでさらに良い肌をもたらすことができるだろう。
お判りいただけだろうか。
不審に思ったら、さっそく明日にでも試していただければたちどころにギモンは氷解するだろう。
(別の事例で考えてみよう。超仕上げ鉋盤で削るとき、やや削りが止まって食いつきが悪くなったときなど、順目で掛けてもすべってしまうだけで良い鉋屑が出ないことがある。そうした時、逆目に掛けることで食いつきも良くなり一鉋の鉋屑を出してくれることがあることを経験している人は多いと思う。この場合、当然にも逆目切削なので良い肌は得られないが、その後に順目で掛け直すことで適切な切削肌を得ることが出来る)
次回はスピンドルサンダーへと記述を進めていこう。

画像は3点ベルトサンダーの図

サンディング(ベルト)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  •  初めまして。
    金沢で工房を営んでおりますKWCと申します。
    いつも有益な情報を拝見し、勉強させて頂いております。
    ”逆目方向のサンディング”と云うお話に反応してしまいました。私、前職は金属加工の分野に居りまして、ここでも同様の事が言われておりました。例えば、ドリル加工後リーマ仕上げでは左勝手のリーマ(つまり逆回転)を使うと綺麗に仕上がります。金属と云えどもドリル加工で組織が流れるので、それを”ひげ剃りの逆剃り”の如く剃り上げる感じです。木材でも同様の事が有るとは気が付きませんでした。
     それから、サンディング機械についてもう一つ。
    先日”ストレートラインサンダー”なるものを購入しました。元々は自動車板金用のエアー工具ですが、パッドが15mm程のストロークで直線の前後運動を繰り返します。オービタルではどうしても横擦りの懸念がつきまといますが、これはベルト式サンダーと同様、完全に繊維と平行が保てるので、木材には向いているのでは?と考えております(?はまだ実践で使っていないので何とも言えませんが・・・・ちょっと試した感じではベルトサンダーとオービタルの中間の研磨能力と云ったところでしょうか)。
     濃厚な内容に少しでも参考になれば幸いです。

  • KWCさん、どうも、お初のコメント感謝します。
    (以前、貴サイト拝見したことありますので、見知らぬという感じがありませんね)
    >”逆目方向のサンディング”と云うお話し
    反応していただきましたか。(しめしめ‥‥ 笑)
    >リーマ仕上げでは左勝手のリーマ(つまり逆回転)を使うと綺麗に仕上がります。
    ヘェ〜、そうなんですか。似たようなことがあるのですね。
    おかげで記事内容にも説得力が出てきたかな?
    このクイズには驚いている人は少なくないと思いますよ。せめてもう2.3のコメントがあれば完璧なのですがねぇ。
    「ストレートラインサンダー」ですか、エア工具でもありますので、良い選択だと思われます。
    確かマキタにもW仕上げサンダーというのがあり、往復と偏芯運動を切り替えられるというのがありましたが、そちらはストロークの距離が15mmという大きさもあり、研削性能は高そうに思われます。
    何につけ、産業機械においては木工などは自動車関連作業などの金工に較べれば事業規模は桁が違いますので、流用させていただくというのがよろしいようで‥‥。

  • 久しぶりです、ストロークサンダーの掛け方良いですね、我々の業界でもなかなかここまで作業出来る職人はいません。欲を言えばストロークサンダーにインバーターを取り付けると、研磨作業の種類によりスピード調整が可能になり、より良い研磨が得られると思います。又、パットの種類も、木地研磨、塗装研磨等、違うと思います。

  • daughter’s papaさん コメントありがとうございます。
    インバータは他の機械では導入していますが、サンダーでの効果など、またお話し聞かせてください。
    研削、研磨の工程は大変重要なものであるのですが、認識の浅さは克服したいものです。またご指導ください。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.