工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

テーブル製作(その6)送り寄せ蟻について

あらためて、「送り寄せ蟻吸い付き桟」について少し詳述してみたい。
過去幾度かこの技法に関する特性について述べてきたので、今日はその加工プロセスという側面からそのポイントを記す。
この「送り寄せ蟻吸い付き桟」というのも、いくつかの手法があるだろうと思うが、ここではその1つを紹介するものだ。無論これがその全てではない(はっきり言えば、この手法に関して権威とするところから伝授されたものでもなく、あくまでも独自の考え方と、経験から編み出されたものに過ぎないと言う制約を付けておきたい)
さて自己防衛はここまでとして…、
今記したようにいくつかの手法があるのだろうが、大きく分ければ、ブロックごとに溝を彫り、桟もブロック単位に分かれている、というものもあれば、
画像のようにボクが通常行っている、通し桟に蟻が施されているというものもある。
蟻桟ボクが何故このような通し桟の方をを選択するかと言えば、経験者にはお気づきのことと思われるが、やはり蟻ブロックの強度に関わる判断からのものだ。
完全にブロック単位で分ける方は、天板の方は溝が通っていないのでそれだけ板としての損耗はないだろうから強いと言えるかも知れない。
一方しかし、オスの方はブロック単位で独立していることで、もげてしまう、というリスクがあるのだ。
蟻桟というものは当然にも締め具合が肝心なので、かなりタイトな加工を施すのであるが、これは蟻ブロックを破損させてしまうことにも成りかねないのだ。
これは材種にも拠れば、木取り(柾目、板目)にも拠るだろうが、いずれにしても破損というリスクを抱えた状態で試みるわけにはいかない。
対し、通し桟の方は、ブロック単位のものよりもはるかに強いと言うことが理解していただけるだろう。
さて、具体的に加工プロセスを記してみよう。


【テンプレートガイド製作】

  1. まずは型板を作成するのだが、いくつかの数値をはじき出して成形する。
    桟の幅、蟻の深さ、ルータービット(蟻ビット、ストレートビット2種)のサイズと、それぞれを装填させるルーターのテンプレートガイド(以下、TGと記す)との相関関係を精査し、いくつかの数値を計算する。
    1) 蟻の首部分の幅、2) 蟻の底部分の幅 、をそれぞれビットと、TGの差異を勘案し、型板(テンプレート)の幅の数値を出し墨付けする。
    1ブロックの長さ(蟻部とそうでないところ[以後ポケットと称する]は同じ長さで良いだろう)も、ビットとTGの差異分を考慮し墨付けする。
  2. これらを切り抜いていくのだが、正確さが重要なので、慎重に行わなければならない。ボクはピンルーターで切削している。
  3. 機械切削の後、蟻部分を締め勾配にするために、手加工(小鉋、ノミなどで)でテーパーに切削しておく(それぞれ考え方は多様だろうが、あまり大きな勾配にはしない)

【蟻溝加工】
天板吸い付き

  1. さて次は切削加工に入るのだが、3台のルーターにそれぞれルータービットを装填する。(脱落しないようにしっかりと締め付ける)
  2. 型板を被加工天板の所定の位置に打ち付ける(目釘などで)。
    あらかじめ天板に蟻溝の中心線を墨付けしておき、型板の中心部にも隅付けを施しておき、これを目印に合わせる。
  3. まずはプレカットだが、30mm程の(蟻溝幅からそれぞれ選択)ビットを装填したルーターAで、手前左側からテンプレートに沿い、切削していく(深さによっては数回に分けて)最上部までいったらそのまま右側を手前に向かって切削していく。
  4. 同様に8〜12mm程の細いビットを装填させたルーターBを用い、切削していくが、ここではポケットの隅を重点的に切削していく。
  5. 最後に蟻ビットを装填したルーターCにて蟻部分のみ蟻溝を切っていく。
  6. ビットでの切削なので、隅部分の残ったところを手ノミを使いシャープにシェーピングしておく。

【蟻桟加工】

  1. 蟻桟の木取りは、経年変化、とりわけ痩せ、縮みを嫌うので、できるだけ良く乾燥した材木から柾目部分で木取ろう(今回は、米国現地乾燥材、含水率11%台のものを用いた)。
  2. 墨付け(ブロック単位の墨付け)
  3. 両端末の切り落とし(昇降盤などで)
  4. 胴付きを入れる(長手方向、および両端末)。この深だがやや目的の寸法より浅めに入れる。
  5. ポケット部分の切削を行う(うちではピンルーターでプレカットし、隅の残ったところを手鋸、手ノミで仕上げる)
  6. 蟻の成型切削。(うちでは昇降盤で鋸を傾斜させて行う)
    決していきなり所定の寸法を出そうとするのではなく、何度かに分けて天板の溝にフィッティングさせながら慎重に行う。
  7. かなりきつめに合わせ(大玄翁で打ち込み、少し入るぐらい)る位で止めておく。
  8. その後、樋布倉鉋(ひふくらかんなー画像参照)で蟻溝のテーパーに合わせ、テーパー加工するのだが、全てのブロックが同一の寸法になるように慎重に進める。
  9. 最後の確認としては強く打ち込み、7〜8分ほど納まれば、そこで止めておこう。
    (いずれ経年変化で痩せるので、その時の増し締めを想定しておきたい。この痩せという数値化できない要素はおかれる環境によっても様々なので、経験と勘によるところとしか言いようが無い)

最後に別の送り寄せ蟻の手法に付いて簡単に触れてみたい。
桟から切り出すのではなく、蟻加工された別の材を桟に接合させて作るものである。
接合は2枚ほぞで行うというのがポイントになろうか。
これは蟻部分を別途作成することで、加工プロセスを容易にさせようというものであろうし、もげることに較べれば、以外と堅牢性がある手法とも言えるかも知れない。
実はこれは松本民藝家具において見られる手法だ。
さらに言えば、この蟻ブロックを木口方向で作るという考え方も出来よう。
つまり痩せを極限的に減らす、と言う考え方だ。
周知のように繊維方向の痩せの数値は他の1/10ほどだろう。ほとんど無視できる範囲だからだ。
さて最後の最後に付言することがあるとすれば、自己責任でやってください、ということだろうか(笑)
下画像は蟻溝を切削加工しているところ

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