工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(その11)

〈倣い成形加工および面取り成形加工に使われる機械について〉

倣い成形加工および面取り成形加工に使われる機械とは、例えばヘビーデューティーのルーターマシーン、そして縦軸面取り盤などだ。

卑近な事例でうちのケースを俎上に少し考えてみたい。

ルーター&面取り盤ヘビーデューティーの「ルーターマシーン(ピンルーター)」は起業当初より導入していたものだが、これは修行当時に世話になった親方のところでの使用体験から、その木工加工工程においての能力と、利便性というものに大いに触発されたからに他ならない。

信州での修行当時の木工所には確かに設置されていたし、訓練校の機械室にも隅っこの方に置かれてはいた。
しかし残念ながらその活用範囲は狭く、せいぜい面取りであるとか、丁番彫りといった領域に留まるものであった。

しかしルーターマシーンの活用範囲を考えれば、もっと他の領域においてその能力は評価されるべきであることが親方の下で知らしめられるということになった。

その代表的な事例が倣い成形という作業工程だろう。
これは何も家具を量産するためのシステムというのではない。
最小単位である1つの家具部品を作るにしても、ある程度のボリュームを持った部材であれば、その成形加工というものは決して簡単な作業ではない。

一般には被加工材に墨付けし、これをバンドソーなどで挽き抜き、反り台鉋、南京鉋などで成形していくということになるだろうか。


あるいはうちではやらないことだが、荒いサンドペーパーを取り付けたサンディングマシーンで強引にやってしまうところもあるかもしれない(こうした方法については「機械選択の考え方について」で別に考えてみたい)。

これに代わる倣い成形の工程とは高精度な型板をあらかじめ作成しておき、これに合わせて倣い成形することで、型板とうり二つの良質で切削肌の美しい成形が可能となる。もちろん、複数の数量での成形加工ができることは言うまでもない。

これは椅子などには必須の曲面成形において威力を発揮するだろうし、例え1つの部品であったとしても、ボリュームがあり、繊維方向がある無垢材を高精度に切削するというのは決して簡単なものではないが、それに較べ薄いMDFあるいは合板などで型板を作るのは簡単であるし、よほど現代における加工スタイルに叶ったものだと言えるだろう。

その後うちではさらに「縦軸面取り盤(Shaper)」という機械を導入している。
これは1”の軸(丸鋸昇降盤などと同じ)に100φから130φなどの太さで、高さも100mmを越えるほどのカッターを取り付け5,000〜10,000rpmで回転させる機械だ(因みにうちのものはインバータ制御無段階変速)。

ルーターマシーンの軸径が12φ(あるいは16φ)と制約があるのに対し、25.4φという軸に大きな刃物を取り付けることができ、それだけ周速度も高く、切削肌はとても美しく、また逆目切削での欠損も少ない。
分かりやすく言えば、幅が10cmほどの椅子の笠木なども一発で成形加工できるということになる。

ボクの場合はその後手鉋を掛けた後にサンディング研削へと移行するが、切削肌の精度が高いので、鉋掛け工程を省きいきなりサンディングでもやれなくはない(量産工場はこのプロセスになるだろう)。

さてそこで今回のテーマである「制作スタイルの問題」であるのだが、このように倣い成形がとても容易にできる環境を導入するということになると、やはりこの環境が当たり前となり、手業で成形しなければならない環境と較べるとかなり複雑なプロフィールを持ち込むことに制動が掛からなくなるということがあるかもしれない。

ボクの場合もそうだった。過剰な曲面と複雑な面形状を安易に取り込むことで、それまでのデザインからやや有機的で少し官能的なラインを引くことにも衒いがなくなっていくのだ。

やはりそこは抑制的でなければならないし、機械性能に依拠したデザイン手法を取るのではなく、あくまでも自身が描くイメージをより豊かに、そしてより高精度に木に写し取るために機械を制御していくという考え方を基軸にしてやらなければ本末転倒だろう。

また機械切削というものはどうしても無機的になりがちなものだ。
ボクの場合は上述したように、その後手鉋(反り台鉋、あるいは南京鉋)での仕上げ切削をするのだが、これによりナイフマークはきれいに除去され良い木肌が現れるだろうし、また手業の痕跡を残すことができる。当然にも逆目も綺麗に除去できるだろう。
作業者自身には、手鉋での仕上げ過程は“木との対話”の復権でもあるかもしれないし、造り上げられるその家具との距離もより近くなると言うものだ。
こうして機械性能を縦横に活用させながら、なおここに手道具を介在させることで、より丁寧で、高精度な制作へと大いに寄与してくれるのが上手な機械の使い手ということになるだろう。

静岡という家具産地ではこうした制作環境を整備しているところは多い。
またいわゆる「駿河指物」と呼ばれ、伝統工芸展において高い評価を受ける職人も少なくないが、実は彼らも同じような制作環境で機械を使いこなしていると言うことは意外と知られていないことなのかも知れない。

座式の作業台(当て台)の横にはニカワを温める電気コンロがあり、ちょっと離れたところには丸鋸昇降盤とともに大きなルーターマシーンがあるといったように。

*補足
なおここでのテーマからは少し離れるが、縦軸面取り盤での成形加工のメリットで確認しておきたい重要なことがある。
胴付き面が高精度に作り出せる、ということについてである。
胴付き面は、一定の幅と長さにおいて平滑でなければならない。しかしこれを成形加工途上で手道具で削り出すのは容易ではない。
手鉋の熟練を経てもなお、一定の狭い面積を矩(カネ)を確保しながら作り出すのは簡単ではないだろう。
これが型板さえきちんと直線が出ていれば、10cm幅もの面積が簡単に作り出すことができる。
こうした能力が、疲れることなく複数本同一のもので獲得できるということになるのは言うまでもない。

* 画像
上:ルーターマシーンでの倣い成型。
下:縦軸面取り盤での倣い成型

hr

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  • ルーターマシンの方は軸径もハンドルーターに近く親近感がありますが
    面取盤はいかにも、刃物の径が大きく恐怖感が先に立ちますね。
    ルーターマシンの方はピンを倣い、面取盤の方は刃物の下にカラーが付いて
    いて、それに倣うことになるのでしょうか?
    両方とも倣い成形の写真ですが使い分ける基準はどの辺にあるのですか?

  • acanthogobiusさん、画像があまり適切ではなかったようですね。
    倣い成形での使い分けの基準:
    縦軸面取り盤は刃径が大きいことが性能に大きく左右するのですが、逆にそのことで曲面のRに制約があります。
    100φですと50r以下の曲面は無理ですね。
    比し、ルーターはそれ以下の曲面に対応してくれます。
    また切削の幅はルーターですとせいぜい50mm程までですが、縦軸面取り盤では100mmまではOK !
    (ルーターで数段階に分けてやることもできますけれど)
    >刃物の径が大きく恐怖感が先に立ちます
    それは誤解かも知れません。
    一見怖そうですが、ジグさえしっかり作れば、刃物が大きいだけに安定した切削ができます。
    ルーターマシーンの方が(刃が小さい方が)かえって危ないかも知れません(切削力が小さいために、無理が利かない。逆目切削に対応力が小さく、抵抗が大きくなり、危ない)。

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