工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その9)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論・その2)

前回、基本的なエレメントに関しては解説してきましたが、いくつか残余のところを下手な図面と供に公開していきます。

ところで、キャビネットの構造には、大きく分けて、框組み、板差しの2つの方式があることはご存じの通りです。

私個人としては、それぞれの特性、意匠、駆体のボリューム、などから選択するわけですが、比率としては50:50といった感じでしょうか。

框組と板差し

框組と板差し

框組と板差し

何が何でも板差しで、などと頑なな考え方の人もいるでしょうが、そうした狭隘な考え方は賢明ではありませんね。
当地でも、何が何でも全て無垢材、板差し、というところもありますが、ワードローブなんて、木の固まりのようなもので、厳つさだけが先立ち、とてもクールとは言えない佇まい。

例えば、私のワードローブでは、扉は無垢材としての素材感を訴えた意匠を特徴としていますが、駆体そのものは框組です。
双方の特性を取り入れた造形、構成です。

逆に、Room Dividerなど、無垢材をシンプルに見せたいということであれば、こうした板差しに天秤差しというのは、クールです。

ここでは扉も框組ではなく板差しです。(実際は天然物の高樹齢の木曽檜のリニアな木目を活かし、これを単板に挽き、ラミネートさせ、伸張、収縮を殺した構造です)
このページにも解説しておきましたが、余分なものを排し、木曽檜の美しさだけで見せたいという考えからの意匠であり、構造でした。

このように、目的とする構成、機能、フォルムを導き出すための、多様な意匠、造形を産み出してもらいたいと願うばかりですが、そのためにも板差し、框組、それぞれの考え方、技法を習得したいものです。

さて、前置きが長くなりましたが、今回は前回の続きです。

框組における地板の納まりについて

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図版では3つの方式を示しました。
もちろん他にもありますが、代表的な事例です。

前回は棚口の前部を扉の納まり(ストッパーを兼ねた)を考慮したものを紹介しましたが、少し詳しく図示します。

棚口とツライチ(面一)で納まる方式です。
棚口を地板厚みの下部に小穴を穿ち、ここに段欠きした地板を納め、接着剤で固定させます。

前回も記述しましたが、帆立側は正面から1/3ほどまでは接着剤を塗布しますが、後部は自由に動けるように接着剤は塗布しません。
小穴で伸縮が可能な状態にしておきます。

無論、後ろの横桟の小穴にも塗布しません。小穴そのものにも収縮、伸張を考慮し、クリアランスを余分におきます。

なお、図版の緑色部分ですが、間口が大きい場合には、適宜、地板下部に根太を配置する必要があります。

2つめの方式は、地板を棚口の上にせり出させる方式で、このせり出した個所を扉のストッパーにします。
これは私固有の考え方、方式かも知れませんが、悪くない方式では無いでしょうか。

1つめの方式もそうですが、このように小穴を穿ち、前後、および上下の位置決めを確保するという考え方が肝要です。

位置決め(ツラ合わせ、および前後の位置)が決まると供に、この方式は結合度が高まるという意味合いで、賢明な考え方になります。

1つめの方式の場合、前後のシャクリが上下逆になりますので間違わないように。

3つめの方式は、地板を合板にする場合の1つの事例です。

棚口の扉ストッパーの位置に2分の厚みほどの棒を埋け込みます。
この程度であれば胴付きなど設けず、ドブ(そのままの厚みで入れること)で構わないでしょう。

組み立ての際、このままでは合板の密着が確保できないので、適宜、2〜3分ほどの釘で打ち付けておきます(釘を見せたくないと言うことであれば、6mm合板などを介し、細釘で仮止めてしおき、乾燥後に外せば良いでしょう。

合板の地板の場合、無垢材と比較すれば、やはり脆弱ですので、根太を適宜配置します。

框組におけるスリ残の納まりについて(補記)

前回、スリ残に関して少し詳しく記述しましたが、左右に抽斗が複数個配置される場合の構造を示します。④

左右に抽斗を分ける束を中心に、棚口に受け残を設けます。
これは背部の胴䙁に受け止められます。

ここに束の厚みと同一の厚みのスリ残を打ち付けます。
この打ち付けですが、接着剤は施さない方が良いでしょう。

組みあがった後、束と全く同位置に調整が必要になるからです。
棚口側から、スコヤを宛て、その位置にスリ残が来るように玄翁で叩き、合わせ、その後に木ねじを増し締めします。
接着剤塗布した後では、このようなことはできません。

抽斗の上側の棚口にも同様に桟を設け、煽り止めとします(無論、上下複数の抽斗が入る場合には、受け残そのものが煽り止めを兼ねるということになります)

この受け残には、棚口、および胴䙁と併せ、地板が納まる小穴を突きます。
この小穴ですが、前回も記述しましたが、二方胴付きの受け残ですので(こんなところはあえて四方胴付きにはしません)、枘のどちらかの位置に密着させ、穿ちます。

そのことで、例え二方胴付きではあっても破綻を回避し、本来の強度を発揮してくれます。

框組における抽斗のストッパーについて

この抽斗のストッパーもいろいろな方式があるでしょう。
アウトセットの場合であれば、抽斗前板そのものがストッパーになるので問題はありませんが、インセットの場合、別個に考えねばなりません。

前回は、抽斗の底板を胴䙁にぶっつけ、その底板の出っ張りで調整するという方式を紹介しましたが、
同様に、側板そのもので調整するということがあるでしょう。
具体的には、側板の適切な位置を決めた後、その背部のところに、ストッパーの駒を駆体に打ち付ける、などというのは、比較的一般に行われる方式ですね。

駆体が板差しであるにも関わらず、この方式で行っているのを視ることは意外と多いかも知れません。
当然にも、この場合、経年変化、あるいは季節要因によって、抽斗の位置は前後してしまいますね。

駆体そのものはそうした要因で伸縮しますが、抽斗本体は木部の繊維方向が逆ですので、動きません。
その結果、見付け、正面側では抽斗前板の位置関係がずれてしまいます。

さて次の方式ですが、棚口の前板の後ろ側の位置に、ストッパーの駒を活けるという方式があります。
これも比較的一般に見られる方式で、クールですね。(④の青色部分)

もちろん、上げ底でなければできませんが。

鉋イラスト

なお、間口の大きな抽斗の場合(500mm〜)、私はセンターガイドというものを設けることが一般的です。
奥行きとの比で、間口が大きいと、どうしても摺動のスムースさに問題が起きがちなもの。

この摺動を中心で補ってくれるのが、このセンターガイド。
これがあるだけで、間口の大きな抽斗でも、2つの抽手があったとして、その片方の操作でさえ出し入れがスムースにいくという優れものです。

最近はblumなど、金属製のスライドレールが進化してきていますので、あまり使われなく為りつつあるのかもしれませんが、ぜひ修得してもらいたい手法です。

私たち、無垢材の家具製作者に注文してこられる顧客の少なくない人々が、金具使用は止めて欲しい、との訴えをすることはフツーのことですからね。

ここでは詳細な紹介はしませんが、このBlogでも過去数回取り上げていますので、検索掛けてみてください。

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    ロック機構など 
    無垢材ならば、抽斗の構造アイデア・造り込みができるのですが
    「コスパ」では手抜きするしかない。

    彩菌のメーカーキッチンでは抽斗レスで無機質
    アルミ・ボード化モダンイメージ誘導演出。
    あれは、掃除、料理下手のためのデザインで困るし使い捨て。
    木のイメージで売るハウスメーカーデザインが矛盾。
    メタル刃物感満載、ストレス疲労の元。業務用ならいざ知らず、
    体にも良くないのだけど。

    優しい奥様方
    台所は、素材もふんだん、手仕事も最上の木工家に頼みなさい。
    居心地の良さは格段違いまする。

    キコローズより

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