ジュエリー、つまり、美しく装うための、宝石、貴金属で作られた装身具類を収納するためのチェストです。
当然ながら、宝飾品も含まれるところから、こうしたチェスト制作には、Fine Woodworking(無理やりに邦訳すれば、指物グレイドの木工)の品質が要求されます。
そうした気概で設計し、贅を尽くした品質を備えるものを作りました。
材種はメイプル材ですが、全面にチジミ杢が醸された稀少材の〈カーリーメイプル材〉を用いています。
このチェストの品格を規定させる意味からも、この材種選定と選木は譲れないところです。
意匠のポイントですが、様々な種類のジュエリーを機能的に収納させることが基本となりますが、何よりもチェスト自体の美しさを追求しています。
過飾性を避け、シンプルモダンのテイストを基本とし、いくつもの機能性を満たしつつ、これらを意匠的に有為なエレメントとして包み込み、これをチェスト全体の統一的な意匠として適えるべく設計しました。
480w 300d 255h という比較的小振りなチェストですが、全体を1つの駆体として、より量感を見せるため、正面部分を1,500Rに張らせています。
下部のベース部分ですが、腰高の構成ですので、長めの脚部に意匠を凝らしました。
いわゆる“テリ脚”という造形ですが、4本の脚をそれぞれ45°捻り、“テリ脚”の造形美をより強調してみました。
材種のカーリーメイプルのチジミ杢の美しさとともに、高貴なイメージが醸されています。
中央、最上部
リング、ブレスレット、ブローチなど、大小のサイズ、多彩なパーテーション仕切られ、品種ごとに安全に収納。
無垢材の羽目板が美しい上蓋は、裏に装着のために必須の鏡が納められ、またお客様の身長に合わせ、任意の角度で固定保持させるために〈トルクヒンジ〉を用いています。
中央 2段目抽斗
細かなパーテーションで仕切られています。
中央 3段目抽斗
ベルベット生地は貼られていますが、こちらは仕切無しで、A4サイズほどの収納になります。
この2段目、3段目の抽斗ですが、本体の奥行きに余裕がありませんし、また貴重なジュエリーを落下させることは厳に戒められますので、最奥まで視認とアプローチを可能とするフルトラベルのスライドレールを設け、加え、このレールの機構でストップさせ、脱落を防ぐ仕掛けを施しています。
なお、このスライドレールは既製のハードウェアではなく、木製(樺材・柾目)で自作したものです。
なお、この中央3段のフロント部分ですが、1枚の板から穫ったもので、木目は繫がり、より自然な姿を留めています、
2種の引手を使っていますが、いずれもローズウッドのカスタムメイドの木製です。
左右の袖について
左はピアス専用のストレージで、右はネックレスなどの収納スペースとしました。
中央部の背部、両端の、上下2箇所にヒンジを設け、ここに左右の袖をぶら下げ、左右に大きく展開させる機構としました。
袖部分も無垢材を用いていますが、反張防止のため上下の木口側は濃色材のローズウッドでハシバメとし、この一部を上下のアクセントカラーにし、構造的要請を意匠としても活かしました。
こちらも、抽斗前板同様、左右それぞれ、1枚の無垢材から、正面、側面、背面を分割、切り分けたものになっており、したがって木目も繫がっています。
また、これら中央部(蓋を含め)、左右の袖とともに、正面を全体に、1,500Rの円弧状にデザインしています。
より柔らかな感じを与え、またこれにより量感を醸すことにもなります。
無論、この円弧状の意匠を適える加工というものはとても難易度が高まることになりますが、難度の高い加工も、それだけの価値を生むことに繫がるのであれば厭わないのが Fine Woodworking の世界です。
ジュエリー チェスト単体の場合には、デスクトップ、あるいは何らかのキャビネット上に設置することになりますが、今回は専用のベースも用意しました。
やや大きな1杯の抽斗を設けたものになります。
腰高の構成ですので、長めの脚部に意匠を凝らしています。
“テリ脚”という造形になりますが、脚を45°捻らせました。
この捻りは、この脚部と、脚部間の側板や、正面、抽斗部とが一定の角度を持った関係性となるところから、立体的により陰影を強く与えることになります。
また断面を視た時、7面に面が取られているところから、鎬面のエッジが効果的で、また捻りにより“テリ脚”の造形がより美しく、材種のカーリーメイプルのチジミ杢の美麗さとともに、高貴なイメージが醸されています。
かなりの腰高で、構造的強度を考えれば脚部の下方に細目の貫を設けるという考えもありますが、抽斗を囲む上部の2本の棚口、および左右の幅広の側板が十分に剛性を確保しているという考えから、意匠を削いでしまう貫はあえて設けないことにしています。
お客様のご要望により、チェスト単体でもベース付きでも、いずれでもお求めになれます。