スカンジナヴィアン スタイルのワークベンチ(撮影:中山雄太さん)
2種のバイス
Tail Vice(主万力)
Shoulder Vice(側万力)
設計PLan
設計Plan
ハードウェア(スクリュー 2点)
輸入品のTail ViceとShoulder Vice
日本の伝統的なアテ台+万力
日本の伝統的なアテ台に万力付加しての作業(D.Young)
FineWoodWorking DesignBook Vol.6 に掲載
Tail Vice、Shoulder Vice 活用の事例
Tail Viceの汎用的な活用法
《画像キャプション》
① Tail.viceでDogを用いた一般的な部材のホールド
② Tail.vice 顎部に組み上げた椅子を掴み、固定(仕上げ工程のアプローチ)
③ Tail.vice 顎部位に抽斗を固定し、仕込み作業のための側板の削り
④ Tail.vice 顎部位に椅子のアーム部位を掴み、Slaveにて受け止め、仕上げ削り工程
⑤ Tail.vice 顎部位にテーブル脚部を挟み、仕上げ削り作業
⑥ Shoulder vice で長尺で幅広の板を挟み、Slaveにて受け止め 木端へのアプローチ
Shoulder Viceの活用
Vice制作 スナップ 3点
Vice制作のキモは蟻組み
Tail Viceの組み立て
Dog
発注者のViolin Maker の中山さんは、それまでこの種のスカンジナヴィアンスタイルの老舗のWorkBenchメーカー、ショーベリー社のものを使っていたようです。
今回、このWorkbench納入後の使用感として、その機能性、確かさ、安定性などに高い評価を与えてくれたものです。
この度、杉山さんに作業台を作って頂きました弦楽器製作家の中山と申します。
こちらの作業台は一言で本当に使いやすいです。今までは市販の作業台を使っていたのですが安価な事もあり作業する上で身体を痛めてしまう事もあり苦労していました。
それに比べ、杉山さんの作業台は隅から隅まで作り手の思いが感じられます。天板には樺材を使うことで重量感を高め、ちょっとした事では動かないので身体を痛める事を気にせず使えています。
また、tail viseで挟む箇所には牛革を用いることで対象物をしっかり挟み込みホールドしてくれるので作業がとてもスムーズになりました。抽斗は杉山さんと何度も話をさせて頂いたのですが、一つ一つ丁寧な仕事が施され引き出しやすさ閉じやすさ共に負担なく使えています。
まだ私も使い始めて間もないですが、本当に魅力的な作業台です。今後も大事に使わせて頂きます。 中山 雄太
ワークベンチ
はじめに
このWebサイトにも作業台・Workbenchに関する記事が置かれていますが、1988年に工房 悠を設置し、まず最初に制作したのが、このWorkbenchでした。(こちら)
木工を営むには、何よりも必須で大切なものであるからです。
モノ作り一般、どんなものであれ、作業台というものが使われるものと思われますが、木工においてもこうしたWorkbenchは欠かせぬものとなってきます。
もちろん国内の木工においても古来より様々なタイプの作業台が使われてきたと考えられますが、その代表的な事例が〈アテ台〉と呼ばれる1枚の樺の厚板にストッパーが1個穿たれたものというシンプルなものです。(左画像、7枚目)
無垢材を専らとする指物の現場ではこのアテ台というスタイルが一般的で、 地域によっては画像のような万力を付加させたもので木端へのアプローチを適えているというものです。
これに〈立ち台〉と言われるような高さが70cmほどで、ここに〈アテ台〉様のものを載せたり、あるいは合板を載せるといったスタイルのものも多いようですが、アテ台よりも今ではこちらの方が一般的なのかもしれません。
これらに対し、Workbenchははるかに堅牢であるばかりではなく、高機能、多機能で作業者の作業を様々にサポートし助力してくれる優れものです(詳細は別項 Workbench を参照ください)
こうしたWorkbennch・作業台は、作業者自身が制作するのが常です。その作業者の作業内容に合わせ、もっとも適切な構造と機能を満たす設計を行い、必要な材料を取り揃え、制作するものです。
これまでも幾度かWorkbenchの制作依頼があったもののお断りしてきました。ご自身で楽しみながら作るのが最善ですよ、と言い添えつつ…。
ただ今回はこうしたものを制作する環境の無い、お若いバイオリンメーカー(バイオリン制作者)からのたっての依頼でもあり、久々に制作する機会を得たというところです。
材料
このスカンジナヴィアンとも、ヨーロッパ型とも言われるWorkbenchですが、材料は何よりも堅牢で、様々な過酷な作業工程において破綻の無い性質を有するものでなければなりません。
そうした条件を満たす材種はそう多くはありません。
欧州ではブナ材(欧州ブナ)であり、日本では古来から樺材が最適とされています。
気乾比重が0.7と、国産材としてはかなり重厚な部類。また散孔材で、木肌は緻密でもあり、作業台としての厳しい要求にも応えてくれる特質を有します。
私はこの樺材を主材とする松本民芸家具で修行したこともあり、その地の材木屋との取引も長く、良質な樺材を様々な厚み、グレードで豊富に在庫していますのでこの制作でもスムースに対応する事ができました。
ワークトップ
作業台のもっとも重要な天板の部位。
作業者側に近い部位は90mmほどの厚みで、堅牢な構造の脚部とともに、過酷な工程を伴う様々な木工作業を受け止める構造となっています。
奥はやや薄くし、60mmほどの厚みです。もちろん、重厚な樺材でこれだけの厚みがあれば十分過ぎる構成です。
2列にDogHoll という穴が穿孔され、ここにDogと呼ばれるストッパーが入り、任意の高さにするなどして、Tail Voceとの間に挟んだ加工材をしっかりと挟み、固定することができます。
奥にはTool Rest という1段下がった部位があり、ここに鉋やノミなどを仮置きをした状態でフラット面を確保することができます。
前後に傾斜した部位がありますが、このTool Rest に溜まったダストの掃き出しのためのものです。
バイス機構
スカンジナヴィアンスタイルの標準的なもので、Tail Vice(主万力) および Shoulder Vice (側万力)の2種を備えます。
Tail Vice(主万力)
専用のスクリューを中心に、万力の顎のスムースな摺動を機能させるため、少し複雑な機構を有する部分です。
強い圧力が掛かりますので、この要請に応えるため、パーツの結合部位の多くが大きな蟻組になっています。
ここが、このワークベンチのキモでもあります。
機械加工と、手鋸、手ノミを総動員しての加工ですが、良質な樺材であれば、破綻無く綺麗に加工ができます。
使い方
スクリューを操作する事で顎部分が開閉しますので、ここに被加工材を挟み。固定させることができます。
特徴として、この顎部分の摺動は常に安定的に平行移動することです。つまり、どんな開口状態であろうと、常に顎の全ての部位は垂直で、一定の間隔であることが確保されているということです。
また万力は一般には顎の下に2本の棒があります。
これによって上下に長い被加工材は棒が邪魔になり挟めません。
しかし、このWork Benchの主万力は顎の他に邪魔する部材も無く、自由にどんなものでも、どんな形でアレ、掴み、保持することができます。
ここが圧倒的に、他の万力とは異なるところです。
Work Top にはDogがあり、ここに任意の長さの被加工材を挟むことができます。
一般にスカンジナヴィアンスタイルの標準的なものはこのDogのための穴が1列ですが、板を挟み、安定的に固定できるよう、ここでは2列に穿ってあります。
Shoulder Vice
補助万力、側万力?、このバイスは前後にやや長いところから、板を挟み、木端への安定的なアプローチでの作業が容易なものとなります。
長尺の場合は、片側の先端をこのShoulder Viceに挟み、相手側を Bench Slave で支え、固定させることができ、板の木端などへのアクセスが容易です。
またこのShoulder Viceの構造はTail Vice と同様に、顎部位には他の邪魔者がありませんので、どのようなサイズ、形状のものでも掴めます。
収納抽斗
左右、2ブロックに分かれ、右は深く長い容量の抽斗が、左は扉を設けた内部に、数多くの小抽斗が備えられます。
木工では様々な工具、道具が必要ですので、こうしたところに大小様々な収納スペースがある事で、作業者はすぐに必要な工具などを取り出す事ができます。
Dogについて
Dogとはストッパーのことです。
Dog Hole を2列に開孔してあり、被加工材の長さに応じ、任意なところでこの板を挟み、固定することができるものです。
このDogの素材は硬質で粘りのある材が望まれ、一般には楓、メイプルが使われます。
スプリングを効かすことが求められるということです。
なお、経年劣化等を考慮し、あらかじめこのスプリング部位には小さな鋼製のスプリングを埋め込んでおきます。
これをWorkTopに穿った2°の傾斜を持たせたDog Holeに差し入れ、任意の高さに保持し、被加工材をしっかりと挟み、固定させることができます。