工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工家具制作におけるサンディング (その8)

サンディングバナー
ハンディータイプの研磨機(電動工具のサンダー)
既に記述してきたところだが、うちではサンディングシステムのその多くを機械式のものによっているために、ポータブル電動工具のサンダーはあくまで補助的なものと考えている。
したがって機械式のものを設備していない方にはその辺りのところを斟酌して読み替えていただければ幸い。
そうは言っても如何に補助的なものであるとはいえ、良い機構、高精度な研削結果が得られる道具を使いたいということはポータブルサンダーをメイン使用にしている方々と変わるものではない。
さてこの分野でもいくつかのタイプのものがある。以下にリストしてみよう。
・回転運動式ディスクサンダー
・回軌道運動式サンダー(いわゆるオービタルサンダー)
・往復直線運動式サンダー
・直線運動式ポータブルベルトサンダー
区分けについては他にもリストの仕方があるだろうが、概ねこのような分別になると考えて差し支えないだろう。
なお、塗装工程における塗膜研磨ではポリッシャーなどが用いられるが、ここでは詳しく触れない。この塗膜研磨では回転運動方式のものが用いられていると考えて良いだろう。
さてまずこれまでも記述してきたことだが、あらためて簡単に木材加工プロセスにおける研削加工に要求されるポイントを上げるならば、
木材繊維細胞が板面に表す木理を如何に引きだすのか、ということに尽きるわけであるが、この要求はポータブル電動工具サンダーにおいても変わるものではない。
また最近ののエントリで触れたポータブル電動工具サンダーによるテーブル天板仕上げでの問題はサンディングというものの考え方の落とし穴とサンドペーパー番手の選択の重要性ということであったが、機械式のものであってもそうした陥穽への自覚的な対処が求められるということでは同様だ。
しかし電動工具においては、機械式と較べパワーが無いことにより、あるいは研削精度の規制が困難(平滑基準、あるいは直角精度などが手動であることで崩れやすい)、さらには細胞繊維方向でのサンディングが困難であるため、機械式のものが作り出す研削結果と同水準のものを生み出すにはより熟練した技が必要だと言うことになる。
したがって木工房のサンディングシステムの環境の違いにもよるが、このポータブル電動工具サンダーというものはあくまでも機械式では掛けにくい部位への補助的な手段として用いられるべきものと考えたい。
さてそれぞれについて特徴を見ていこう。


サンダー1
【回転運動式ディスクサンダー】
アングルグラインダーなどに取り付ける方式だ。
回転駆動軸に取り付けられたディスクに研磨紙布を貼り付けたもので、単純な円軌道を描く。
研磨面は円形になるため、木の細胞繊維の配列方向に無関係にサンドペーパーの脚(研削作業で付いてしまう研磨粒子の痕跡)が付くため、繊維を直交する痕跡が残りやすい。
研削力は大きいものの、円形の中心部、外周部との研削速度の違いで、ムラが生じやすい。
バフなどでの塗膜のポリッシング仕上げなどに用いることが出来るが、板面の素地調整には不向きだろう。
【回軌道運動式サンダー(いわゆるオービタルサンダー)】
現在の木工現場では最も普及しているごく一般的なサンダーだ。
このオービタルサンダーには以下のような種類がある。
(1)ランダムオービタルサンダー
偏心半径2〜3mmほどのクランク機構を持つのが特徴で、主軸の円軌道とともに偏心運動をするため、回転運動式ディスクサンダーのムラになりやすい欠陥を補う方式と言えよう。
しかし細胞繊維を直交するということには変わるものではない。
各メーカー、各機種により、偏心半径の差異や、回転速度の違いがある(無段階変速ができるものも多い)が、ここでは機種の比較はしない。
繊維を直交させてしまうということでは、素地調整には不向きなタイプではある。
塗膜研磨には向いている。(画像上、中央)
(2)オービタルサンダー
ランダムオービタルサンダーとの違いは、円軌道することなく偏心駆動のみの機構であるが、ランダムオービタルサンダーと較べると研削力は落ちるが、高速回転させれば全面ムラ無く研削することができる。
サンダー2【往復直線運動式サンダー】
偏心駆動をクランク機構と回転カムにより、前後往復運動に転換させる機構を備えたもの。
ストローク数は2,500回/分ほど。その幅5〜6mm。
完全な前後運動ではないが、繊維を交叉する量は少ないので、素地調整には向いていると言えるだろう。(画像右)
国内電動工具メーカーではどのような機種があるかはあまり情報を持っていない。
ボク自身はマキタの「9035N/マキタダブル仕上げサンダ」というオービタルとストレートの切り替えが出来るものを古くから使用している。
ストレートの方は研削力があまり優れないという印象がある。
【直線運動式ポータブルベルトサンダー】
エンドレスのベルト研磨布紙をモーターに直結したプーリーとローラーに取り付け、高速回転させ研磨する。
研磨紙の面積も広く、研削力は大きい。
このタイプは他のタイプと異なり直線運動であるため繊維細胞を直交させることが無く素地調整に向いていると考えられるが、研削力が強いことによりその操作の難しさがある。
高級な機種には研削量を規制するための機構を有しているものもある。
駆体周囲を包み込むように堅固なベースが取り囲み、このベースから駆動部を浮かせ、手動で任意に板面に密着させることではじめて研削力が伝わるというものだ。
ボクはドイツ製の高級な機種(HOLZHER社製)を所有しているが、残念ながら稼働率は期待するほどのものではない低さだ。(画像上の右のもの)
これはベルトのエッジ部分のサンディング痕跡が歴然と残ってしまいがちなのだ。
熟練すればこうした問題も可決できるのかも知れないが、機械式に依拠している環境では、このリスク回避に割くべき余力はないというのが実態だ。
以上、ポータブル電動工具のサンダーについて簡単ながら見てきたが、様々なタイプのそれぞれの特徴をつかみ、自身のそれぞれの作業環境に合わせて選択したい。
また、ポータブル電動工具のサンダーを使用するに当たっての注意事項はこれまでも断片的に記述してきたところだが、あらためて簡単に整理しておこう。
【総括的に】
素地調整として適切な機種選択と、適正な使用方法を練熟していかねばならないということに尽きるだろう。
ポータブル電動サンダーでの仕上げの結果、天板が波打つようなものをもたらすのは明らかに使用方法の間違いである。
これはポータブル電動サンダーの本来の研削力を越えて、工程短縮のためなどと言って、あまりに強い加圧力で押さえる結果生じるものであろうし、また末端がダレてしまうという欠陥も、加圧のコントロールにおける規制が効いていないためのものだろう。
加圧力をむやみに強くするということは、研削力を強くする効用とは逆に、砥粒の食い込みにより板面が圧縮されてしまうが、その後塗装工程での塗料の吸い込みなどで、圧縮されていた部分が弾性回復することで平滑性が損なわれていくということも生ずることを知っておきたい。
また研磨布の番手(粒度)の選択も重要だ。
一般的には丁寧な鉋掛けをすれば、#240ぐらいから始め、塗装システムにもよるが#320あるいは#400ほどで済ますのが良いだろう(拭漆の場合は#600〜#800あたりまで追っていくが)。
鉋掛けで十分逆目が取れないような場合でも#180ならば取れるだろう。
またある番手で良い素地が得られない場合、同じ番手で掛け続けてはダメ。
平滑性は損なわれ、材を圧縮させてしまう。
このような場合には番手を1つ手前のものに切り替え、やり直した方がよい。
なお、研磨布紙の研削力、耐久性を過大視してはいけない。
研削力の落ちた研磨布を使い続けることで平滑性を損ない、柔らかい樹種では春材、晩材の堅さの違いでうねってしまう結果となる。
研削力の適切なものを軽く使うことによってはじめて本来の適正な研削結果をもたらすことができる。
機械式のサンダー導入が難しいのであれば、機種の特徴を良く把握して、これを上手に使いこなし、それまで苦労して加工してきた木製品の品質を損なわないように適正にサンディングしてやりたい。
またこれは補足だが、集塵システムはしっかりと考慮されたい。
ボクは基本的に健康体であるが1つだけ既往症がある。
気管支喘息で10年ほど悩まされている。
他でもなく木部研削によるサンダーで排出された粉塵によるものだ。
最近のポータブル電動サンダーにはほとんど集塵バックが付加されたものが主流になってきているが、そうしたパッシブなものだけではなく、強制的な集塵システムも積極的に考えていきたい。
これは作業者の健康のためだけではなく、切り屑が板面に目詰まりとして残り塗装欠陥になることを防止する意味も大きいだろう。
ポータブル電動サンダーについての概説は以上であるが、次回からは手作業でのサンディングについて考えていきたい。(インターバルが長くなってしまっていることについては申し訳ないと思いますが、どうぞお許しを)
*なお、インターバルをおいての記述であるため連続して読みにくい、あるいは以前の記事を確認したい、という懸念についてだが、右メニューの「CATEGORIES」の〈加工工程〉をクリックしていただければ連続して読めるので、ご活用いただきたい。

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