鉋の仕立て
写真は名古屋 青山鉋店で求めた小鉋4台。
仕込みが終わり、油を浸み込ませているところです。
鉋に限りませんが、木工の手工具というものは購入してすぐに使えるものではありません。使用目的、使用環境に叶った道具に職人自身が仕込まねばなりません。
訓練校などでのカリキュラムには最初にこの鉋の仕込みというものが組み込まれているものです。
鉋であれば、対象とする材種に適合するような仕込み角度を決め、どのような削りのフィーリングを求めるかによっても、その仕込み具合は異なってきます。
簡単にそのプロセスを記すと…、
1) 刃の裏出し
刃は裏が肝心。裏がシャープな平滑性を保持していなければ良い削りはできません。 裏金(裏刃)も同様に裏出しをします。(重ね合わせたときに両者がピッタシ合わねばいけません)
具体的には、金盤という鋼鉄の板に金剛砂という鋼の粉末を置いて、水を与えながら、この研磨力を利用して平滑にするのですが、最初の仕込みの時は水研ぎと言って、金剛砂は用いずに水だけで研ぎます。
2) 2枚刃の合わせ
2枚を合わせたときに角の4点がバランスよくガタがないように調整します。
3) 刃の研ぎ
大切な工程ですので、ここでは書ききれませんので略します。
4) 台直し
穂(カンナの刃のこと)が台にしっかり適度な堅さで納まるように、溝、背中のなじみなどを調整する。
台下端(裏側)は削りのフィーリング(荒仕込=あらしこ、中仕込=ちゅうしこ、仕上げ、といった)に合わせ調整する(刃の研ぎも重要だが、この台下端の仕立ては同様に重要)。この下端の調整如何で鉋の調子が決まるといっても良いのですが、詳述は略します。
以上が終わったところで、刃口をテープなどで塞ぎ、ここに工具、刃物用の油を注ぎます。
これは<油台>といって、鉋がけの際の滑りを良くさせる、台を乾燥から防ぎ暴れを押さえる、などの目的で行います。
油を入れてしばらくすると台の頭、尻の木口から油が滲みだしてきます。これは台が木であるために、細胞組織の導管という管を通して抜けてくるためです。こうして万遍に台に油が充填されればOK。
堅い木を削るときは水引きといって、ウエスなどで水分を与え、削りやすくする事が多いのですが、このために鉋の台も弱くなりがちです。これを防止するためにマメに油壷で、油分を補ってやるのですが、あらかじめこのように油台にしておくことで、効果はヨリ高まります。
こうして一応は良い削りができる鉋の仕立てが完了します。
一応というのは、使いながらさらに微調整していくことが求められるからです。
最初はなかなか安定しないもので、調子を掴むまでしばらくかかります。
簡単に鉋の最初の仕立てについて記しましたが、かなり簡略しています。
もっとも、青山さんちの鉋は、かなり直使い(スグツカイ=直に使えるということ)に近く、とても良いフィーリングで仕立てられます。
なお反台カンナは刃口にかなりのストレスがかかり摩耗しやすいので、出来るだけ口埋めと言って、樫材、ローズウッドなどの堅木の板片を使って刃口を埋めるようにすることも肝要なことです。
南京鉋などの場合には真鍮を使う事もあります。
木工職人の技量を推し量るには、その職人の鉋を見れば判る、という言い方がされることもありますが、あながち間違いではないかもしれません。真理の一面を言い当てていると思います。
さて今日、Mac OS X 10.4.1 が公開されました。(参照)
さっそくアップデートしました。
Mac OS X 10.4 “Tiger”をインストールした人はアップデートしましょう。
リリース後1月も経たずしてのアップデートです ?!。Safariについてもいくつかの改善があるようですが、文字化け問題は解消していませんね。
文字化けする人はテキストエンコーディングを日本語(EUC)にすれば改善すると思います。
あるいはまたFireFoxを導入されていない人は1度ぜひ使ってみてください。快適です。
SafariはOS10.4を期に、RSSリーダー機能が搭載されましたので、今はこの快適さを受益していますが、日本語対応についてさらなる改善を望みたいですね。
artisan
2016-2-20(土) 20:46
Linkしている四日市の服部さんのBlogから、ピンバックが飛んできましたね。
来なきゃいいのにな、などと頭の片隅にあった思いを、今日の嵐のような突風に無惨にも吹き飛ばされたようです。
せっっかくいただいたものですので、十分なるものでは無いとしましても、私見を少し。
油台にしたきっかけ
木工道具の仕立ての初期の段階では、私は油台にしていませんでした。
その後、あることをきっかけとして油台の効用に目覚めたということがありました。
それは昨年103歳でお亡くなりになった、静岡の斎藤熊太郎さんという椅子制作のプロフェッサーを講師として迎えたワークショップでのこと。
彼は戦前、皇居の調度品などを手掛けている工房で修行し、戦後、地元の静岡に帰省し、個人の椅子工房を起ち上げ、地域では唯一と言ってよい、様式デザインの椅子を制作していた職人でした。
このワークショップにおいては、様式的な椅子ですので、曲面加工、曲面仕上げの工程がとても多く、小鉋、反り台鉋、南京鉋などを駆使することになったわけです。
私は一通り、そうした道具を所有していましたが、ただ経験が浅かったこともあり、十分に使いこなせず、初心者の域を出ていなかったのではと、思い起こします。
その際、先生、斎藤さんは、頻繁に鉋の台に油壺を当て、油を引き、シュ、シュッと小気味よく削っていたものです。
確かに自身でも行えば、曲面切削で起きがちな摺動性の疎外も無くなり、スムースに運行することに気づくという経緯がありました。
その後、同講座参加者のキャリアの職人から「油台」なるものを教示され、小鉋全般にわたり「油台」にするということになっていったわけですね。(寸六、寸八の鉋にはしません)
あらためて考えます
さて、きっかけは以上のようなことですが、あらためて考えてみます。
服部さんの指摘につきまして、たぶん否定できるものは、ほとんどありません。
彼らしく論理的、あるいは木工作業における美意識から導き出された考え方のようですしね。
また執筆の動機についても、良く理解できるところがあります。
しかし一方、講座で示唆された油台、あるいは頻繁に油壺で注油するという切削作業における運行、摺動の補助的な手法としては、私はあり得るものであり、否定しがたい効用があるものと思います。
つまり、このBlogでも過去何度か記してきた、職人的なアプローチである、作業効率性を重視するという思考は捨てがたいというわけですね。
ただ、鉋に習熟してきますと、曲面成型におきましても、油台では無くとも、その求めるプロフィールを産み出す技能は獲得されるものでもあるのです。
つまり、老いて力を失いつつある職人であっても、熟練職人ならではの、自在に鉋を運行させるだけの技量と、力の伝え方は身体が覚えているというわけですね。
加えて、服部さんの「鉋は、油台にしないほうが良い 5 一応のまとめ」での刃口の仕立ては、全く同意できるところです。
私は可能な限りに鉋は裏金のあるものを使いますが、特に一枚刃の場合において、逆目でも問題無く削れる台というのは、やはり刃口の狭さなのです。
「直使い」などと銘打った鉋には、最初から口が開いてしまっていることがあるものですが、そんな鉋は最初から口埋めしなければならない羽目に陥ります。
以前、信州の木工家、デニス・ヤングが近隣に工房を構えていた頃の話、
地域の道具屋で買った鉋の刃口がいやに広いので困った顔で、愁訴されたものです。
「日本の道具屋はこんな程度か」って。
私の太ももほどの二の腕の太さを持つ彼の力をもってしても、刃口の開いた鉋では、良いフィーリングでは臨めない、ということですね。
以上ですが、まぁ、こんな内容では服部さんにお叱りを受けるでしょうが、ここ数回にわたり記述してきた「鉋鉋掛けという工程について」は、鉋掛けという作業の意味づけについて考えてきましたが、鉋の仕立て、あるいは技術的なサイドからのアプローチでは、ぜひ服部さんの論考を参考にしてください。
もし関心のおありの方は、この場所(コメント欄)で結構ですので、ご意見を頂戴しましょう。