工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

秋田杉の建具

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このところ、新しい自宅、工房建築においていくつかの建具を作り、これらの一部を紹介してきましたが、今回はこれをご覧になった顧客からの建具制作依頼でした。

玄関脇に設備された下駄箱の戸なのですが、950w、2,300h もあるという大型の引き違い戸。
本来は建築に作り付けの造作への建具ですので、建築施工の責任範囲ですが、施主側の事情もあり工房 悠への依頼となった次第。

軸組在来構法の建造物ですが、梁に松の丸太をそのまま使うという豪壮な住宅で、宮大工による建築のものだそうです。

関西の地方都市郊外の新しく開発された地域ですが、私が住む静岡などとは異なり、住宅の品質への拘りは高いものがあるようで、このお宅もまたそうした建造物なのです。


そんなこともあり、材の吟味から緊張を強いるものでしたが、秋田杉の一枚板(3×6尺・一枚板)を求め、当初、舞良戸でデザインし、承認を得、制作に掛かったのでしたが、刻み始めて間もなく、この秋田杉・一枚板の迫力に圧倒され、この魅力を疎外しかねない舞良戸の意匠は止め、うずくり、一枚板そのまま見せることに。

無論、裏には無垢材一枚板の反り防止を適えるための吸付桟で貫を施しました。
わずかに3分5厘の厚みの板ですので、吸付きの深さは1分5厘でしかありませんが、十分に吸付き機能は果たせています。
このような仕事をしていますと、わずか4.5mmと言えども、吸付桟という工法がもたらす確かな効果を再確認させられるものです。

現状では、鴨居、敷居には1本の溝が穿かれており、折り戸を前提とした設計であるようでした。
もちろん、これを活かし、折り戸も考えたのですが、施主としては折り戸ではなく、シンプルに引き戸にしたい、という意向でした。

これは見積段階で提示した秋田杉・一枚板に惹かれたからでもあるのでしょう。
確かに、嵌めてみた結果、周囲の建築意匠と程よくフィッティングしており、施主にも喜んで頂きました。


ただ現場での吊り込み施工では少し苦労しました。
既存の鴨居に溝を掘るのは、まず無理な作業になりますので、新たに鴨居を作り、既存の下に貼り付けることとし、現場で長さのみを合わせてカットすることで済みました。

しかし敷居はそうはいきません。
既存の折り戸用の溝の一部を埋め、幅を狭くし、別にもう1本の溝を付けねばなりません。

Dewaltのコンパクトルーターを駆使しレール溝を掘り、掘りきれない末端と、束が邪魔してルーターが使えない中央部分、この残った部位は毛引き、手ノミでじっくりと攻め、苦闘の後を見せること無く、美しく納めることができ、これには安堵したものです(毛引きという道具の有難味もまた、新たにすることになったのでした)。

現場作業というのは何かと予期せぬ事も起きうるもので、様々な事を想定して臨むことになるわけですが、今回は工房からの距離、400km近くありますので、不足した物資、あるいは工具を取りに帰るなどということはできるはずも無く、あれやこれや、生起すると考えられるあらゆることを想定し、準備したものです。

最悪の場合、この地域の知り合いの家具工房へと駆け込むことも考えたのは言うまでもありませんが、幸いにしてそうしたこともなく納まったのはありがたい結末でした。

hr

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  • 建具の方にも仕事が広がっているようで
    新工房(ショールーム?)の効果が現れていますね。
    この引き戸、やはり下にローラーが付いているのでしょうか?

    • お察しの通り、戸車を使っています。
      見込面の最下部にちらりと覗いていますね。

      大きな戸ですので、重量もかなりのものですが、思いの外、動きは軽快です。

      現在、普及型のものでも、上下、左右の調整が利きますのでありがたいですね。

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