工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

鉞、大鋸、釿、槍鉋、(於:京北「匠の祭典」短評)

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梅雨開け間近の連休、祇園祭りの喧噪を離れ、京都市街から西北に30km地点に拡がる杉林に覆われた京北地域で開かれたイベント。
この豊かな森に囲まれた〈京北森林組合木材加工センター〉において開催された「匠の祭典」に参加しました。

以下、簡単ながらそのリポートです。

「匠の祭典」

鉞による面出し

鉞による面出し

鉞(まさかり)

鉞(まさかり)

既に現場からは消え失せてしまっている大工道具・手仕事刃物の数々を対象として、これらの道具を用い、丸太、板を切り、削り、ハツル、などの実技を、それぞれの名人から学習し、伝承しようというものです。

企画者・長津勝一、通称 長勝鋸さん

企画者は長年にわたる鋸の目立て業務から編み出した、独自の理論での鋸の仕立てによる見事な切れ味で大工道具の世界を驚嘆させた長津勝一氏。通称・長勝鋸さんです。

旭川を拠点として長年目立て業務に勤しんでいた人なのですが、その後、伊豆半島の伊東に移り住み、この頃、静岡市が招聘してのワークショップでお会いし、その凄ワザを間近に見させてもらったのでしたが、数年前、請われるままに京都洛中に工房を構え、関西中心に多くのファンを獲得しつつ、さらには欧州などからも招聘され、国境を越え活躍している知る人ぞ知る名人です。


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ブラックウォールナット材の色、人工乾燥について(再論)追記あり

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Top画像は4枚のブラックウォールナットを撮影したものです。
それぞれ、ジョインター(手押鉋)を通しただけのもので鉋は掛かっていませんが、表情はお判りいただけるでしょう。
下部の濃い部分はオイルを掛けています(OSMO:#1101)

Ⓐ 天然乾燥のみ(工房 悠 管理のもの)
Ⓑ 人乾の製品(米国のNW社製品)
Ⓒ 人乾の製品(北海道に本社のあるN社)
Ⓓ 人乾の製品(静岡、K社で製材、除湿乾燥)

Ⓐ 天然乾燥

これは6年前、静岡市内の木材業者Kさんのところで丸太買いしたもの。
丁寧に天然乾燥させ、数年前からぼちぼち使い始めているブラックウォールナット。

木理は特段個性のあるものでもなく、ごく一般的なものでしょうか。

他のものと比較対照すれば分かりますが、木理に沿い、色調は多彩に展開しているのが認められるかと思います。
緑色は無いようですが、紫紺が冬目部分に認められます。
この縞状に様々に表れるのがブラックウォールナットが標準的に有する色調の特徴です。

Ⓑ 人乾の製品(米国のNW社製品)

160710c10年ほど前、米国に本社があるN社から購入したもの。
この材木業者は、自社で山を持ち、大規模な木材生産をしている会社です。
製材・人乾も自社で行っており、山での伐採から、販売まで一貫生産していている企業です。

この板は、白太が多い部位でしたが、
白太部分にも赤身の色が移っているのが認められるかと思います(特に黄色の斜線部)。
その外側(緑の斜線部)も、やや黒くなっています。

赤身はピンクがかって綺麗ですが、天然乾燥と較べれば、色は薄く、多様な色調は明らかに失われていることが判ります。

Ⓒ 人乾の製品(北海道に本社のあるN社)

赤身にあるはずのチョコレートブラウン色は、ただ黒いだけの色調に変わってしまっているようです。
こうした人乾材は決してめずらしくはなく、通常一般に見られるものと言えるでしょう。

Ⓓ 人乾の製品(国内、K社で製材、除湿乾燥)

これは、工房ショールームの腰板に求めたものですが、ビミョウな多彩さは失われているものの、色調は比較的良く、乾燥材としては優良品と言えるでしょう。

白太が真っ白で、色の移行は認められません。
この白太ですが、腰板にはあえて一部残してあります(サンプルとして一般客への説明に好都合ということもありますのでね)

これは、除湿乾燥という方式の人工乾燥に拠るものです。
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なんちゃって ブラックウォールナット(追補)

本件、ブラックウォールナットの退色(褪色)変化の話しですが、異論反論が押し寄せるかなと、ビクついているものの、音無しですね。

もう既に皆さん、お気づきのことであった事なのかも知れませんね。

ただ、その後、ネット上での関連する記述を(ビクつきながら 笑)探しても、私の知見と同様の記事は探せ出せず、暗澹としているところでもあります。

以下、関連記事で、代表するいくつかの知見を上げて視ませうか。

  • チョコレート色ですが退色して少し薄くなります。
  • 紫褐色した木ですが、経年変化で色が少しき明るくなり落ち着いた色へと変化します。
  • 経年変化によって(日焼けなどによって)色が少しずつ退色し、濃淡の縞も相まって、落ち着きのある、チーク材に似た様な色味、見た目に・・・

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ブラックウォールナットの色褪せ、退色について(なんちゃって Walnut)

ブラックウォールナットでの家具制作依頼があったのですが、この方、木工家具全般への知見豊かなご様子。

既にいくつもの調度品を作ってもらっているとのこと。

そうなれば、当然ながらも材種についてもお詳しいようで、このブラックウォールナットの経年変化による色褪せの問題を聞き及び、大変懸念されているとのことでした。

さて、このブラックウォールナットの色褪せですが、この方の懸念はごもっともな、如何ともしがたいネガティブな問題ではあります。

今日はTopicsとして、この問題を取り上げます。

半分の正しさ

以前より、このBlogでもブラックウォールナットという樹種に関わるポストを上げてきていますが、必ずしも、この退色との関わりから言及してきたわけでもありませんでしたので、ここで簡単ながら解説しておきます。

まず、結論から申しましょう。

ブラックウォールナットが退色する、という「木工界の常識」ですが、これは半分は正解ですが、残り半分は間違っています。

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スタンフォード大学レイプ事件・被害者女性からの勇気ある手紙

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Apple.incの前CEO、Apple創業者でもあるスティーブ・ジョブズ氏の「ハングリーであれ。愚か者であれ」との名演説がなされたのは2011年、スタンフォード大学の卒業式でのことでしたが、私もそれ以来、この大学名とともに、演説内容を印象深く、長年の酷使でくたびれつつあるわが海馬にアーカイブしたものでした。

先頃、突然、この大学名が海馬から呼び戻されることになったのです。

この大学の一人の男子学生(20)が起こした禍々しいレイプ犯罪の被害者となった女性の勇気ある告発、そして全ての女性の尊厳を奮い立たせるエールに、私も深く感動させられ、また多くのことを教えられることになったのです。

事件が起きたのは昨年の夏、カリフォルニア州・スタンフォード大学キャンパス内。

犯人の男子学生は全米でも有力な水泳選手であったそうです。
この学生は自転車で犯行現場を通りがかった二人の学生に取り押さえられ、警察当局に突き出されるという経緯だったにも関わらず、その後裁判を経、3月に3件の強姦罪で有罪判決が下されたのですが、州法では最長14年の刑期であるところ、わずかに6ヶ月の禁固刑だったことで、その余りの刑の軽さに全米から怒りの声が沸き上がり、ついには判事のリコール運動が盛り上がるという、特異な経緯を辿っています。

既に先々週からハフィントンプレス・日本版等では数回にわたり記事にされてはいますが、主要メデイァを含め、あまり日本では報じられていないこともあり、本Blogでシェアすることにします。

主要メディアが取り上げない理由にはいくつかのことが考えられますが、しかしこうした性犯罪は日本国内でも頻発している現状があります。


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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その10)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論・その3)

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扉、戸の框組

扉および戸の框組に関する枘の割り付けですが、駆体の帆立そのものとさほど変わりませんので、特筆することは無いでしょう。

ただ数点、知っておいていた方が良いだろうと思われることなどにつき、思いつくままに記述していきましょう。

リストすれば以下のような事柄になります。

  • 面腰の枘に関するチップス
  • 蛇口の枘に関するチップス
  • 戸の建て付けに関するチップス
  • 扉、戸のへのガラスなどの納まりについて
  • 扉の召し合わせについて

以下、逐条的に解説を試みたいと思います。

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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その9)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論・その2)

前回、基本的なエレメントに関しては解説してきましたが、いくつか残余のところを下手な図面と供に公開していきます。

ところで、キャビネットの構造には、大きく分けて、框組み、板差しの2つの方式があることはご存じの通りです。

私個人としては、それぞれの特性、意匠、駆体のボリューム、などから選択するわけですが、比率としては50:50といった感じでしょうか。

框組と板差し

框組と板差し

框組と板差し

何が何でも板差しで、などと頑なな考え方の人もいるでしょうが、そうした狭隘な考え方は賢明ではありませんね。
当地でも、何が何でも全て無垢材、板差し、というところもありますが、ワードローブなんて、木の固まりのようなもので、厳つさだけが先立ち、とてもクールとは言えない佇まい。

例えば、私のワードローブでは、扉は無垢材としての素材感を訴えた意匠を特徴としていますが、駆体そのものは框組です。
双方の特性を取り入れた造形、構成です。

逆に、Room Dividerなど、無垢材をシンプルに見せたいということであれば、こうした板差しに天秤差しというのは、クールです。

ここでは扉も框組ではなく板差しです。(実際は天然物の高樹齢の木曽檜のリニアな木目を活かし、これを単板に挽き、ラミネートさせ、伸張、収縮を殺した構造です)
このページにも解説しておきましたが、余分なものを排し、木曽檜の美しさだけで見せたいという考えからの意匠であり、構造でした。

このように、目的とする構成、機能、フォルムを導き出すための、多様な意匠、造形を産み出してもらいたいと願うばかりですが、そのためにも板差し、框組、それぞれの考え方、技法を習得したいものです。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その8)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論)

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本件、一連の記述に対応する図を示します。

逐条的にすべてを書き込めるわけでもなく、基本的な理解に供することができれば良いかな、という程度のもので恐縮至極。

普段の仕事においては、ほとんどまともな図面など書きません。
だいたい、1/10の平面図でバランスを確かめ、ここに修正を施し、
その家具、固有の接続部位の仕口のみを1/2、あるいは原寸で書き足す、といった程度です。

誰に見せるものでも無く、自身への注意書きといったところ。

前置き、言い訳はこの程度にして、さっそくいきます。

標準的なキャビネットを素材として

図面の家具は、ありふれたキャビネットです。
私にとっては標準的なスタイルですが、この「標準」というのもクセもので、100人の家具職人がいれば100通りのスタイルがあるかもしれません。

加え、「家具作家」などと自称する人であれば、理解を越えた仕口も産み出され、もっともっと多様であるのかもしれませんね。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その7)

枘の割り付けを合理的に考える

高品質な家具作るのには様々な要素があるわけですが、そうした中にあっても枘の設計、加工が重要であることは疑いありません。

このあたりのことについて少し詳しく考えてみます。

建具屋の場合

以前、建具屋の工房にお訪ねし、少し驚くことがありました。
枘の設計に関わることです。

私は框組の枘に関しては、特段の理由が無いかぎり、芯芯に開口し、枘を立てるのを基本としています(無論、例外は多々ありますが)。
ところが、この建具屋さん、ケースバイケースでどちらかに寄せている。

これは、そこに納まる羽目板、ガラスなどの納まりを考慮し、もっとも合理的な位置に枘を立てるという考え方であるようです。
彼らのほとんどは、枘加工は「枘取盤」で行うという機械設備からも、そうした考え方は合理性のあることなのでしょう。

つまり「枘取盤」で枘を芯芯に付けるというのは、むしろ至難と言った方が良いという理由が考えられます(私が保有する「枘取盤」はアナログなものですので、そう感じてしまうからなのかも知れませんが)。

しかし、「枘取盤」を用いず、昇降盤と角ノミといった汎用機械で枘加工するという家具工房での一般的な作業環境では、芯芯に枘を立てる方法が、より高精度で、作業性も早く、合理性に富んでいるということが言えます。

角ノミ機の特性と限界、その克服

その理由ですが、角ノミ機での枘穴開けについて考えてみます。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(番外篇)

面腰の事例

面腰の事例

本件、“プロダクト的思考”と“手作り家具”は、高品質な水準を維持し、持続可能な生業として木工を営むことについて考えを巡らせているところです。

客観的なデータを持っているわけでもありませんので、木工というものが、現代を生きる若者にとってどれだけ魅力のある仕事であるのかは分かりません。

国内産業も自動車産業に代表される世界最先端のモノづくり産業が活況を呈している反面、家具産業は生産基盤の海外移転が著しく、国内では衰退の一途を辿っているという実態は広く知れ渡っていると思います。

そうした厳しい状況下、あえて木工家具の世界に挑んでくる若者は、70〜90年代の華やかな時代の頃に較べれば、ある種の覚悟を持ち、目的意識的、意欲的に挑んで来る人々なのだろうと思います。

信州の技術専門校への出願数が受け入れ枠の5〜6倍と聞けば、一部においては落胆させられるほどには、人気は落ちていないことも示されています。

家具産業の生産基盤がアジアの低開発国へとシフトしている中で、あえて日本国内でモノづくりに勤しむのかという意味についても、これらの若い方々にも理解されているはずです
ニトリやイケアといった巨大メーカーに市場を席巻されている中にあって、木工家具を作る意味についてですね。
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