工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

集塵ダクト工事

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はじめに

集塵ダクトの施工を試みましたので、その覚え書きを。

恥ずかしながら旧工房では集塵ダクトは無く、マシンに125φ、100φ、2種のホースをおのおの繋ぎ、集塵していました。

新たな工房ではこの集塵システムは必須の要件でしたので、まずは機械屋へ施工の依頼をしました。
ところが、機械屋推奨の集塵機(バグフィルター方式)本体の価格は予算オーバー。
そこで、中古も出てくるだろうからということで、これが入手できた段階で,ダクト工事も同時に行おうという合意で様子を見ていたわけです。

ところが現在に至るもこの機械は現れず、移転以降、旧工房と同じスタイルで推移していたという情けなさ。

これにはさすがに業を煮やし、ダクト工事だけでも先行して行うことに。
それも、業者依頼ではなく、セルフ施工でっ。

セルフ施工ですが、実は当地域の友人の幾人かはセルフで施工しているという事を知っていたからです。
その多くは小規模なものでしたが、中には大きな作業所全域にダクトを巡らせているなど、かなり本格的なものでした。

そこで具体的に調べれば、資材も手軽に入手できることが確認でき、それではと思い立ち、踏み切ったのでした。

ただ、しょせん素人の戯れ、施工を終わってみれば、さっそくいくつもの反省点が出てくるという始末。
ここでの紹介も意味があるとすれば、他山の石としてのそれでしか無いというものです。

エクスキューズはここまでとし、さっそく施工内容に入っていきます。

全体の構想

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集塵機本体

隣室の集塵機本体

以前の作業所と較べれば、かなり広い床面積に、所狭しと機械が設置されていますので、ダクト配管の総長もかなりの距離になります。
大小合わせ約40m。

ただ、集塵機本体は既存の3馬力の通称オバQと称されるもの1台ですので、全てを1つの出口から配管するのは、当然にも無理があり、3系統に分けました。

この3系統を集塵機本体直下で切り分け、機能させることに。これは機械のレイアウトに深く関わってきますが、必ずしも集塵の能力を発揮させるための配慮が為されているわけでも無く少し苦労しました。


以下の3系統の構成です。

A系統 ┬ Main傾斜盤 600wプレナー 300w手押し鉋盤
    └ 横切盤 ホゾ取り盤 & バンドソー

B系統─ルーター盤、ベルトサンダー

C系統 ┬ Sub傾斜盤
    ├ 面取り盤、Sub面取り盤
    └ 角ノミ盤、ボール盤

配管資材

スパイラルダクト

スパイラルダクト

木工集塵ではごく一般的なスパイラルダクトを基本として用いました。

個人が入手可能な業者は数社あるようですが、私はもっとも一般的と思われる「クリモト」に手配。
(クリモト カタログ:PDF

このスパイラルダクトは、一般には空調設備の配管に用いられるものですが、亜鉛引きの比較的軽量素材で扱いやすく、木工集塵における耐久性においても十分な性能を持っており、工場設備においてももっとも広汎に用いられている信頼性の高いものです。

吊り金具、サドル類

吊り金具、サドル類

継手など付帯部品のほとんどは同じところから入手できますが、吊り金具、サドルなどは汎用品を用います。

ただ、ブラストゲート(シャッター)は空調配管では取り扱い外であり、全く別のところから入手することになります。

日本国内では、かなり限られた市場ですので、どうしても高価なものになってしまいがちですが、米国市場では、個人向けにいくつかのところが製造販売しているようで、選択肢は豊富なようです。

日本国内でもこうした米国市場での取り扱いのものを取り寄せ、販売しているところがありますので、そうしたところから入手できます。

今回、私の場合は、友人からかなりの量の継手、ブラストゲートを譲渡していただきましたので、大いに助かりました。
Tさんには深く感謝します。

リベットの太さの穴を開け、ハンドリベッターで絞り上げる

リベットの太さの穴を開け、ハンドリベッターで絞り上げる

なお、施工に必要な道具ですが、金属用ディスク切断機、金バサミなどは、そのほとんどを持っていましたので、新たに導入したものは〈ハンドリベッター〉という道具のみでした。

ハンドリベッターをかしめたところ、外部、および内部

ハンドリベッターをかしめたところ、外部、および内部

この〈ハンドリベッター〉という道具は、これまで業務上も必要とされなかったため、存在そのものを知らず、セルフ施工している友人から聴きだしたものです。

これは大いに役立ちました。

必ずリベットで固定させねばならないというわけではなく、専用のテープでも良いのですが、上下に継手がくるような位置関係では自重で脱落することを避ける意味から固定が望ましいわけです。

施工結果

600mmプレナーから奥の手押鉋盤へ

600mmプレナーから奥の手押鉋盤へ

私の作業所でもっとも重要な集塵対象はプレナーです。

600mmワイドでパワフルに削っていきますので、排出されるオガ屑の量は半端なものではありません。
安易な方法、パワー不足の集塵ではたちまちプレナー本体がオガ屑まみれになり、削られる板はこのオガ屑で叩かれ、板面はヒドイ状態で吐き出されてしまうものです。
強力な集塵力が無いとこんな機械は使えません。

次いで、手押し鉋盤でしょうか。
うちのレイアウトでは、集塵機本体からもっとも遠くに設置されていますので、必要な風力が届くのか、少し心配されました。

しかし、いずれも完璧に集塵してくれているようです。
移転してからはやや安易に100φで集塵していたところ、毎度のようにパイプ詰まりしていたものですが、いくつもの継手、ゲートを介しながらも、余裕を持った径であることで抵抗が少ないためか、よく吸ってくれています。
成功!、ということですね。

3系統のダクト

3系統のダクト


集塵機の出口の径、150φをそのままマシンの直近まで配管し、そこからY菅でプレナー出口の125φに絞ったことにあると評価されます。

途中、H鋼のデカイ梁や、2階のショールーム、居住空間に伸びている水回りの配管などををかわさねばならず、フレシキブルのアルミ菅を挟まざるを得なかったのですが、さほどのロスもなく繋がったようです。

途中、いくつかのY菅を挟んでいる系統ではあるのですが、適宜ブラストゲートで切り分けているために、風力、集塵力が落ちなかったのでしょう。

風力計算の重要性

本来、こうした集塵システムは専門的な知見に基づき設計されねばならない領域のものです。
与えられた条件の下、どの程度の集塵機の能力が必要なのか。
またダクトの効率的な設計、レイアウトはどうあるべきか、導き出される必要があります。

木工機械の会社でもこうした領域の知見に秀でた人は稀かも知れません。
集塵機に特化した技術者でないと難しいというのが実際のようです。

したがって、と言えば良いのか、私は埒外であるためか、適切な設計では無かったと反省すべきところは多いですね。

上述の通り、メインの幹線は問題無かったものの、B、C系統は設計が甘かったことは確かです。
本来であれば、150φから125φ、そして端末の100φへと絞っていくのが効率的なわけですが、この系統はほとんど100φで配管し、ドリルプレスのところへは75φで配管するという構成でした。

これはそれらに繋がる木工機械のダストは細かな鋸屑に留まる、ということを前提としたもので、さほどのパワーは必要とされないという考えからのものでした。
しかし、これは誤りです。

例え、集塵対象のダストが細かなものであっても、集塵機のパワーを伝えるには、風力を落とさぬよう、150φから125φ、そして端末の100φへと絞っていくことが必要だったと思います。

もちろん、現状では問題無く吸引してくれているので良いのですが、やはり風力は明らかに弱いです。

加え、継手の湾曲部位ですが、45°のY管はともかく、90°のプレスベンドで繋いだのは甘かったでしょう。45°を繫げていく、あるいは90°でもセクションベンドを選択するなどの配慮が望まれるところです。
分かってはいるのですが、予算等の難しい判断もあり、最善とはいかないわけですよ。

しかもT管を2個所使っていますが、ここもY管とし、曲率を緩和させるべきところでしょう。

反省に基づいた今後の課題ですが、中古のバグフィルターの集塵機が出てきた際、改修することにしましょう。

セルフ施工という考え方について

ダクト切断後の研磨処理

ダクト切断後の研磨処理

反省多としたように、プロに施工を依頼するのが賢い方法であることは言うまでもありません。

ただ、設計さえプロ的な知見に基づき行うことができれば、施工そのものは、素人でできないものではありません。
私のようなド素人でも、それなりの品質で施工できましたからね。

道具も、汎用的な道具の他、切断機、ハンドリベッターなどがあれば十分です。

金属用ディスク切断機

金属用ディスク切断機

経費としての評価ですが、業者見積の1/4ほどで済みました。
もちろん、人工、手間賃を除きですが、

なお、施工が終わってから気づいたのですが、近隣のホームセンターK社にもスパイラルダクトの取り扱いがあり、私が求めたオンラインショップのものより幾分廉価でした(ただメーカーは違うのですが)。

ただ慣れない高所での危険な作業環境が主体となりますので、かなり疲れましたね。

経費は削減されますが、セルフ施工は賢い資材入手ルートの探索の他、いくつかの覚悟が必要と言うことです。
テクニカル的な領域ではさほどの難易度は無く、木工をされていらっしゃれば、たぶん、どなたでもチャレンジできます。

今後の課題

一部、高所に配管された幹線にブラストゲートを挿入せねばならなかったのですが、高所へのアプローチは大変ですので、電動式にしたいものです。

集塵機本体のワイヤレス駆動のスイッチも欲しいですね。

単相であれば既存のものがいくらでもあるようですが、三相は一般的では無く、既成ではかなりの高額に。

その代わりと言ってはなんですが、もっとも高い頻度で使われる機械(傾斜盤)の近くまで電磁開閉器(スイッチ)を延長させ、ここからON,OFFさせるようにしています。
これで使い勝手はかなり改善されました。

これまで、そもそも木工とはオガ屑を吐き出し、汚い仕事だと任じてきたところがありますが、この環境から脱することは少なからぬ意味のあることでしょうね。

私は、唯一の既往症として呼吸器喘息を抱えていますが、まさに木工作業による職業病です。
たぶん、一生付き合っていかねばなりません。
おかげで旨い酒も抑制的にならざるを得ず、ちょっとした旅行にも4種の薬の携行が欠かせません。イヤですね。

木工屋がQOL(クオリティー オブ ライフ)な人生を歩むには、集塵システムは必須ということなのでしょうね。
気づくまでなんとあまりの多くの時間を要してしまったことか。…>_<…



hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 集塵ダクトのレイアウト、床下の方が良いのではないかと思ったりするのですがどうなのでしょうか?長尺ものの取り回し時にぶつけることもないでしょうし、集塵力も天井下より高いと思ったりします。
    建設開始時からのBlogを拝見していて、床が高いようでしたので床下とばかり思っていました。メンテナンス重視、ということになるのでしょうか?

    • ドウモ。
      確かに床下に配管した方がスマートですよね。
      ただこの場合、築地市場の豊洲移転では無いですが、床下ピット的な構造を確保せねばなりません。
      残念ながら、既存鉄骨建築物のリノベーションであるため、ベタ基礎に105の根太を流し、28mm構造合板を張るという手法でしたので、三相電線を張り巡らせるだけで精一杯でしたわ。

      加え、集塵トラブルへの対処においても床下システムでは、かなり細かな細工が必要になりますね(床材も、ダクト材も)。
      小規模であれば、床下配管は望ましいスタイルかもしれませんが・・・

      〈追記〉
      なお、上の考え方ですが、当初、私も床下配管で考えたものの、機械屋からの同様のアドバイスもあり断念したという経緯もありました。

      ただ、これは使い勝手よりメンテを優先して考えたいという、立場上の評価であろうことも確かではあるのですがね。

  • Swedenの訓練専問学校Finland 森林大学では、天井クリアランスが高く上部集塵です。寒冷地では床下配管は床暖と合わせてメンテが複雑。天井吸塵ならば機械レイアウト変更がしたすい。天童木工で床下集塵を初期のころ、大分昔、木っ端など取り除くのが難儀でしたね。今はどうなったか。
    家具工房と違い、建築部品、造作室内施工では冷暖房、振り回し、原寸墨だし等を考えるとダクトホースが垂れ下がるのが目障り。作業場が広ければ問題なく、床の仕上げ次第かも。木の床が疲れなく、道具や人体・作品にもよいです。自分の工房は、一階木取り、仕上げ場二階で天井梁スペース設置上下求人にしたい。

    Finland 森林大学 

    画像は Finland 森林大学(Photo. by M. Nakayoshi )

    拡大画像はこちら

    • 天井高いですね。体育館なみの6mほどもありそう。
      機械レイアウトにも余裕がある。

      床下配管はスマートで小規模Workshopには良さそうですが、制約も大きいようですね。
      この画像を観る限り、ダクト径は150〜200あたりが基本のようです。
      1,200mmほどのワイドサンダーも設置されてる。
      埃1つ、落ちてない。

      1F木取り(a:上部配管)、2F仕上げ(b:床下配管)との構想
        つまり、a、bは同じレヴェルってことですね。 合理的、スタイリッシュ。

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