工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

RYOBI 〈TRE-60V〉と、電動工具メーカーの開発競争と連携

私たちのような職業的木工家が、まず最初に整備しなければならない木材加工マシンは、丸鋸昇降盤、手押鉋盤、自動一面鉋盤、角ノミ盤、ボール盤、といったヘビーデューテイな機械であるわけですが、一般的なアマチュアの方々では、こうした機械の導入は無理でもあり、電動マルノコ、電動プレナー、そしてトリマー、ハンドルーターといった比較的ライトなマシンになるでしょう。

それだけに、私たち以上に、こうしたライトなマシンへの関心は強いものがあるものと思います。
このBlogへのアクセスログを覗けば、DeEALT〈DWP611〉記事へのアクセスが多いことからもそれは窺えます。

リョービのトリマー〈TRE-60V〉が意味するもの

RYOB〈TRE-60V〉

RYOB〈TRE-60V〉
メーカーサイトより

DeWALT〈DWP611〉

DeWALT〈DWP611〉

3年ほど前でしたか、ホームセンターでDeWALT〈DWP611〉の劣化コピー商品かと思われる、ある1台の6mm軸トリマーが並んでいるのを見つけたときは、軽い衝撃がありました。
小型化されてはいるものの、その機構的特徴から〈DWP611〉のパクリかと思ったほどでしたからね。

既にご覧になったり、購入された方々もいらっしゃると思いますが、リョービのトリマー〈TRE-60V〉です。

DeWALT〈DWP611〉、あるいはPorter Cable〈Model #450〉とは出力、コレットサイズなどの仕様は大きく異なり、またハウジングもDeWALT〈DWP611〉らがアルミダイキャストであるのに対し、こちらは樹脂製でエントリーユーザー向けのようです。

ただ、ベースに繋がるマウント部分はアルミダイキャストのようであり、同社の他機種トリマーで使われている脆弱なプラスチックとは異なり、剛性ははるかに高いはずです。

無論、優れた機構と高い能力、切削精度、あるいは拡張性を持つルーターメーカーであるPorter Cable社のDNAを継承したものであり、類種国内メーカーの中では優位な位置を占めていくのでは無いでしょうか。

ハンドルーター、トリマーという切削マシンにおいて、刃の深さ調整における昇降機構部位は基本性能を左右する大変重要なところですので、各メーカー、鎬を削り開発に余念がないわけですが、従来より私はモーター本体への信頼とともに、この刃の深さ調整昇降機構における独自の開発思想を持ったPorter Cable社のハンドルーターへは高い評価を下していたところでした。

深さ調整昇降の機構はハウジングに刻まれたスパイラルな溝をベース内部の突起に沿い、スライドするスクリュー機構ですので、スムースで無段階的な設定が可能であり、また垂直の軸ブレも極限的に回避され、常に安定的で高精度の切削ができるのです。

Porter Cableのルーターの場合は、ベースに繋がるマウント部にスパイラル溝が切ってあり、本体ハウジングの突起にこのスパイラル溝を沿わせ、回転させつつ昇降するという機構であるのに対し、
これらのトリマーの場合では、逆に本体ハウジングの方にスパイラル溝が切ってあり、ここにベースと繋がるリング状の部位に設けられた凸部が噛み合うという機構で、このリングを回転させ、昇降させる機構となっています。

これはPorter Cableのルーターにおける基本設計の発展系と考えても良いでしょう。

そうした基礎的な評価基準からDeWALT〈DWP611〉の開発は大いに喜び、このBlogでも度々紹介してきたところです。

いわば、その流れを汲むと考えられるリョービのこのかわいらしいマシンの市場投入は、日本のユーザーにとり、慶賀とすべきところでしょう。


さて、このリョービのマシンを最初見たとき、その機構的特徴から、これはDeWALT、あるいはPorter Cable社の商品のパクリだなと思ったわけですが、実はそうではなく、Porter Cable社、および系列会社であるDeWALTからも、リョービの機種と全く瓜二つのマシンが製造されている事が分かり、そのメーカーによるOEM製造なのかなと考えたのは当然ではあったでしょう。

ただ、RYOBIカスタマーセンターにその件を尋ねたところ、意外な反応。

いや、自社で作っています

では、なぜDeWALTおよびPorter Cable社の商品と瓜二つのものが市場展開されているのでしょうか?

??、それは私には分かりません

結局、事の真相までは掴み切れていませんが、この機構的特徴などから国際的特許の権利関係もあるでしょうから、安易に同じものを作るはずも無く、基本構造においては同一設計で、それぞれ国内仕様向けにアレンジしているだろうことは間違いないはずです。

この辺りの背景をご存じの方がいらっしゃれば、ご教示願いたいものです。

Porter Cable社によるOEM製造?。市場には3つのブランドで展開

DeWALT、RYOBI、Porter Cable

DeWALT、RYOBI、Porter Cable

上に3つの機種を並べましたが、さて如何でしょうか。

RYOBIの〈TRE-60V〉を真ん中に、右のPorter Cable社の〈PCE6430PCE6435〉、および左にDeWALT〈 DWE6000〉です。
ご覧のように外観こそ それぞれのブランドを特徴付ける色調で異なるものの、同一構造であり、ほぼ同一仕様。

つまり市場には同一基本設計のマシンが、リョウビのエントリマシン(青いボデーのもの)の2機種を含め、3つのブランドから5つの機種で展開されているということになります。

ハウジング本体にスパイラル溝を刻み、この回転で刃の高さ調整を行うというのは、元々はPoter Cable社独自のシステムであったわけで、事実、同社から、および系列会社であるDeWALT社から瓜二つのものがリリースされているということは、それらの特許権を有するPoter Cable社による製造とみるのが合理的な判断だろうと思います。

系列会社がそれぞれ別個に金型を起こし、製造ラインを打ち立て、製造する。そんな不合理なことを、現代の産業社会で行うはずはありません。

ただ、リョービがこれらの会社との経営上の連携がどうなのかは不明であり、確定的なことまでは言えません。

リョービとしては国内市場におけるマキタとの競合上からしても、海外他社とのタイアップ開発製造による国内市場投入は賢明な経営判断だろうとおもいます。
優れたものは海外からでも調達し、自国のユーザーに届けるというのは悪く無い判断でしょう。

本年9月、リョービは電動工具部門を京セラに身売りしています。[1]
今後どのような経営展開になるのかは分からないですね。

因みに現在は全く別会社となっている米国RYOBIにはトリマーの商品展開はありません。

リョービは以前、香港に本社を置く、TTI との繋がりがあったようですが、今は米国RYOBIとの提携はあるものの、日本のリョービとは関係を断っているようです。

〈TRE-60V〉の特徴

RYOBI .TRE-60V

RYOBI .TRE-60V

基本構造は上述した通りですが、他のいくつかの特徴について視ていきます。

まずそのサイズですが、日本人の成人男子の片手でしっかりと握れますので、〈DWP611〉と較べても操作性は高いでしょう。

ベースは透明樹脂製で、加えてLEDランプ(1個)が付いていますので、視認性は高いですね。

またこのベース全体が樹脂製ですと、本体との固定性に難があるでしょうし、またこのスパイラルでの刃の高さ調整機構にも問題が出てきますが、このマウント ホルダー部分はアルミダイキャストであり、剛性ははるかに高いでしょう。

因みに、同一設計のPorter Cable社〈PCE6430PCE6435〉も同じくアルミダイキャスト製ですが、残念なことに、DeWALT〈DWE6000〉はベース全体が樹脂製で良くありません。

USA AmazonではこのDeWALT〈DWE6000〉のプラスチックのベースが酷評されていますね。

実はリョウービの〈TRE-60V〉の下位に位置する〈MTR-42〉という機種がホームセンターなどで広く販売されていますが、これもベース全体が樹脂製です。
たぶん、DeWALT〈DWE6000〉と同じ構成だろうと思われますので、剛性に欠け、本体ハウジングとの結合にも問題がありそうです。


この〈TRE-60V〉は、DEWALT〈DWP611〉の流れを汲むものとして、その信頼性に疑いを差し挟むことも無いと思いますが、このジャンルで私が重視したいのが、テンプレートガイドの仕様です。
以前より何度か触れてきた問題ですが、いわゆる欧米で標準的な規格になっているユニバーサルなテンプレートガイドが使えるのかどうかの問題です。

この機種が、私の想定通りPorter Cable社によるOEM製造であるとすれば、リョービのこの機種についてもユニバーサルなテンプレートガイドが使えるものと期待して良いのではと思っています。(既に使っており、この問題の解決を試みられた方がいらっしゃれば教えてください)

リョービ × Porter Cable の商品展開の今後を展望したとき

リョービ社はこの事例に倣い、DeWALT〈DWP611〉と同じものをOEM製造委託し、国内市場展開すれば、マキタとの市場競合において。大きなポジションを獲得していけるのでは無いでしょうかね。
関係者にはご努力を願いたい😜

ただ、日本のユーザーとしては、マキタにしてもリョービにしても、海外メーカーにOEM製造に開発を依存するだけではなく、独自の開発に経営資源を投下して欲しいものです。

米国と日本では、市場規模が大きく異なりますので、残念ながら国際市場を相手にせざるを得ない現代産業構造では、生き残りを賭けたOEM依存も仕方が無いのかも知れません(メーカー担当者はOEMではないと回答していますので、このあたりの背景説明は困難ですが)

前回記述したとおり、いっそのことDeWALTなど海外メーカーが展開している商品群の多くを日本のメーカーが製造委託し、国内展開してくれれば、それはそれでありがたいわけです。

たぶん、日本の市場規模から商品群としての投入は難しいとは思いますが、〈TRE-60V〉に続く単発的なマシンの市場投入があることを期待したいものですね。

なお、このリョービ〈TRE-60V〉と、PORTER-CABLE〈PCE6435〉の「ほぼ同一商品」の導入コストですが、
それぞれamazonで比較すれば、多少の価格差がありますね。

リョービ〈TRE-60V〉:¥19,957(OFF¥ 15,683 (44%))
PORTER-CABLE〈PCE6435〉:$117.68 ≒ ¥13.500
 
おっと、USA Amazonでは日本には出荷しないとのことのようですね。
RYOBIと競合してしまうことで、規制が掛かっているのでしょうか。

Stanley Black&Decker社の経営戦略

世界の電動工具シェアNo.1のStanley Black&Decker社は、このように機種選択における悩ましさをユーザーに投げかけているわけですが、今後どのような展開になるのか興味深いところです。

前回述べたとおり、この〈Stanley Black&Decker社〉はDeWALT以外に、良く知られたものだけでも、Porter CableBlack&DeckerSTANLEYCRAFTSMAN、など数多くのブランドを傘下に収めています。

これはリーマンショック等、金融危機を経て、経営戦略における企業の横断的な統合、大規模化による経営資源の効果的投入など、業界での生き残りを賭けた経営判断なのだろうと思われますが、その結果、製造されるマシンでは傘下企業相互の競合も避けがたく、統合した親会社としてみれば、余りにも不合理な経営戦略のように思われるわけですが、今後は機種投入における差別化、棲み分け等が迫られ、各ブランドの商品開発戦略においてさらなる変動(ブランドそのものを統合する、あるいは機種の再編成を行う)が起きうることは間違いないように思われます。

私は企業のコンサルタントでも何でもありませんので、これ以上の言及は手に余ります。
ユーザーとしては、よりユーザビリティの高い、使っていて快適で、高性能で廉価な商品を開発して頂き、日本のユーザーもいち早く手にすることができる商品展開を望むだけです。

何度も紹介してきたDeWalt〈DWP611PK 〉ですが、【Fine Woodworking誌】での詳しい評価の記事がありましたので、URLだけでも貼り付けておきましょう。(こちら

辛口の評価で信頼性も高い【Fine Woodworking誌】ですが、悪く無い評価のようです。
対し、同様の深さ調整機構を持つHitachi〈M12VC 〉(米国Hitachiの商品であり、日本国内では市場には投入されていません)は散々な評価ですね。(こちら


次回は、リョービ〈TRE-60V〉をはじめとする、類種の機種の仕様などを表にまとめた記事を予定しています。
この記事に貼り付けようと準備したものの、Web構築における表作成で躓いています。
このわずかな530pxの枠内に8つほどの列が収まらず、少々手間取っていることです。
解決まで暫くお待ちください。

使用した画像は、メーカーのWebサイト、あるいは販売店のAmazonから拝借しました。感謝します。

〈余談〉
かなり昔のことになりますが、埼玉全域で展開していたホームセンター・ドイトという店舗が、この黄色いボデーのDEWALTを取り扱っていましたが、今はどうなのでしょうか。
代理店展開が変わったことで、無くなってしまっていることも考えられますね。


❖ 追記(2017.11.28)

  • リョービ〈MTR-42〉、およびDeWALT〈DWE6000〉の樹脂製ベースですが、これはLEDランプが装填されない機種であり、より明度を補う必要性があり、そのために透明プラスチックにしたとも考えられます。
  • 知人の木工教室主宰者・宮本さんが、リョービ〈MTR-42〉についてのレビュー記事を上げておられましたので、ご案内します。(2016年3月の記事
    好評のようですね

hr

《関連すると思われる記事》


❖ 脚注
  1. パワーツール事業に関連する会社分割(新設分割)及び 新設会社株式の一部譲渡に関する基本合意書締結並びに子会社の異動に関するお知らせ []
                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.