工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

苦い話 〈copyright〉(著作権)の無視・続

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承前)

プロとアマチュア、について

私はBlog運営をコミュニケーションツールの1つとして考えており、読者の方々、木工関係者へと、木工関係を基軸としながらも、広い視点から様々な領域に渡り記述してきましたし、今後もそうありたいと考えています。

Blogという性格から、つまらない雑文が多いのもその通りですが、中には数年にわたり、数多くヒットする記事もあったりで、相応の責任を感じつつ、人生の少なく無い部分を、このBlog運営に費やしているといっても、あながちおおげさではありません。

今回の盗作者は、判然としない部分もあるものの、いわばアマチュアの方のようでした。
プロであれば、著作物がいかに大事なものであるかの認識は高い物があると考えられますが、いわばアマチュア、趣味の方々の無自覚さゆえの事案であったとも感じとられました。

この辺りはネットというもののフラット性の悪しき側面が露わになったものとも言え、そのこと事態への思うところはあります。
ただ、どなたが閲覧しても構わないネット社会ですので、こうしたことも起き得るわけです。
防止対策にも限界があります。

今回の無断盗用というのは、私にとりかなりショッキングなことでした。
過去には1件だけ、〈荒らし〉のような、悪意に満ちたコメントが続いたことがあり、それに次ぐ、二度目の問題となってしまったわけですが、Web運用している限り、こうしたことは避けがたく、その後の対処を首尾良く進めることの方が大事なようです。

焦らず、慌てず、しっかりと権利を行使し、著作物を守ることですね。


さて、過去何度かこのことについて触れてきたような記憶がありますが、この際ですので、本件事案をもたらした原因となったとも考えられるプロとアマチュア、それぞれの立ち位置の特性、その差異などについて考えてみます。

プロとアマチュア、その違いは作られるモノの品質には無く、立ち位置の違い

まず基本的な考え方からです。
私はアマチュアだからと言って、その属性がモノ作りの品質に及ぼすことは、ほとんど無いのだろうと考えています。
あえて逆説的に言えば、アマチュアだからこそ、コスト無視で、高度の技能をとことん追求、投下し、すばらしいモノを作ることのできる環境に置かれているとも言えるわけです。

以前、アメリカ帰りの事業経営者のアマチュア木工家と交流することがあり、お訪ねしたお屋敷に、この人の作られた家具がいくつも設置されていたのですが、それはすばらしい品質のものでした。
制作技術は米国で修得してきたようで、ガレージにはDELTAを中心とする米国製の木工機械を揃え、失礼ながらヘタな木工家などより、よほど質の高い木工をされているのでした。[1]

逆にこのことは、プロだからと言って、無前提にアマチュアより優れたものを作れる人たちだなどとは全く言えない事を意味しています。

アマチュアから突き上げを喰らいつつ、熟練の技を磨いていく契機になったりするというわけですね。
つまり、まずは作られるモノの品質において、峻別することの無意味さをご理解いただきたいものです。

プロへのリスペクトとは?

ただプロとして、生業としてモノ作りに人生を賭けている、という事柄においては、アマチュアの方々は、プロの方々に敬意を持って接すべきだろうと思います。
そうした振る舞いが無ければ、社会はおかしな具合になっていきかねません。

今回の事案は、生業として日々木工に勤しみ、Blog運営し、様々な発信をしているところから、アマチュアの方が画像をパクッた。

そのことの背景には、前回述べたように、さほどの痛痒感も覚えないという感覚の麻痺が横たわっていた。

ここにはプロとアマチュアの制作活動、表現行為に対する覚悟、あるいは責任というものの違いが意外と如実に表れたものと言えるかも知れません。
プロであれば、自らの制作活動、表現行為は全人格的なものであると捉えられますので、安易に臨めるものでは無い。

それは他者の制作活動、表現活動への接し方においても、同様であるわけです。

他方、アマチュアの方は、人生の余力を駆って、好きな木工に勤しむ。
この2つを隔てるものは小さからぬものがあるのかもしれません。

このBlog、あるいはWebサイトの設置、運用に関しても、プロはプロとしてのクオリティーを確保しようと努力し、例えそうした分野が苦手であれば、業者に作成依頼をして、経費として処理する。
いずれも相応の労力、負担を自らに強いているわけです。

他方、アマチュアの場合は、その水準は様々でしょうが、さしあたっては品質を問われること無く、与えられた所与の条件の下で行う。
自身が満足できれば、それで事足りるわけです。

そうした差異は、例え無自覚なものであっても、そこかしこに滲み出るものです。

この彼我の差が、無自覚で安易な盗用へと繋がる、と言った解釈もあり得るだろうと思います。
これは、客観的に視て、そのように分析できるということであり、だからといって許容されるというものでは無いことは言うまでもありません。

アマチュアの方の中には、究極のアマチュアを指標として、日々努力している方もおられますので、そうした方にとっては、こうしたぬるい、無自覚な振る舞いからは無縁であるでしょう。


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しかし一方また、プロの立場からアマチュアの仕事というものを、ヒエラルキーの眼差しで視るのも違うだろうな、ということも、こうした文脈からご理解いただけると思います。

例えば公募展であったり、グループのイベント、あるいはワークショップといった企画において、参加条件をプロに限定、などということも、まま視られます。

企画内容においてはそうしたハードルを課す理由もあるのかも知れませんが、基本的なところでは、あまり合理的な考え方では無いように思います。

以前《暮らしの中の木の椅子展》(朝日新聞社)という椅子の公募展があり、私も第1回の公募にエントリーさせていただいたことがあります。

この時の入選作のリストを見た時は、大変驚きました。
世界的に著名なデザイナーの名前が何人も、私たち木工家、あるいはアマチュア学生たちのエントリーと並び、上がっていたのでした。

その作品の秀逸さはもちろん、私たちと肩を並べてエントリーしてくる、その姿勢に感銘すら覚えたものです。

私は友人を介し、この公募展の企画段階からいきさつを知る立場にあったこともあり、周囲の方々に企画書を配布し、エントリーを求めたのですが、この誘い対し、あるキャリアの木工家の1人が「オレはもうそんなものに応募する必要性は無い」と迷惑そうに返してきたのでしたが、こうした振る舞いとの対比においても、本物のプロの潔さ、若々しさを教えられたものでした。

謂わば〈似非〉プロがつまらないヒエラルキーをひけらかし、自ら壁を作る愚かさを思ったものでした。

こうして、いくつかの側面からプロとアマチュアの立ち位置の違い、あるいは誤解されやすい、つまらないヒエラルキーの問題を視てきましたが、それぞれの立場を理解し、認めつつ、あるいは相互交流する中から、有為な関係を作っていくことの大切さを考えていきたいものです。

そして、今回のような盗用などと言った事が起きないよう、相互に敬意を持って接すべきと考えています。

インターネット社会における情報への接し方

いずれにしろ、ネット上でのコミュニケーションに関する、ある種の常識も、時代とともに徐々に変わりつつあることを認めると共に、その上で互いをリスペクトし、そこから批判すべきは批判するという作風が欲しいものです。

インターネット社会が普及し、早15年以上経過しますが、その間にも情報技術の進化発展は目を見張るものがあります。
私たちはこの情報ツールを駆使し、世界の知的資産にアプローチし、また自らも積極的に自由に発信するという、かつては考えられもしなかった時代を生きています。

こうした時代ならではの著作権の形骸化があるとすれば、それはインターネット社会が本来持つ、民主制、自由、そうしたものを束縛しかねない誤った使い方と理解すべきものと思います。

「青空文庫」というものをご存じだろうと思いますが、私もよく利用しますし、これを起ち上げ、日々電子データを作成している方々に深い敬意を表したいと考える立場の者です。

著作権の切れた本を、電子データ化し、これをフリーに配布する。
すばらしい企てです。
人類の遺産を、インターネット社会にふさわしく、広く一般に届けようとする企てです。
(現在、TPP協議において、最大のテーマの1つになっている議題が、この著作権を巡る問題であることは、良く知られたことです)

こうしたフリーの素材を広く届ける企てと、著作権保護の考えは、全く軌を一にするものであり、フリーを大切にするからこそ、保護期間にあっては同様に著作権を大事にしていこう、ということに繋がるわけです。

インターネット社会におけるフラット化など、難しい問題もあるわけですが、私はインターネット時代における、様々な開かれた可能性を信じる立場に立ちたいと思いますし、そこに託せる希望もあるだろうと考えています。

私自身としても、プロとして恥ずかしくない水準の木工を行い、こうしたBlog、Webサイトでは、しっかりとした言語を獲得し、少しでも有為な発信を心がける。

そしてアマチュアの方もおられると思われる読者には、木工の楽しさ、素晴らしさ、未来へ向けた可能性、というものを届けていければな、と考えています。

最後にお願い

序でですので、お願いしておきますが、このBlog、一時、半ば中断の時期を挟んだことからか、かなり読者を減らしていますが、しかし今も、少ない数とは言え、1,000PV/日〜ほどのログを確認でき、多くの若い方々もご覧いただいていると思われます。(私のような世代はむしろ少ないはず。この年齢ですと、ネットそのものへも積極的に接近する人は少ないようですのでね)

ぜひ、記事内容に感じるところがあれば、コメントをください。
質問でも、どんな内容でも良いでしょう。
私は、あなた方へ向け、語っているつもりです。

周囲の先輩に「あのキケンな男に近づくな!」などと脅されているかも知れませんが(爆)、大人を乗り越えるのが、若者の自立であることは世の習い。(笑)

今回の画像盗用も、いわばこっそりと覗き見し、こっそりとパクる。そうしたニュアンスが在り在りな行為です。

もっとオープンに、晴れ晴れと交流するところからは、そんな薄汚い手法は生まれないでしょう。
ぜひ、そうした作風が横溢するような場にしていきたものです。

先頃も、見知らぬキャリアの家具職人から、投稿記事に関わるメールをいただき、数回のやり取りをしているところですが、コメント投稿には、いささかのハードルがあるようで、なかなか踏み切れないようです。
決して怖いオヤジでは無いので、遠慮無く投稿してください。

そして、ネットでは語れないことも豊富に持ったオヤジですので、気が向いたら遊びに来るのも良いでしょう。

今回の盗用の一件、相手の方にも少しは理解していただけたようですし、このような記事を書く契機にもなったので、自身の心の内ではチャラになれば良いな、などと考えています。

ご意見頂戴できれば、嬉しいかな。ではまた〜。

《関連すると思われる記事》


❖ 脚注
  1. ここで詳述はしませんが、J・Krenovは自身をアマチュアと位置づけ、そのように称しており、いわば究極の「アマチュア」であったと言え、立ち位置におけるある種の本質を突く考え方であることに強い示唆を与えられます []
                   
    
  • 私としては、プロだから、アマだからと一括りにされるのは
    あまり好きではありません。
    日本の場合、家具作りにあっては「私は今日からプロです」と言えば
    みんなプロですから。
    数名の家具作りの方々とブログを通して仲良くさせて
    いただきています。実際にお会いした方も多いです。
    少なくとも、私がお付き合いさせていただいている方の中には、今回の事案に該当するような方はいないと思います。
    たとえ、ブログとは言え、その文章の中には人格が滲むものだと思っています。
    私が良く使う、工具のネットショップでは、商品の写真に店名のスタンプが入るようになってしまいました。
    それだけ、画像の無断使用が横行しているということでしょうね。

    • acanthogobiusさん、コメント感謝です。
      この盗用というのは、私自身、初めての事ですので、
      他に同様の事があるとも思えません。またあっては困りますね。
      (しかし「無断使用の横行」の実態があるとすれば、気づかないだけなのかも・・・)

      >人格・・・
      件の方、Web掲載のお写真からも、ご高齢(私より年上?)、
      木工でのキャリアもおありのようで、
      とても盗用するとも思えない感じなのですが、
      そこに陥穽があるのかも(アマチュアという属性を含め)。

      私自身の人格ですか?(盗用されやすいとか?笑)

      プロ、アマについては、ご指摘のことを含め、
      本文では多角的にほぼ尽くされていますので、
      どうか深訪してくださいね。
      また異なる視座、異見などあれば、くださいませ。

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