工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

仏壇あるいは“けんぽなし”のキャビネット

キャビネットa画像はキャビネットだが、この上部は仏壇としての機能を備えている。
いわゆる家具調仏壇というものになるのだろう。(仏壇にはそのようなカテゴリーがあるらしい)
仏壇とは言っても、決して精緻を尽くし、贅をこらしたものというものではない。実は親戚の一人暮らしの老婦人が養護老人ホーム施設へと転居するにあたり、既に購入設置してある立派な仏壇は施設の部屋には納まりきれずとても持ってはいけないのでシンプルでコンパクトなものを制作してもらえないか、という依頼からのもの。
したがってスモールサイズで、位牌を中央に置き、いくつかの仏具を並べられる、またお花、供物など飾ったりできるようにトレーを付加させるなどの条件を満たしデザインしたもの。
材種は10数年前に競り落としたケンポナシ【玄圃梨】(参照:「木材図鑑」
キャビネット構成は材積の余裕がなかった、あまり幅広の原木ではなかった、という条件下であったので、上部は板差し、下部は框、とややイレギュラーな構成になった。しかしこれはこれで巧く納まったと考えている。
扉部分の間口(幅)は上下とも同一なのだが、下部が框でやや厚めの木取り(35mm)をしたので、総幅において30mmほどの差が出て、視覚的な安定感も出たように思う。
なお扉は見ての通り無垢の板をただハシバミで納めそのまま取り付けたものだ。ただ中央部から左右に10度ほどの傾斜を持たせ中折りにしたことで、ややボリューム感と、柔らかなラインが出たのではと考えている。
(框の扉にしなかったのは、枠を付けずに、板の美しさをそのままシンプルに見せるため)
ハシバミとはいっても1枚板なので板の伸縮を配慮することは重要なことだが、完璧に乾燥した材であること、幅が200mmほどの狭いものであること、などを持ってあえてハシバミ部分にはしっかりと接着している。丁番側には込み栓(ペグ)を打ち込み、例え動いても機能には差し障りのないよう心がけた。
キャビネットbまた日本伝統の仕口からすると、ハシバミ部分でも木口を見せずに納めるという美意識が基本であるが、ここではあえて左右の繋がりを1本の木から取ることでのデザイン的統一性を図った。
J・クレノフなどのキャビネットなどにもこうした考えでの扉のデザインがあったように思う。
ただ残念であったのは材積の余裕がなく、扉の木取りが思うようにはいかなかった、つまりブックマッチのようにデザイン的な配慮が十分にはできなかった、ということでの憾みはある。
もう1つ仕口について明かす。扉の中折れ部分だが、まずハシバミのオス加工をし、この1枚の板を所定寸法で割り(できるだけアサリの薄い鋸で)、この割り割いた矧ぎ口部分に角度を付け、Lamelloの助けを借り傾斜矧ぎしたものだ。
ハシバミ上下端の方は厚めの材から傾斜を付けて所定寸法に木取る。これにハシバミのメス部分をピンルーターで小穴を彫り込む。傾斜が付いた外部をフェンスに沿って移動させることで見事に傾斜角度の小穴が得られる。
なおこのハシバミ部分は裏に0.5mm、表に2mmのチリを設けている。いわゆる面チリという納まりだ。完全に面一(ツライチ)にしようと考えるよりも、あらかじめそのようなデザインとして考えると無理なく、綺麗に納まるだろう。
しっかり矧ぎ部分が乾燥したところでハシバミを付ければOKだ。
予算があまりなく、基本的な条件を満たし納める、というのもプロの技のうちだね。
ただ仏壇という未経験分野での仕事であるため、聖なるものを納めるキャビネットの条件とは、ということで悩まなかったわけでもないが、あまり仏壇、仏壇、と狭量に考えるよりも、シンプルで美しくという思考でやってしまったのは果たしてどうであったかは、この依頼者の第1印象を聞いてみないと分からない。老婦人なのでこの点はいささか心許ないのだが…、

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  • 私はケンポナシが好きな材の内のひとつでよく使います。
    ただ、丸太2本分の材を買ったら丸太によって全然表情が
    違うので混ぜて使うことはできません。
    塗装は良いツヤが出ているように写っていますが
    オイルはどのタイプですか?

  • acanthogobiusさん、うれしいですね。
    ケンポナシのファンがいましたね。
    なかなか安定供給される材ではありませんが、昔は見つけると買っていました。
    家具材としての物理的堅牢性の高さ、木目の美しさ(杢が醸すことも良くある)、いくつかの理由がありますが桑の代替材になったというのは良く分かります。
    オイルは今回はOSMOカラーの顔料入りを数種Mixして数回下塗りして、#3101で仕上げました。
    本当は阿仙などで着色しようと考えたのですが、あまり発色が良くなかったので止めました。
    因みに小振りなものでしたので1本の原木のもので足りました。

  • 着色してあるのですね。
    良い色になっていると思います。
    私のような素人にとって着色は難しいです。
    一歩間違えると汚らしくなってしまうので。
    やはり色々試してみる精神が経験につながって
    くるのでしょうね。

  • 着色も様々な手法がありますが、オイルフィニッシュをするとなれば、いろいろ制約も出てきますね。仰るように汚くなりがちです。
    これを回避するにはコメントで触れた「阿仙」などの植物染料、薬品着色(重クロム酸カリ←劇薬、アンモニア処理などの)、あるいは顔料系のステインなどでしっかり行うというのがキホンでしょうか。
    また素地調整の重要なことは言うまでもありません。
    なお常々思うことですが、オイルフィニッシュという塗装法は日本の白木には向いていないのではないかと…。

  • 「オイルフィニッシュという塗装法は日本の白木には向いていない」とは興味深いお話ですね。
    今度機会があったらその理由も含めてお話ください。
    個人的には鉄の媒染液に拭き漆で黒くするのを試してみたいと
    思っています。

  • オイルフィニッシュという塗装法はほんらい濃色材の色調の魅力をさらに引き立たせるため、という目的が大きいです。濡れ色で濃く仕上がるためですね。
    これを白木に施すと言うことになりますと、逆に黄ばむ、という(逆)効果をもたらしてしまうからです。経年変化はこれをさらに促進させます。
    白木を白木として魅力的に仕上げるには濡れ色が強いのは良くないということになります。
    >鉄の媒染液に拭き漆
    は樹種によってもその効果は多様でしょうが、良いアイディアだと思います。
    阿仙も含め、薬品着色という着色法は底深い色合いが期待できますので、いろいろ試みることは良いことです。(表面に色が乗っかるだけの顔料、染料での“汚らしく”なるものと違い、材そのものが色反応するわけですから…)

  • ちょっとびっくりしてしまいましたー。
    と言うのも、実は私も今、京都のお客さんの依頼で仏壇に関わっているからです。最近、静岡の家具屋さんの多くが 家具調仏壇を手掛けているみたいです。数年前、初めて社会人になって自分の考えで仕事を進めたのも実は「家具調仏壇」でした。
    先日までひたすら製図板に向かい、今日は漆塗り職人さんを訪問し、簡単に作業工程など聞いてきた所です。しかし東京のデザイナーさんとの勝負なので まだこの仕事を取れるかどうか解らないんですけどね。
    思わぬ所で仏壇つながりでした。笑。
    楽しく拝見させて頂きました。

  • サワノさん びっくりコメントありがとうございます。
    なるほど。これから家具屋は仏壇路線で行こうと言うことですか。
    モノがモノだけに、あまり斬新なアイディアというのも忌避されるでしょうから、アイディア+仕事の品質、の勝負でしょうか。
    そして心を込めて、丁寧な仕事で喜んでもらいましょう。

  • 先日のエントリーからこの家具がとても気になっていのです。7月の出張ですてきなというべきが崇高なというべきかもしれない仏具を発見していたのです〜。
    あとでこちらの価格などお知らせくださると嬉しいです。今すぐに私は必要としていないのですが、きっと気になる方は多いと思います。

  • 第一関門突破。

    京都本社の仏壇屋さんから なんと仏壇の依頼を受けました。
    私が社会人になった5年程前から(あるいはもっと前?) 
    静岡の家具屋さんでは次々と「家具調仏壇」というジャンルに挑戦し始めています。
    「家具調仏壇」とは、従来の荘厳な装飾のきらびやかなイメージと

  • 養護・老人ホームの選び方

    養護・老人ホームのポイント。養護・老人ホームの選び方。介護付有料老人ホーム。

  • 江戸指物からこのコーナーを拝見 実は私も仏壇のサイズが合わず作ってもらおうかと思案しているところです。
    どなたかご紹介いただけませんでしょうか。
    当方の希望は、やはり華美にはしらず静かであることなのですが。狭いマンションですので、素材のもつ色目は明るいのが良いのです

  • kassyさん、ようこそ弊Blogへ !!
    恐れながら、kassyさんご要望の仏壇制作、私が承りましょう。
    >華美にはしらず静かであること
    >素材のもつ色目は明るく、
    いずれのご希望も工房悠において満たすことができるとお考えください。
    実は ↑ のコメントにもありますように、この記事をご覧いただいた方から家具調仏壇の制作依頼を承り、制作納品させていただくということもありました。
    いずれにしましてもご要望を伺いまして、設計、お見積もりをさせていただきますので、お気軽にメールでも、お電話でもいただければ嬉しいです。
    E-mail:artisan☆id.boy.jp
    ☆のところを@に入れ替えてください。
    因みに
    >素材のもつ色目は明るく
    ということですと、国産の楢などの白木、北米材のハードメープル(白さが魅力)、あるいは明度の高い赤身が特徴のミズメ樺、あたりでしょうか。
    いずれも原木丸太から製材した良質なものを豊富に在庫しています。

  • “けんぽなし”の実

    先週、“けんぽなし”の実なるものをuraさんから頂いた。初めてみる実でどのようになっているのか、食べられるものであるかも判らなかったので、とりあえず飾ったおいた。お芋のようにみえる部分が食べられるものだ…

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