
日本建築と手鉋
日本の寺社仏閣に代表される、伝統的な建築様式で建造された建築物は、恐らくは世界の中にあってある種の傑出した美の世界を誇っていると言って良いだろうと考えています。
これは建築様式、意匠をはじめ、様々な要素が折り重なって産み出される美であるわけですが、主材であるヒノキの絹目肌が放つ光沢も、美質を構成する上で欠かせぬ要素の1つであることは肯けることだろうと思います。
この〈ヒノキの絹目肌が放つ光沢〉は、ヒノキという樹種が固有に持つ物理的な特性によるものであることは言うまでもありませんが、これに加え、やはり何よりも手鉋で削り上げた肌目の美しさにより醸しだされたものであることは、ご存じの通りでしょう。
ヒノキが有する本来の木肌の美しさは鉋で見事に削り上げるからこそ、引き出すことができるのです。
この鉋という道具は当然にも世界各国にそれぞれ独自のものがあるようですが、身びいきを差し引いてもなお、日本の鉋はたぶん世界ひろしと言えども、最高の切れ味を誇る優れた道具と言って間違い無いでしょう。
この鉋、いわゆる台鉋と言われる道具は、鍛造された炭素鋼の刃物を木製の台にすげられただけという、とてもシンプルな構造ではあるのですが、今の形になるまで、様々な改良が施されてきたと考えられますが、上述したようにヒノキの肌をそのまま外部に晒すという仕上げ方法、その美意識を特徴とする、日本建築様式の独自の発展の過程で、その要請に応える形で進化、洗練されてきたのでは無いかと、私自身は考えています。
江戸の昔にあっては、たぶん、この鉋は、他の大工道具とともに、その時代の最先端をいく、先進的な道具であったでしょうし、これを自家薬籠中の如くに使いこなす職人はさぞ誉れ高い職業人であったに違いありません(現代の木工職人の社会的地位のおぞましさを知れば、彼らの嘆きはいかばかりでありましょうか)
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