工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工家具制作におけるサンディング (その9)

サンディングバナー
手作業でのサンディングということについて
これまで木工家具制作におけるサンディングについて、その基本的な考え方からはじまり、具体的手法として機械によるサンディング、電動工具によるサンディングと解説してきたが、最後に手作業でのサンディングについて記述しなければならない。
手作業でのサンディングというものは恐らくは木工家具制作のプロセスでは誰しも経験し、それぞれが編み出した手法、考え方というものがあるだろうし、それらは一様ではないだろうと思う。
したがってここではうちでやっている手作業でのサンディングについてという限定的なものになるかもしれないが、しかしその考え方についての記述はこれまで同様、普遍的で応用の効くものとして記述することを心掛けたい。
【手作業でのサンディングについての考え方について】
これはこれまで8回にわたり記述してきた中で一貫して書いてきたことと大きく変わるものではないので繰り返しになってしまうが、少しインターバルが空いてしまったこともあるのでここであらためて再度確認しておこう。
サンディングという工程は、塗装工程のプレ段階のものとして位置づけられ、一般に素地調整といわれるものであり、その目的は鉋などでの切削工程で出し切れなかった均質な板面を求めるものであったり、あるいは加工工程で凹ませた部位を元に戻す、加工工程で荒れてしまった板面を整える目的であったりする。
この素地調整といわれる工程で求められる品質というものは板面の多様な繊維細胞の配列に引きずられることなく、均質に仕上げることが基本となる。
これによってその後の塗装工程により木質の固有の表情というものを見事に引き出すことに繋がっていく。
これが不十分であると、その木が有する本来の表情は引き出されることなく、沈んでしまったり、ムラになって汚いものになってしまう。
(なお、あらかじめ付しておかねばならないが、こうした考え方の記述は、あくまでも高品質、良質な木工家具の制作というものを前提としたものであり、そうした水準以下のいわば日曜大工的なものを対象とした場合は、あまり参考にはならないことは言うまでもない。
つまり素地調整において板面の均質を求めると言っても、高度な指物工芸において求められる水準と、日曜大工的なものとでは全く次元の異なったものになることを指していることは言うまでもない)


さてこの均質に仕上げるということと同様に重要なことがある。目的とする形状(例えば平面であったり、丸面であったり、という)を加工工程で造り上げたものを損なうことなく、あるいはより高精度に仕上げるという配慮が強く求められる。
例えば平面の板面のサンディングでは、あくまでも良質で均質な研削精度で、平滑に仕上げることが求められると言ったように。
しかしこの一見当たり前と思われる水準も実はサンディングの手法のアバウトさによって、その結果大きく損なわれてしまっているということも事実。
例えば周囲の部分がだれてしまう。あるいは春材、晩材での細胞レベルでの堅さの違いで、誤ったサンディング手法によって、柔らかい春材部分が凹んでしまう、といった実態はよく経験させられることだろう。
もっと高水準の領域では、研削精度が均質でなく、本来の板面の表情が均質なレベルで現出させられていないと言うことなどは、高度な指物工芸においては評価対象にならざるを得ないことでもあろう。
こうした現場の実態を見れば、手作業でのサンディングというものも、その手法、技術というものがやはり重要なのだということになってくる。
さて基本的な考え方はこれまでとして、具体的な技法について書き進めたい。
【サンディングブロックとその使い方について】
木工家具を対象としたサンディング作業というものは、様々なそれぞれの部位の形状に対応させなければならないが、その形状にふさわしい適切なサンディングをしなければならない。
したがってまずはその形状に適合したサンディングブロックを用意することが肝要。
サンディングブロック各種
画像はそれらの一部だが、市販されているものであったり、自作したものであったりと様々。
それぞれ簡単だが少し具体的に解説していこう。
1、平面を対象とするサンディングブロック
画像では1と4(○数字は機種依存文字になりプラットフォームにより表記できない場合があり使用を避けています)。
1.は、手頃な大きさの木のブロックにサンドペーパーを貼り付けたもの。
ここでは4面をL型に2分割して#180と#320を貼り付けている。
ブロックは硬い木であるために、平滑性は確保されるブロックと言えるだろう。
しかしこのことは、大きな平面においては必ずしも適切なブロックとは言えない場合もある。
一定の広い面積の場合、ある程度の柔軟性を持ったブロックの方がサンディングしやすいし、また結果も良い。
この木のブロックの場合は、狭い範囲、あるいは木口などのとても硬い部位へのサンディングに適合する。
4.はハードなウレタンゴム系の硬質スポンジ。
硬質とはいっても一定の柔軟性があるのでかなり広範囲な部位に使うことができる。ただ何度も注意しているように、この柔軟性は時として、平滑性を損なう(隅がだれてしまうなどの)という結果にもなりやすいので使い方には注意が求められる。
2、内丸面
この形状も家具制作では比較的多いもの。
2.は20φほどの合成ゴムの丸棒をカットしたもの。3.は米国の木工関連ツール販売会社からのもの。大きな丸面断面だね、いずれも一定の弾力性があるので、良いフィーリングでサンディングができる。
丸面などはやはりこうした柔軟性が無いと、サンディングは難しいだろう。機械であれば硬質なパッドで一定のサイズの丸断面でサンディングすれば、そのサイズに再成型されながらサンディングされるだろうが、手作業ではおよぶものではない。
3、角面
サンディングブロック2これは本年6月のエントリ(角面へのサンディングは楽しからずや)で既に詳しく紹介したもの。
あらためて確認すれば角面(切り面とも呼称する)を板面に対し45°に維持しながら、高精度に研磨するためのサンディングブロック。
このように面精度を維持しながらサンディングするためのブロックはとても良い働きをしてくれる。他の面形状でも同様の考え方で作れば良い。
なおそこででも紹介したように2つの番手に対応させるようにするのが望ましいだろうね。
4、様々な面形状
5.は様々な断面形状を持つ硬質ゴムのサンディングブロック。これも海外通販でよく見かけるものだ。
他にもそれぞれの形状に合わせ、自作する、あるいは手頃なものを探して活用するなどで対応させればよいだろう。
いずれの場合も#180と#320と言ったような数種類の番手で行うのが良い。
サンディング裏打ち5、サンディングペーパーの用い方
次の画像はただのサンディングペーパーを三つ折りしただけのもの。
こうしたサンドペーパーは様々な形状に手で合わせながら対応させようというもので、誰しも経験してきたところだろう。
三つ折りという意味は、2つ折りだと、どうしても滑ってしまい、良くない。三つ折りにすることでサンドペーパーによる摩擦力で滑りにくく、またよりハードになり、しっかり安定する。
さらにこの耐久性を高めるために、裏打ちをすることをお奨めする。
なんのことはない。クラフト紙のガムテープを貼り付けただけ。しかしこれだけでサンドペーパーはしっかりとし、耐久性がはるかに高まる。
6、補足
また手加工一般に共通することであるが、被加工物は作業台にしっかりと固定させ、両手は自由な条件下で望むのがあくまでも基本とすべき。
片手が被加工物の押さえに奪われるようでは良い研磨作業はできない。
(いずれ詳述する機会を設けたいと考えているが、こうした条件を満たすにはいわゆるワークベンチというタイプの作業台が最適ということになるだろう)
いずれにしても基本は、形状を崩すことなく目的とする形状を維持させ、良い研削肌を出すように心掛けることだろう。
この良い研削肌、というものも、実はその判定は簡単ではなく、一定の経験と知見も必要となるのだが、これまで述べてきたことでもあるのでここでの詳述は避けよう。
またサンドペーパーの番手の選定であるが、これはそれまでの仕上げ精度、および材質により様々だし、どこまで追うかも、塗装システムによっても大きく異なってくる。
簡単な例を挙げれば、一般的な広葉樹(気乾比重0.5〜0.7あたりまでの)の場合、しっかり鉋掛けされたものであれば#240あたりで十分良い研削肌が求められるだろうし、オイルフィニッシュをするのであれば、その後#320あるいは#400ほどまで追っていけば良いだろう。
これらの基準も、材種の気乾比重など(つまり堅さだが)により一様ではない。
なお#240で逆目が良く取れない、ということであれば、むやみに#240で過度にサンディングするのではなく、一旦#180まで落として、再度軽くサンディングするのが望ましいだろう。
あるいは#240で良い研削肌が出せないというのは、このサンドペーパーの寿命は尽きたと見て、新しいサンドペーパーに替えることで良いサンディングができることも多いものだ。
7、補足その2(水引きの効用)
なお、サンディング作業の前に、一度鉋掛けされた面を、温湯、水などで拭くことで繊維を立たせ、その後乾燥させた後にサンディングするというのは良い結果をもたらすことはよく知られたことだ。
同様に番手を追っていく場合も、それぞれの段階の間に、この水引きという濡らす工程はより良いサンディング結果をもたらしてくれる。
いずれにしても、良い研削肌が出ないからと言って過度は圧力を加えたり、不適切に不均質な力を加えることは、平滑性を損なう結果をもたらすだけなので避けるべきだ。
あくまでも適切な番手を選択し、軽く、そのサンディングペーパーの能力に依存させ、スマートにやりこなすことが重要。

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さて、このサンディングに関わる記事は過去8回にわたって掲載してきたが、その後あまりにインターバルが空きすぎてしまい、ご迷惑をお掛けしたことを詫びたい。
せめて今年中にということで今回エントリしたが、恐らくは最後となる総括的な記事を近々上げる予定でいる。
これまで関心を持って読んでいただいた人もいると思いたいが、ご意見、ご質問などお寄せいただければ嬉しく思う。
そうしたことへの回答を含め、次回を締めとしたい。
なお、本件、読みやすくするために、1つのカテゴリーとして整理し直したので、ご利用いただきたい。

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