工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その4/框組=カマチグミ)

『Der Möbelbau / Fritz Spannagel  』より

『Der Möbelbau / Fritz Spannagel 』より



リストに挙げた問題点につき、さらに視ていきます。

框組の加工に習熟していない

私は信州松本で修行したということもあり、松本民藝家具における一般的な構成である框組の構造は、キホン中のキホンでした。
もちろん、板指しの構造についても修練してきましたが、框組み無くして、木工のイロハは語れないというほどにごく当たり前の世界でした。

ところが地域が変わると、どうもそうではないことに気づかされます。

私が静岡に戻り、さらに1年修行した木工所がありますが、前回お話ししたように、この親方は横浜クラシック家具のOBで、この地域では名の知れた、とても腕の立つ職人でした。

私のような半端者を、わずか1年間でしたが、独り立ちするまでに鍛え上げてくれたものです。
なぜ1年でと言うことには、1つの理由があったものと考えています。

それは信州松本で修行してきた木工の技法体系は、この横浜育ちの職人に備えられた技法体系と、実に多くの領域において共通し、ほとんど違和感など無くスムースに受け入れることができ、この1年間はこれをさらに強力にバージョンアップさせてくれる現場だったのです。

これは私自身、とても大きな自信になりましたし、大げさに言えば、ここに日本の木工の1つのスタンダードがあるのだと確信させるに至る過程でもあったのです。

鉋イラスト

さてそこでのことですが、地域の職人たちが夜ごと訪ね来ては、蛇口や馬乗りなどの木工仕口の教えを請うという光景に出遭うのです。
彼らは決して未熟な職人では無く、数十年は現場で働いてきた意欲的で有能な職人達でしたし、ある時は、地域で著名な木工家が来て、床に座り込み、じっと親方の仕事ぶりを凝視している光景もあったものです。

弟子でも無いのに、この親方の技を盗もうとしているわけです。
この人などは40年近いキャリアを持ち、名を成してもいる木工家です。

これらの光景が教えているのは、全国有数の家具産地でありながら、この地では框組という木工における基本的な技法体系とも言える文化が根付いていないという現実なのです。

たぶん、いわゆるフラッシュ家具が全盛の時代に職人として腕を磨き、キャリアを形成してきたことが背景にあるのでしょう。
つまり、そのほとんどが板差しであるため、框組の修得の必要性に迫れなかった。

もちろん、職人の中には、個人的な関心から、そうしたものを独学で修得し、日々の仕事に投下している人もいたでしょうが、多くの場合、日々の仕事に十全に対応できる範疇の技法がありさえすれば、それ以上のものを求める必要性も無いのです。

そこを越え、より汎用性の高い技法を求めようと意欲を掻き立てる有為な人たちが、この親方を訪ねてきた職人たちだったということでしょう。

件の廃業への道を選択したSクンですが、彼が修行した場所というのは、実はこの親方の仕事ぶりをじっと凝視していた木工家のところだったのです。

その弟子であれば、そこで身につくのは、それ相応のものであったことはもはや説明を要しないでしょう。

なお、この框組の技法は柱と棚口の接合や、扉など枠組みにおいて有用な技法に留まるわけではありません。
あらゆる接合部位に関わり、面取り工法に活用できるユニバーサルなものであり、これを修得することで、意匠におけるより自由な展開が大きく拡がることにも繋がることになる、とても重要な仕口なのです。

鉋イラスト

一例として、卑近な事例を示します。
学童机の脚部です。


甲板に吸い付き桟として機能させている脚部の上桟と、畳ズリの下桟、この2つを繋ぐ柱。
これらの接合部は面腰で納まっています。
12mmほどの腰の量ですが、ここに偏倚したR面を施してあります。(見付け側はなだらかで、見込み側は急峻)

これは他でも無く、柔らかな線を出すための面処理です。

このように、同一の厚みを持つ複数の部材が接合して関係し、ここに任意の量で連続的に面取りを施したい場合は、こうした仕口はとても有効であることがお分かり頂けるものと思います。

これらは部材の段階で仕口加工の後、それぞれ個々に任意の同一の面を施し、仕上げておきます。
組んだ後、メチが出れば平滑にする程度で完成です(面の部位は何ら触れる必要はありません)。
(この項続きます

※ Top図版:蛇口、面腰の解説図版/ドイツのテキスト、から一部転載させていただきました)
(Der Möbelbau / Fritz Spannagel ISBN 3-88746-9062-6)

このテキストは、訓練校に通っていた頃、日本橋東光堂にて求めたものですが、現在も公刊されているようです。
いわゆる教科書のように、網羅的に解説されたものであり、大変参考になります。
特に図版が多く、またそれらは微に入り細を穿ちといった風で、ドイツ精神を感じさせられ、好感が持てる名著です。

hr

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