工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

プレナー(自動1面鉋盤)を知る。

不調に陥りつつあったプレナー(自動1面鉋盤)だが、意外と簡単に補修できて良かった。
プレナーという木工機械はなかなか複雑な機構をしていて、良い削りをもたらすためには調整がとても肝要。
ボクたちが削る樹種は比較的硬い広葉樹が多い。またその形状(厚み、幅)も様々だ。機械の切削精度を高めこれらを一様に美しく削るためには、その工場が対象とする樹種、被加工材の形状それぞれに適切に合わせるための調整が不可欠となる。
またこの機械の調整もメーカー、機種によって幾分違いもあるかも知れない。
しかし基本的なところでは大きな違いは無いと思う。
この自動1面鉋盤の機構というものを熟知し、普段のメンテナンスを適切に行うことで良い削りは確保できるものだろうと思う。
うちでは昔は2流メーカーのものを設置していたのだが、これにはずいぶんと苦労させられた。送り機構がとてもセンシティヴ、先端が喰われる、後端が喰われる、などは頻出したし、逆目がほじくれるのは茶飯事。
逆目の問題は鉋胴の裏刃の鋼の硬度、精度の問題なので補修はなかなか困難だが、送り機構などの問題は調整一つで如何様にも対応可能だ。
しかもそれほど困難な作業でもない。


ここで詳説する積もりもないが、2本の角材を用意し、数10分も掛ければ適切にセッティングできる。
鉋胴、前後2本のローラー、前後2つの板押さえ機構、そして下部ローラー、これらを適切にセッティングさせてやらねばならない。
このじゃじゃ馬プレナーのおかげで機械と仲良しになれたし調整方法も身についたという訳だ。
以前、知人の工房に訪ねた折プレナーの調子が出ないというので、さっそく初めての機械ではあったがうちのプレナーの調整方法と同様のことを試みて、結果、調子を取り戻したと言うこともあった。
しかし今回の変調は普段のメンテナンスの領域の問題だったようだ。
これに先立ち松材の仕事をしたのだったが、これが影響していたのだろう。
松材の仕事を終えたところで、徹底してメンテナンスしてやらねばいけなかったようだ。
送り機構のあらゆるところ、チップブレーカー、プレッシャーバーなどにヤニがびっしりと付着し、これにダストがこびりつき、それぞれの微妙な駆動に支障を与えていたということなのだろう。
先端が喰われる、という症状は明らかに板押さえ機構が正常に機能していないということなので、ここを中心に点検していけば良いのだが、切削送材を目視しながら不調の原因を探れば、ほぼ原因箇所は特定できるものだ。
本来であれば解体してオーバーホールしてやれば完璧なのかもしれないが、そこまでは必要はない。エアーダスターで徹底してダストを飛ばし、あるいはウエスで完全に取り除き、この後慎重にオイルを施してやり、最後にかなり凸凹のある板材を削ることで、各駆動部分の動きの鈍さを解放させてやるだけで良かった。
序でに超硬の刃も取り替えてやったが、先端が喰われるという変調は改善し、とても良い削り肌を確保することができた。
言い換えれば、この機械(桑原:KU – N600)は考えられ得る最高の品質を持つ機械なので、下手な調整をすることで逆に状態を悪化させかねない怖れがあったのであり、ここは冷静沈着に判断することで事なきを得たというところだろうか。
この機械はある程度の幅を持つ板を削り、前部に置いた台車に吐き出された板どおしがくっつくという現象が起きるほど切削精度が高い。(複数の板材が重なり合い、その密着部分の真空度が高く、上の板を持ち上げようとすると一緒に下の板もくっついてくる)
iBook変調への対処方針も決まったところだし、めでたし、めでたし。
さてところでプレナーに関連する話をもう少し。
地域には知る限りにおいてだが、1箇所、1mの刃幅のプレナーを設備していて、賃挽きしてくれるところがある。
1枚板の食卓の天板などの削りに助けてもらうことが少なくない。
自分で片面のムラを取って持ち込めば、適切な厚みに削り上げてくれる。これは家具産業、産地ならではの恩恵だ。
ただ何故かこの木工所、工場内部に入れさせて貰えない。立ち会いをさせてくれないという不思議なところだ。
プレナー切削工程に独特のノウハウがあり、外部流出を嫌うというのであろうか。
したがって、立ち会えないための事前の打ち合わせがとても重要で、なかなかやっかいなんだよね。
一方、別のところでの話だが、この片面ムラ取りという当たり前のプロセスを経ず、荒木をそのままプレナーにブチ込むという荒技をされてしまったことがあった。
忙しくて自分の手に負えない家具制作を知人の職人に一部下請けに出したのだったが、材料供給したウォールナットをプロペラのような形状で仕上げされてしまった。その材料は当然にもお釈迦。問題外の所業だね。
よい子の皆さんは決してこういうことはしないように。

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