工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

グローバル世界と国民国家への回帰の狭間で(トランプの時代)続

トランプをひと言で言い表せば帝国としての世界大的な展開が困難になってきた時代、この転換点に生起している様々な歪み(国内外の経済的分断、人種的、宗教的分断など)からくる国家としての沈滞を、右翼ポピュリズム的手法で打開しようとするファシズムの1つの政治形態なのだろうと考えている。

その具体的手法ネオリベラリズム(新自由主義)とナショナリズムの組み合わせだ。
それがトランプの既成政治支配層・エスタブリッシュメントへの憎悪であり、法的手続きの無視であり、移民の排斥であり、批判を許さないメディア弾圧であり、女性、LGBTQ、黒人、有色人種への差別偏見であり、恐怖政治の創出として表れていると理解することができる。

ただ孤立と保護主義を「アメリカ・ファースト」とポピュリズム的物言いで一方では語りつつ、他方で「アメリカを再び偉大な国にする」と世界的ヒエラルキーへの欲望を語る、この相反する矛盾をどう理解すれば良いのか。

結局は「自由と民主主義」というソフトパワーを掲げつつ、世界大的な軍事展開も止めない、という方向は見えつつも、果たしてこの矛盾がどう展開され、収斂していくのかが理解できるまでにはかなりの時間も必要になるようで、現段階では全く未知数。

でも、そうはいってもそれが多くの人に見えてくるまで、既に生じているような暴政による市民の人権への侵害などを無視することもできない。

既に欧州の主要国ではこの2017年、いくつかの国政選挙があり、トランプのサプライズ的な勝利に浮かれ、励まされ、右翼ポピュリズム政党が勢いづいている。
1年後の本年末、私たちの前にどんな世界が表れるのか、悲劇的な様相を見せることは無いだろうとする楽観的な予測など誰もできないほどに、世界は流動化している。

進行しているトランプの矢継ぎ早の大統領令に目を奪われがちな今だからこそ、ここでいったん立ち止まり、いったい何が起きているのか、冷静に見据えていきたいと思う。

世界を司ってきたこれまでのシステムは構造的疲労を起こし、このままの延長線上に予定調和的な未来を展望することなどできないと言うこと。
弥縫策を講じようとも、それは単なる一時しのぎでしか無く危機の先延ばしでしか無いこと。

今はそうした新たな世界システムへの大きな転換期として、そこでのギリギリとした軋轢による歪みの1つとしてトランプ現象が現れている。
例えこれに翻弄されがちであるとしても、トランプ現象のその先にかすかに見え隠れしている対抗現象を捉え、良く考え、あるいは指標としつつ、歩み始めることだろうと思う。

オルタナティヴの選択はあるのだろうか

バーニー・サンダース現象

民主党の候補者選定の過程で表れたバーニー・サンダース氏の勢いはすごかった。
予備選終盤に掛け、ヒラリーの支持に負けず劣らずの闘いを展開していた。

世論調査(RealClearPolitics)

世論調査(RealClearPolitics)

民主党全国委員会は、このサンダースの勢いに危機感を抱き、ヒラリー有利の情勢へと様々な裏工作を行ったとされ、最終盤、トランプとの一騎打ちに勝ち抜くためということで、サンダースはやむなく予備選から撤退するという事態に。

こうして、ヒラリーとの候補者選定ではあわやという勢いを示したサンダース現象は、トランプを押し上げたアメリカ社会における底辺での構造変動と似かよったものがあるようだ。

誤解を怖れずに言えば、つまり右からのポピュリズムを代表したのがトランプであり、対し、左からのポピュリズムを牽引したのがサンダースであったということでもある。

それまで民主党支持を続けてきた若年層のうちの少なく無い人たちが、ヒラリーでは無く、祖父のような世代差のあるサンダースの熱い言葉に自己の未来を投影するという痛快な現象が起きていた。

ウォール街に近いヒラリーでは無く、こうした金融界とは無縁のリベラル左派(社会党を名乗るという、米国政界では実に異質な政治家)に大きな期待が寄せられたわけで、民主党エスタブリッシュメントからの横槍が無ければ、彼はヒラリーへの支持を上回り、候補者として勝ち残り、ついにはトランプと良い戦いを展開し、かなりの確率で勝利した可能性は高かった。

トランプと同じ土俵でがっぷり四つに組むのであれば、ヒラリーではなく、やはりサンダースの方が良い戦いを展開できたという思いは強い。(右図は「RealClearPolitics」による世論調査による支持率の推移を表したグラフ)

なお、白人女性の半数がトランプに投票したという調査結果もあり、女性のヒラリー嫌いというデータが出てきている。
「アメリカ大統領として初の女性」という透明なガラスの天井を破る絶好の機会を逃すといった意味をも持った選挙結果だったわけだが、こうした結果論からもサンダースは惜しい候補だったとも言える。
私は何も女性だから敗れたとは言いたくは無い。ただその候補がピッカピカのヒラリーであったという候補者の問題は不問に付すべきではないと思っている。

ぜひ、次なる女性候補を出でよ!、との思いは強い。

さて、サンダースだが、彼も高齢なので、今後、どれだけ支持を維持できるのかは未知数だが、その動向には注目していったほうが良いだろう。

以下にサンダース陣営の選挙キャンペーンに使われた動画を参考までに置いておこう。

「正義とは」バーニー・サンダース 日本語字幕付き

2017年、欧州は政治の季節

国民投票の結果、EU離脱を決めた英国の動向も気になるところだが、2017年は欧州の主要国で国政選挙が重なり、それらへもまたトランプ現象が深く影を投げかけているようだ。

トランプ就任の翌日、EU傘下各国の右翼がドイツ・コブレンツで集会を開いている、フランスの極右政党、国民戦線(FN)ルペン党首、オランダの極右政党・自由党のウィルダース党首、「ドイツのための選択肢」(AfD)ペトリ党首ら、一同に集結し、「次は欧州の番だ」と息巻いていた。

3月にオランダ総選挙、翌4月にフランス大統領選、6月にフランス国民議会選挙、8〜10月にはドイツ連邦議会選挙と続き、翌2018年5月にはイタリアでも総選挙。

悲観的な予測を赦してもらえば、これらの国々での右翼の台頭は疑いないのだろうと思う。
ここ数年の金融危機、中東からの難民の「襲来」、これらはEUの普遍的な価値であった自由、平等、博愛、寛容の精神、これらをズタズタに引き裂き、そこへトランプ現象の浸蝕でいよいよリベラル既成中道左派の影響力は影を潜め、右翼の台頭を促しているようだ。

EUとは言ってもこれらを平板に見ても仕方が無く、やはり何と言っても最大の経済的、政治的影響力を持つドイツがどのような政治志向を見せるのかが最大の鍵だろうと思っている。

言ってしまえば、メルケルがどこまでEUを牽引していけるのか、という問題だ。
難民がもっとも押し寄せている国は、フランスでも無ければイタリアでも無い。圧倒的な人々がドイツを目指している。
これは今ではかなり閉鎖的になりつつあるとはいえ、中東からの難民に国境を開きWelcom!の姿勢を見せたからでもあるが、それよりも何よりもEUの中にあってもっとも経済的に活力を持っているからである。

それだけにこの年末に控える国政選挙でドイツの政治基盤がどうなるのかが、2018年以降の世界を決する大きなファクターになるのだろうと思っている。

欧州のオルタナティヴを概観してみると

ところで、数日前の朝日新聞の〈ピケティ コラム(仏ルモンドとの連携)〉に興味深い論考があったので貼り付ける(Webでは会員契約しないとインデックスしか読めないので画像をおきます)。

抑制された筆致ではあっても、「ナショナリズムと排外主義のうねりにさらわれかねない・・・事態は切迫している」とあり、ピケティの文体としてはいつになく悲壮感さえ感じるものとなっている。

もちろんフランスに焦点を置いた論考であれば、オランド大統領がISに関わるテロリズムへの対応で翻弄され、余りにもだらしのない政権運営しかできていない事でのペシミスティックな論調であるとは言え、たぶんに欧州の平均的なスケッチを試みれば、このような論調になるのだろうと思う。

ここでは「この難題に的確な解決策を構築するには、国際主義的なポピュリスト勢力――スペインの左派新党ポデモス、ギリシャの急進左翼進歩連合シリザ、サンダース氏やメランション氏のような急進左派――を頼りとするしかない」として、欧州のいくつものところから生まれ出て来ている新たなオルタナティヴな政治結社に期待を寄せている。
その前段に書かれているバーニー・サンダース氏の健闘への評価と共に。

たぶん、私もそうした既成政党に飽き飽きした人々が、トランプ、ルペンのような右派ナショナリズムではなく、バーニー・サンダースやポデモス、五つ星運動(これもいわばポピュリズム政党というような装いをもって人々の前に現れているわけだが)に、対抗勢力としての未来性に期待を託していくようになるのではないかと思っている。注目していきたい。

関連して、英国からユニークな視点でのコラムを届けてくれている〈プレディみかこ〉さんの論考「ポピュリズムとポピュラリズム:トランプとスペインのポデモスは似ているのか」を紹介しておきたい。
危機的な経済、社会情勢であればこそ、お品な、建前だけの既成中道左派ではない、新たなポピュリズムな装いを持ったリベラル中道左派こそが、台頭する右翼ナショナリズに対抗できる勢力になりつつあるようだ。
(右図は欧州のポピュリズム勢力)

日本ではどうかって?

既に何度か触れているとおり、日本国内では安保法制が強行採決され、今国会では悪法として名高い戦前の治安維持法と変わらぬ主旨の共謀法案が上程されようとしており、安倍政権は戦争体制の構築にやっきになっている。

経済的には第二次安倍政権発足時以来、大胆な異次元の金融政策、機動的な財政政策、そして成長戦略という三本の矢のドアホノミクスを継続するも、未だに2%のインフレ目標の到達が見えないばかりか、その副作用ばかりが表面化し、大失敗しているとする経済評論家も少なく無いという現状。

事実、労働者の実質賃金は5年連続のマイナスという指標が語るところは、言うまでも無く日本経済、日本社会の長期停滞、そしてこれを放置し恥じない日本政府の姿だ。

雇用環境は改善しているとはいうものの、その内実は非正規労働者の比率が増加してのことで、労働環境はますます悪化しているという実態に、安倍政権は為す術も無く、漂流しているという情けない状態を呈している。(右図は昨年5月の厚労省の発表から朝日新聞が図示したもの)

さて、こうした疲弊する日本社会にあって、対抗勢力はどうなのだろう。

小泉改革は日本社会を根底から堀崩し、今に繋がる荒廃した社会を作り上げてきたわけだが、これへの対抗軸としては、中曽根行革以来、労働運動は完膚無きまでに壊滅され、有為な対抗軸を失ったままで推移し、政権のなすがままの状態で、昨今では春闘でさえ、政府側から賃上げを要請されるという労働側の体たらく状態をみせつけられる情けなさだ。

一昨年から昨春にかけ、国会前での安保法制法案の強行採決、憲法改悪に反対する運動・SEALDsという学生を主体としたポピュリズム的な対抗運動があり、当初は上述したオルタナティヴな運動の1つに思えたが、国会前では左翼を暴力的に排撃し、警備警察に取り締まりを要請するなどと言った振る舞いなど、残念ながらいくつもの胡散臭さを抱えていることもあったためか、大きなうねりにはなり得なかったようだ。

そうした中央での政治団体ではなくとも、地方に足を踏み入れれば、安倍政権による悪政で疲弊する地域社会の中で地に足が着いた社会活動、コミュニティー活動などに目を見張るものもあるようで、時間は掛かるものの、そうしたところから余りにもヒドイ安倍政権の悪政に対抗する運動の萌芽も見えてくるのではと期待している。

絶望するしか無い国内の政治状況に目を奪われがちだけれど、諦めるわけにはいかない。
戦後世界を支配してきた既存のシシテムは構造疲労に沈み、今は新たなシステムに向かう分岐店に立っているという認識に立てば、この忌まわしい現実にも冷静に向き合うことができるだろう。

既成政党などに期待するところから一歩外へ歩みだし、自分たちこそ地域に根ざした緩やかなネットワークの一翼を担うという意識を持ち、共に学習し、力量を付け、右翼ナショナリズムに対抗できる智恵を磨き、彼らの社会底辺層への浸蝕を阻んでいかねばならない。

そうした小さな活動であれ、遠く離れたところに届き、意思の共有を通し、有為な対抗軸に育って行くことも可能だろう。
大切なことは決して諦めないこと。一人一人の力からしか何事も始まりはしないということ。

21日の〈Women’s march on Washington〉が世界で470万人を奮い立たせたように、人々に 未来が拓かれていることは信じるに足ることなのだから。(米国という国はトランプというファシストを生む国ではあるのだが、こうしたデモクラシーが死に絶えること無く息づき、圧倒的な力を見せてくれるのもアメリカなのだなとあらためて思わされる)

ピケティの「事態は切迫している」という認識とともに、この未来を切り開く一人一人の意思に全ては掛かっていることを確認しておわりにしたい。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 光半が分かりや水です。
    遂行雨したけったですね。

    出切ることをタンタン
    艶得ることをデンデン

    おんみの1台時ですが
    クレグレオイル断泣く

    錯品に語らせるメッセ
    ジャン愚ルカテゴリー

    張る近し
    隣は狐狸
    雪どけ日
    新月伐採

    キコルーズABE

    • 矢継ぎ早に大統領令が発せられていますが、入国規制では全米各地の空港から、世界の国際空港の米国路線まで大騒ぎ。
      全米、いくつもの連邦地裁が違憲であり公訴すると息巻いていますし、欧州の首脳からも、あまりのドラスチックな規制で懸念を表明と、大変な事態ですね。

      一方、米国民の過半数がこれを支持するとの世論調査結果も。
      アメリカ人ってのは国外の事は全く関心が無いのか、あるいは無知の人も多いというので、この結果。

      ある程度の覚悟はあったものの、序盤からこの大激動では全く先が読めませんわ。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.