工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

テーブル製作(その5)ほぞという技法

?1画像はテーブルの脚部と貫(ヌキ)のほぞを示したもの。(ほぞ、は“木”偏に“内”だがPCでは表示してくれない)
今日は木工加工における基本的要素の1つであるほぞについて考えてみたい。
ほぞは木工加工における技法としては人類史の歩みとともにあるぐらい古来からのもののようで、縄文遺跡からの発掘物にも見られるという。
このようなローテクの代表格と言っても良いようなものであるが、しかし今日においてもなお木工加工における接合技法としては最適なものとして活用されていることに驚かされる。
無論、量産家具においてはダボ接合という発展形態へと進化しているということも一方の事実だが、しかしその接合度の高さ、剛性の強さ、など木工技法において要求される必須の要件を満たしているということにおいては、ダボなどよりもはるかに優れた技法であることに変わるものではないということは幾度でも確認されて良いことだろうと思う。
確かに量産家具の製造システムにおいては、そのまま適合させることの困難さがあるのだろうが、我々のような小さな工場での加工システムにおいては今もなお最適であることに変わりはない。
極めて小規模で最低限度の機械設備であったとしても、熟練工の高い技能を投下することで、最高度の接合加工を獲得できるのがほぞという手法と言い換えても間違いではないだろう。
なお、ほぞという技法は決して日本固有のものではなく、地球的規模で木工文化の発展と共に様々なほぞ加工を見ることが出来る。これは各地域文明の境界を越えた交流の中から導入 → 独自の発展という経緯もあるだろうが、ここで確認されねばならないことは、それだけ木工においての加工技法ではほぞというものはユニバーサルなものだということであろう。
海外の木工の技法に関する文献を開けば、日本の技法書と見紛うばかりのほぞ接合技法の数々をそこに発見することはめずらしいことではない。
若い頃、J・クレノフが来日されたと時のワークショップに参加させて頂いた。世界的に著名な木工家として密かに尊敬している名匠だ。
彼が何を語ってくれるのか直接聞きたかったし、また手先の動きを間近に見てみたいという欲望からだった。
その彼はほぞよりもダボを多用する。もちろん、スカンジナヴィアンスタイルのキャビネットなどの脚部には通しほぞを用い、キャビネット本体の帆立と天板、地板の接合にはダボ、という使い分けをしている。(参照
しかし日本ではやはりいずれもほぞを用いるというのがより合理的だろうと思う。
(ここでは詳細に比較検討するものではない)
これはそうした加工プロセスにおける機械設備の環境を含む、歴史的経緯もあるからなのだろうと思う。
如何にJ・クレノフを信奉していても、ほぞの持つ優位性は揺るぐものではないのだ。
さて前振りが長くなってしまったが、今回のテーブルのほぞ、について。


ご覧のように、2列×2段のほぞになっている。
貫の厚みは36mm、幅は135mm、?の厚みは11mm。
1枚のほぞでなく、何故4枚のほぞなのか。
簡単に言えば、それだけ強度が高まる、ということだ。
少し詳しく解説すれば…、
1)135mmという幅の貫だが、これだけの幅があれば、痩せ、という経年変化を考慮されねばならない。
2)またテーブルを支える重要な接合個所であるし、しかも今回のように脚部が傾斜(4度傾斜)していることでそれだけほぞの強度も要求される、
といったいくつかの要請からこのようなものが必要とされてくる。
1)への配慮として2段というのは効果的だし、2)への対応として2列、2段というのはとっても有効だ。
このようにそれぞれ、必要とされる要素に応じて、様々なほぞを施すことが重要となってくる。
従って常にこのような複雑な加工を施す訳ではないが、例えばキャビネットの抽斗を割り振る束(ツカ)のほぞなどは、絶対に2枚ほぞで行うこととしている。絶対ですぞ。何故ならば、こうした個所は1枚だと必ずやほぞは切れる。特に相手が無垢の板であったりすれば、その板の経年変化での反張に負けて、持っていかれる。
これが2枚で、かなり強めのほぞにしておくことで、切れることを回避することが出来る。
これまでそうした考えを持たなかった人には信じられないかも知れないが、数倍の強さを確保できることを知っておくべきだろうと思う。
丸?さて最後に、先に触れた丸ほぞの「2段堀り」について、あらためて画像資料を紹介する事で補強しておきたい。
『室内』別冊「インテリア事典1・家具編」から「家具をテストする」項目にこの、丸ほぞの紹介がある。
画像は「乳幼児ハイチェア」を解体検査を行った時の画像だ。(p:155)
量産家具の椅子の脚部と貫の接合部分のものであるが、このように木部内部に胴付き面を設けている。
(しかしどうだ、この加工精度の高さ)
これは胴付き間の寸法を安定させることで組み立て精度を高め、またほぞそのものの接合度を高めるのに寄与していると考えられる。
余談になるが、この休刊間近の『室内』での「解体」シリーズは当時大きな反響を呼んだようだ。家具市場での名作、名品などを対象として強度試験を行ったり、解体することで、内部の接合部を裸にして見せてくれたのだ。
実に刺激的な商品テストであったが、業界の技術レベルを問いかけ、啓蒙させる意味においても有益な編集方針であったと評価したいし、可能であれば、あらためて現在の家具市場の名品を対象としてやってもらいたいものだ。
「無垢の手作り工房」から生み出される「名品」も忘れることなく、ね。
同様に公募展で入選、特選のものなどにも必須の試験として応用しては如何だろうか !?。
この「解体」特集には量産家具ではあっても、実にすばらしい設計と加工が施されていることを再確認させられるものが少なくない。
無垢の手作りだからすばらしい、量産家具だから拙劣、などといった概念など全く無効であることを知るだろう。

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