工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ハシバミの効用と、視覚的美質と、経年変化への怖れ

ハシバミとは

ハシバミ(端嵌?orハシバメ?)は無垢材を扱う木工の仕事においては比較的一般に広く用いられる手法の1つです。

私のハシバミ(裏側)

私のハシバミ(裏側)

無垢材は置かれる環境(湿度=大気中の水分量)の状況変化により、間違いなく反ろうとします。
木は伐採してしまえば死んだも同然と思いがちですが、さにあらず、いくらでも動こうとします。
樹種により多少の差はあるとしても、あるいは同種の木であってもそれぞれ固有の条件で反ってしまうものなのです。

家具などに木部を取り入れる場合、このような特性をそのままにしておくわけにはいきませんので、何らかの方法で反りを止めねばなりません。

これには、人々が古来から編み出してきたいくつかの手法があるわけですが、表題のハシバミもその代表的な手法の1つというわけです。


私のハシバミ(表側)

私のハシバミ(表側)


木の物理的特性として、反るのは繊維方向と直交する側、つまり木口側になるので、ここに反りを止めるための板を嵌め込む手法がハシバミです。

繊維方向と直交する側に、無視できるほど反ることの無い繊維方向の部材を結合させ、全体の反りを止めようという手法です。

こうしたハシバミですが、大きなテーブルの木口処理に用いられたり、無垢の扉などには大小問わず、良く用いられます。

様々なハシバミ

今回私は飾り棚の扉に用いたものを紹介するわけですが、まずそのバリエーションの豊富さを確認いただくために参照図を掲載します(工作社【インテリア事典1・家具編】から)

この豊富な手法の中でも高級と言われる手法としては、A-24、A-25 あたりが良く用いられているようです。
大きなテーブルなどには、A-21あたりでしょうか。

私が良く用いる手法はA-30に近いものですが、これをさらに進化させたものになります。

Top画像がそれです。

この、A-30は、A-24、A-25が見付側(正面)にもハシバミ材が露わになることに対し、ほぼ同様の構成、手法でありながら、見付側には出さず隠す手法であり、見栄えに腐心したものと言えるでしょう。

ただ、残念ながらこの手法はA-24、A-25には備えてあるホンザネ部分(メチボソ)が省略されてしまっています。
たぶん、これでは一見見た目は良くても、接着剤のみの強さで結合しているだけですので、扉本体とハシバミ材の環境変化による反張の差異により、接合は切れ、やがては破綻することは避けがたいでしょう。

私はこれを進化させ、A-30の構成を持たせつつ、かつホンザネを備えた加工をしています。
わずかに2分の厚み、2分の深さのホンザネではありますが、その有無の違いは天地ほどの差があるでしょう。
ホンザネがあることで食い込んで放しませんので、反り止め効果は絶大というわけです。

加工方法

A-30の加工に加え、ホンザネの溝を切る、ということになりますが、

以下、私の加工プロセスを簡単に紹介します。

〔板の方〕

  1. 墨入れ(ハシバミの幅の墨は毛引きで、両端の留め部分は白書きで)
  2. ハシバミの幅(ホンザネを除く幅)と同寸の位置に、丸鋸で切り込む。
    ただし、両端は残す必要がありますので、途中から鋸を入れ、端末の手前で止める。
  3. 板を立て、木口側の、残す表側の部分に鋸を入れる。
    この時、鋸の深さはホンザネの分まで深く入れる
    ここでも両端は残さねばなりません。
    この加工工程はやや危険を伴うので、経験者であればともかく、初心者には勧めらません。
  4. この残された両端を切除するには、手鋸、手ノミなどを動員して行うわけですが、ピンルーターがあればかなり合理的、かつ高精度に切削できます。
  5. 横溝ビット

    横溝ビット

  6. ホンザネの溝は、横溝ビットで行うのがもっとも合理的な手法です(右図)。
    ハンドルーターでもできなくはありませんが、操作の安定的な運行が求められます。

    あるいは丸鋸で数度に分けて必要とする溝の幅まで切削するという方法もあるでしょう。

ただこの丸鋸ではワークトップに接する面と縦のフリーな部分の差異が大きく高精度な加工は難しく、容易でかつ安全なピンルーター、あるいはルーターテーブルでのアプローチが望ましいでしょう。

ただいずれも先述同様、途中で入れ、途中でストップさせるということになります。

その結果、残余の部分は手ノミなどでの仕上げ加工が必要になります。

〔端嵌の加工〕

  1. 板の加工に合わせ、墨付けし、木取ります。
    ただ、ホンザネ(メチボソ)部分の伸びを考慮しなければいけません。
    幅方向の伸びは簡単ですが、長さ方向は伸び代の√2倍を加算します。
  2. 幅をカットし、次ぎに留のカット。
  3. 次のホンザネ(メチボソ)加工ですが、丸鋸昇降盤にカッターを取付け、端嵌の加工側をフェンスに沿わせ、運行させ、ホンザネ(メチボソ)部分だけを残し、切除するという方法が良いでしょう。至って簡単ですね。
  4. 留め部分のホンザネ(メチボソ)の伸びですが、先端は取り除かねばなりませんがわずかな距離ですので、手加工で簡単に済ますことができます。

留め部分の嵌め合い精度ですが、板に穿った部分と嵌め合わせを確認しながら行います。
もちろん、留め部分を胴付き鋸で手加工するのも良いでしょうが、機械では設定が困難ではあるものの、切削精度(直線性、直角精度)ははるかに高いものです。

嵌め合わせですが、A-30の場合はしっかりと食い付かせるのは困難ですが、私の手法であれば構造的に食い付いてくれますので、接着強度も高く、経年変化における耐久性もはるかに高いでしょう。

しかし、ここまで書いてきたものの、さて、A-30の手法を本当に選択し、工作する設計士、職人はいるのでしょうかね。

今回のこの記事を書くに当たり、とりあえずこの資料を見通し、私の手法と似た方法があり着目わけですが、こんな中途半端なことをする設計士、職人がいるとも思えませんね。
先述のように、このままではやがては破綻するであろことは、多少の経験と、相応の想像力がありさえすればたちどころに見破られるものでしょう。

著者の認識不足ではないかとさえ思えてきますが如何でしょうか。

なお、次のA-31はとても有用で価値ある手法と言えるでしょうね。

次回の機会にはぜひホンザネ(メチボソ)付きで、このA-31の手法へと進化させていきましょう。

因みに、今回紹介した扉ですが、材種はClaro Walnutです。

またこの見付側に露わにさせず隠すハシバミ方式の今回の割り付けですが、以下のようです。

  • 表:4mm
  • ホンザネ(メチボソ):6×6mm
  • ハシバミ部分:20mm
  • 〔全体の厚み:24mm、ハシバミの幅:45mm〕

最後に

さて、見付側は框構成では無く、あくまでも無垢の一枚板で納めたい、という要請に応える手法は他にもいくつかの方法があるわけですが、次回、そうした方法の1つを紹介したいと思います。

2016年も今日が最後。
一年間、本Blogをご愛読いただき、ありがとうございました。

制作している木工家具の紹介、今回のような木工技法に関わること、関連する道具、機械に関わる情報、さらには木工全般にわたる事柄など、様々な記事を上げてきました。
最近は意識して避けてきている社会情勢におよぶ事柄も、やむを得ず挙げざるを得ないこともありました。

決していただくコメントが多いとは言えませんが、紹介に値する対象であれば、今後も記事をupしていくことでしょう。
Blogという性格上公開が前提とはいえ、自身の活動のLogであるということでもありますので、木工に勤しむ証しとして今後も変わらずに続けていこうと考えています。

もちろんコメントを寄せていただければノリも良くなり、どんどん記事も膨らんでいくことでしょうから、社会的な意味合いもより獲得していくことに繋がります。
どうか、気になること、自分なりの解釈は別にあるぜ、などといった事柄があれば、ぜひお寄せください。


ところで、このところ同業の方との話しの中からは2020年東京五輪に関わる建築需要に沸き立つ話しもも出てくるのですが、私などはそうした公共的なところとは無縁で、ほほう、と他人事のように聞くといった風なのです。
イベントを打つことで需要を喚起させることも経済政策上必要なのは理解しますが、私のような持続可能で品質追求の木工に勤しむ立場の者にとっては、さほど意味があるとも思えませんので、まるで他人事でのようにか思えないものです。

2020東京五輪に関してはスポーツの祭典として盛り上がるのは分かるのですが、メディアを賑わすのはもっぱら競技会場問題からはじまり、エンブレム公募問題、豆腐じゃあるまいに2兆3丁といった資金規模の問題等々、もう耳を塞ぎたくなるほどに忌まわしい記号に成り果てた東京五輪というものに関わることを忌避したい、との思いが先に立つという要因も大きいのは事実です。
ここで蠢く面々はまるでカネに群がる守銭奴のようで、スポーツの精神とは対極的なスピリッツが見え隠れし、どうも肌合いが違いすぎます。

例えそうした世情喧しい喧噪と無縁であったとしても、いえ無縁だからこそ、静かに、弛み無く、自分の目指す木工へと向かうことができるようというものです。
2017年も、そうした志でじっくりと歩を進めて行こうと思います。
がんばりましょう。ありがとうございました。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 今年もよろしくお願いします。
    この方法で反りを抑えられるのは理解できるのですが
    板が収縮または膨張した時にどうなるのか、という疑問です。
    膨張の場合は、まあ留部分に隙間が開くだけで、表からは見えないので良しとしても、収縮の場合はハシバミ部分を外に押し出す力が働き
    板が割れるリスクも残るように見えるのですが、収縮はどこに逃げて
    行くのでしょう?

    • acanthogobiusさん、さっそくのコメント投稿、ありがとうございます。
      acanthogobiusさんのことですから、お正月からさっそく工房に通い詰めていらっしゃるのかもしれませんね。
      本年もよろしくお願いいたします。

      さて、ご指摘の板の伸張、反張に関わる懸念。大変大事なところですね。
      実は、本件記事の表題(「ハシバミの効用と、視覚的美質と、経年変化への怖れ」)の「経年変化の怖れ」は、まさにそこを指しているわけです。

      また記事中にも「別の方法を次回、紹介しましょう」とありますように、そこでこの懸念に応える内容の別の手法の紹介とともに、考えていこうとしたところです。

      本日(1月1日)既に、新たに別の記事を上げていますが、これは新年のご挨拶ですので、数日中にも、関連記事を上げますので、今暫くお待ちください。

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