工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「木」の大学講座「樹木と人間・動物のかかわり」〜ブナの時間・トチの時間〜

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はじめに

私たち家具職人が家具を制作するにあたり重視する事柄の中にあって、その主たる素材としての木材はもっとも大切なものであることは言うまでもありません。

フラッシュ構造のものであれば、フェイスにプリント合板を持ってくれば、そうした課題は回避できますが、広葉樹の無垢材をもっぱらとする私たちには「逃げ」は効きません。

また国産広葉樹の多くの樹種の需給が逼迫する状況下というものは、いよいよ無関心でいることが許されないものとして制作現場の私たちに突きつけられていることも事実でしょう。

しかし、こうした家具制作における持続可能性が危ぶまれる現状を眼前にしながらも、私自身も含め、この問題に深く検証を試みるなどということは少なく、ましてや広葉樹林の生態系へと足を踏み入れることは、実に稀なことであるのが実態と言うわけです。

この度、タイトルの講座が開講され、これに参加させていただくことができ、上述のような問題回避の日々を脱し、1歩、大きく足を踏み入れることで、日本の森の豊穣さと出逢い、多くのことを学ぶ契機となり、そして家具製作者として何某かの展望と可能性、そして勇気を掴み取ることに繋がったように思います。
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枕木という材

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8本ばかり枕木を求めました。
これでごっつい家具を作ろうか、などという算段では無く、工房周囲に鉄道を巡らそうという構想。
いやいや、そんなわけはない。

まずは近隣のホームセンターなどで在庫状況を確認したのですが、後述するように、杉材の枕木はあるものの、本来の堅木の中古枕木を扱っているところは実に少ないのでした。

この品薄状況は、どうも園芸などに引っ張りだこで、中古の枕木を主体として需要が逼迫しているからだそうです。

かくいう私も、例に漏れず工房周囲の外構に活用しようという魂胆。
先月、工房南側にパーゴラを建造したのですが、これに付随させる資材というわけです。
主目的は別にあるのですが、それは首尾良く完成したところで触れることにしましょう。

昨今の枕木事情

さて、枕木ですが、ご存じの通り、昨今、もっぱら鉄道に使われるものはコンクリート製です。
ただ、補修とか、引き込み線には、まだまだ木製の枕木が用いられているようで、そうした市場も健在というわけです。
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作業台、あるいはWorkbench(WorkTopの素材を考える)

現代では欠かせない合板という木質材料

Workbenchに用いる材料などについて見てきたわけですが、これまでは無垢材を対象としてきたものの、現場においてはワークトップ(甲板)については合板を用いるケースも少なく無いという実態もあるようです。

今回は補記的にそうした「木質材料」について少し見ていきたいと思います。
現在、建築から家具まで、使われる木材の多くはこの「木質材料」、特に合板が用いられています。

近代の合成樹脂接着剤の進歩を背景とし、工業資材として物理的安定が確保され、現場での施工も容易であることなどから普及しているわけです。

私の新しい工房兼住宅にも、大量の合板を使ってきました。
主要には床の下地材として、28mm針葉樹構造合板を数百枚、作業場の壁面にはポプラ合板を、これも100枚ほど。

これほどの枚数を使いますと、合板で懸念されるホルムアルデヒドの放散は、規制上、かなり抑制されているものの、果たしてその実態はどうであるのか、いわば人体実験に曝されている感もありますね。

建築資材としては耐力性、耐水性(プライ層の接着剤が耐水性をもたらす)などの効用が活かされ、また加工、施工なども容易なところから、現代建築では重要な資材になっていることも確かです。

こんな工業資材に依ること無く、すべて無垢材で建築できるのであれば良いのですが、私のような限られた資金での建築、あるいはその後のメンテナンス等を考えれば、そうした選択などできようもありません。
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作業台、あるいはWorkbench(続き、のようなもの)

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今日は黒猫の話ではなく、Workbenchに用いる材料などについて、考えてみます。

ケヤキで作られたWorkbench

最初のWorkbenchを制作してから数年後、当時福知山の訓練校に通っていた友人から、奈良市内のあるギャラリーでワークベンチをテーマにした展示があり、在廊していた作者との会話の中で私のワークベンチが話題になったと伝えてくれたことがありました。

大学の先生が研究テーマとしてワークベンチを制作し、これが展示されたとのこと。

このワークベンチの材種は、何とケヤキだったというので、取り寄せたその研究論文の記述内容もさることながら、材種選択のユニークさから記憶に留めることになったのでした。
・・・ケヤキですよ。
神社仏閣の一角に鎮座させ、作務衣に身を包んだ僧が作業するにはお似合いでしょうね。

確かにケヤキは気乾比重も高く重厚ですので、作業台としての条件を適えていると言えるかも知れません。
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秋田杉の建具

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このところ、新しい自宅、工房建築においていくつかの建具を作り、これらの一部を紹介してきましたが、今回はこれをご覧になった顧客からの建具制作依頼でした。

玄関脇に設備された下駄箱の戸なのですが、950w、2,300h もあるという大型の引き違い戸。
本来は建築に作り付けの造作への建具ですので、建築施工の責任範囲ですが、施主側の事情もあり工房 悠への依頼となった次第。

軸組在来構法の建造物ですが、梁に松の丸太をそのまま使うという豪壮な住宅で、宮大工による建築のものだそうです。

関西の地方都市郊外の新しく開発された地域ですが、私が住む静岡などとは異なり、住宅の品質への拘りは高いものがあるようで、このお宅もまたそうした建造物なのです。


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マシンのドレスアップ

月日の経つのは早いもので、工房の引越から早8ヶ月。

今日は久々に大工さんから電話が入る。
新年明けて早々に打ち合わせしたはずの、工房の外構関連の施工打合せにこの日曜にやってくるとのこと。
おやおや、忘れちゃっていたわけではないのね。

そんなこんなで、工房整備の進捗も思うようにはいかない実態への焦りも慣れっこに。

作業環境も似たようなもので、思い描き、図面に落としはしたものの、望ましい姿になるのはいつのことやら・・・。
妻から居住スペースの調度品(家具、什器関連)制作にやかましく言われてもいて、作業所関連はどうしても後回し。

さて今日はこの作業所のストレージ、機械周りの整備について少し触れて見たいと思います。
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【木の大学講座 2015 第十二期「ブナと栃の時間」】ご案内

栃の巨樹

はじめに

木工家具の主たる素材は木ですが、一般には板に加工されたものを市場から調達して用いています。
あるいは原木市で丸太を競り落とすところから始められる人もいるでしょう。

私の土場や倉庫には買いそろえた材木に潰されんばかりのストックがあり、今では原木市場に足を伸ばすことも無くなりましたが、一時は隔週ごとに原木市へと出向き、良い樹形の、目の詰まった丸太は無いか、めずらしい樹種は無いかと、目を皿のようにして探し回り、セリ札を投じ、入手できたものが出番を待っているのです。

しかし、これらの原木の里、つまり生まれ育った森林にまで足を踏み入れることは少なかったというのが実態です。

レストランのシェフが無農薬の滋味深い野菜を探し地方の農家へと出向いたり、良質なチーズを探し遠方のクラフトチーズ工房へと通う、などといったことも今では珍しくも無いようですが、われわれ家具職人にしても、そうした行動様式が取れないわけはありませんね。
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作業台、あるいはWorkbenchとウッドスクリュー

My Workbench

黒猫とワークベンチ

ジェイムス・クレノフ(James Krenov)氏の印象を1つ上げろと言われ、黒猫が寛ぐほどのワークベンチ、と答えてしまったら笑われるでしょうか。

黒猫の方はともかく、ワークベンチ(Workbench≒作業台)には木工に関わっている人であれば関心も向こうというもの。

堅牢性と機能性を兼ね備え、木工職人の多様な要求をドンッ、と受け止め、応えてくれる奴。

クレノフ氏は自らを“アマチュア”木工家と自称し、その深遠なる自覚において、より厳しく自己を律してきた人物として強い印象を遺し去って行った人でしたが、彼が最晩年に至るまで教鞭を執ったカリフォルニア〈Redwood校〉の教室には、彼の愛用したものと同種のワークベンチが一人ひとりに供与されていたものです。

こんな頑固なものは「家具作家」には不要と思えるものであっても、木工への真摯な思いを投ずる、自称「アマチュア」と、その人生の少なく無い領域を木工に投じて惜しまない職人らの厳しい要求に応えてくれるワークベンチ。

そのスタイルはいわゆるスカンジナビアンと言われるタイプのもので、その堅牢性、機能性ゆえに欧米を中心に広く一般に普及しているものですが、クレノフ氏のワークベンチの場合はちょっと異彩を放っており、そこに関心を向ける人も多いでしょう。
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桜花

ソメイヨシノ:2015.03.27 栃山川沿い

ソメイヨシノ:2015.03.27 栃山川沿い OLYMPUS XZ-1

本居宣長 旧宅

伊勢方面への所用の折り、松阪市内の本居宣長の旧宅(記念館として整備されている)を訪ね、館のスタッフと暫し話し込み、さらにはそこからかなり離れた奥墓へと参ったことがある。

山懐に分け入り、汗ばむほどの急な坂を登り切ったところにそれはあった。
静寂に包まれた墓の隣には、近年に植えられたと思しき、すらりと伸びた1本の山桜があったが、この時季、恐らくはその蕾はまだ硬く閉じられたままだろうと思う

このようなところに、さして国学に格別の関心があるわけでもない私の足が向いたのは、日本人なるものを意識してみたかったとでもしておこうか。

あるいは、小林秀雄の最晩年、全精力を注ぎ著したのが『本居宣長』だったことも頭の片隅からささやきかけていたわけだし。
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マホガニーのデスク(追補)

maho.desk21

マホガニーのデスク・第2弾

とは言うものの、前回投稿のものと兄妹の関係。

違いはただ1つ。抽手、ハンドルです。

前回のものはトラッドなデザインの金具。
今回はオリジナルな木製。

依頼されたのは、前回同様。学齢を迎える子の親御さん。
兄と妹、それぞれに与えるというもの。
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