工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

古色のTVキャビネット、その2

TVキャビネット下台(一部)



コメント氏から寄せられた興味にも助けられ、少し補足的なことを記してみたい。
このキャビネット、全体のフォルムもさることながら、ディテールにおいていくつか心を砕いたところがあるのはコメント氏の指摘の通りであることを隠しはしないが、やはり自宅で使うことを前提としたものであれば、新奇性をねらったり、新しい試みにチャレンジすると言う意味で、若い頃は大いにすべきだろうと思う。

老成してしまうと、チャレンジを行うのは様々な制約の中にあって難しい。
(ボクはまだ青臭いので、チャレンジ平気ですが (^_^;)

さて、具体的にいくつか取り上げて解読してみたいと思う。

〈下台〉
TVキャビネットという機能を前提としたものであれば、まず収納部はそれにふさわしい構成を考える

・全体の構成
AV機器収納部の上に大きな抽斗を2杯設けたが、このことにより、TVの高さがやや高くなっている。
視野角がやや仰角になってしまうので、収納の問題がなければ、その分下げた方が良いかも知れない。

中折れのデザインについて。
これは好みの問題もあるが、より大きく拡がりを持って見せる、立体的、奥行きを見せる、という視覚的効果は大きく、選択肢の有用な1つと言えるだろう。
もちろんこの設計では仕事の難易度は高まるが、それ以上の効果も期待できる。
円弧状の甲板はただそれだけで単純に綺麗だしね。

確かにやたらと曲線を用いるのは好みではないが、必要とあれば適宜美しいラインを書いてみるものだね。
この円弧は半径が5,000mm以上だったから、ビームコンパスを作るのも大変だったはず。
柱を甲板突き抜けるデザインとしたのは、上台の柱との連続性をねらったものだが、これは賛否様々だろうと思う。むしろこうしたことはやるべきではないとの考えも強かろう。
ま、1つの試みとして(人柱として…>_<…)。
・収納される機器の寸法、特性、拡張性
AV機器の寸法は規格があるわけでもないが概ね最大のサイズは決まっているので、これを基準として設計すれば良いが、拡張性を考慮することは必須の課題だね。
IT機器は変化速度が激しく、クライアントとの調整を悔いなく行うことが必須。
ここでは平均的なサイズで設計されている。

なお、撮影しておけば良かったのだが、AV機器を置く地板は、実は可動するトレー状にした。
AV機器の配線処理を考えてのものだ。

背面は熱対策で大きな開口部を設けた框組みのパネルとしている。
中央部にアース端子付きの6口コンセント
左右の仕切り板は設けていないが、TV重量を支えるために、前後に柱を付けている。
・メディア収納

TVキャビネット(下台右袖)

この製作時期は音源はもっぱらCDディスク。映像はVHSだった。

恐らく今後数10年はフォーマットは変化していくだろうが、12cmディスクで推移するだろうことは確認して置いて良いのではないだろうか。

したがってこの12cmメディアを合理的にびっしりと収納できる設計をしたいもの。
ここでは右袖にCD標準ケースで1段約50枚、計150枚が収納。
恐らくはこれでは足りないかも知れない。

・扉デザイン
これは前回も記述し、またコメント氏へのレスとして記してきたところだが、いわゆるスタンダードな框とは異なるデザインであるので、違和感を持たれるのは承知の助。
しかしあえてコメント氏の言うところの「流れ」を重視したことによるのでご理解いただけるだろうか。

召し合わせ側の縦框はやや細くしたのだが、これは左右扉を一体的に捉えようとしたことによる。
AV機器のリモコン赤外線操作のことも配慮したものだ。

こうした扉の框構成は、抽手の一体化処理も含め、加工から組み立てまで、かなり難易度も高まるが、ボクたちにはそうしたことを楽しんでしまうという“悪い癖”があるので、構わないだろう。
そうした作り手の楽しみが使い手にも伝わるというのがボクたちの仕事の要諦の1つでもあるからね。惜しむようであってはいけない。

木取りについても先にお話ししたとおり、柾目、板目を意識的に配置したのだが、無論、1枚の荒い板をを合理的に木取るということにも繋がる考えだ。

以前このBlogへのコメントに、扉はどうして全て柾目にしないの?とあったが、この程度のサイズの框で板目の反張を云々するのは机上の論でしかないのでは?
事実、20数年、TVという少なからぬ排熱のある環境で、全く機能障害はないのだから。

要するに板目ではあっても、しっかりと乾燥させた板であれば、木目を活かすべく意識的に配置するのは悪いことではないように思うが如何だろうか。
ただやはり、召し合わせ、あるいは丁番側などの縦框は可能な限りに柾目で木取るというのは基本だね。

・右袖収納部と抽斗
この設計はいわゆる、造り帆立という手法。
和家具の着物整理タンスなどに使われる手法だね。
駆体キャビネットの内部に、別の帆立を組み、ここに抽斗を構成するということになる。
これはまた、扉と抽斗が干渉しないように設計するためのキモであるのだね。

この場合は造り帆立を框で立て、この框に平面になるように板を落とし込み、ここに吊り残を活け、抽斗を放り込めばよい。(違い胴付きの仕口で行えば納まりがよい)
こういう場合は棚口+摺り䙁方式ではなく、吊り䙁で行うのが合理的だし、綺麗だ。
抽斗前板は天秤で指す。

なおこの抽斗側板はカツラ材。前板はもちろんキャビネットの主材、ミズナラと同材。
ただ本体部分が阿仙で着色され、こちらはナチュラルであるので、その色差がでている。
同じ材を使うのでも、こうして色調を変えることは意味のあるところでもある。
側板材は、こうした洋家具にはカツラ材というのは最高だね。
次いで、シナノキ、朴あたりかな。もちろん桐材を使うのもアリだ、
あるいは共材(ここではミズナラ)を使うというのは欧米では多いようだ。
いけないのは南洋材、ペルポックとかアガチスなどといった材は良くない。あれは木ではなく草のようなものだからね。

‥‥、1つの家具で引っ張るな〜、
上台もあるので、もう1回いこうかな(やはり、もうこの程度でよしておこう)
しかし今回有為なコメントをいただけたことで、こうして解読を発展させることができたのは幸いなことだった。
Blogならではのツールに助けられたというところだね。

読者もいろいろと考えを揺さぶられ、あるいはうざったく思われたり、俺だったらもっと良い方法があるんだが、などと思われたところもあるに違いない。
そうしたこともコメントいただければ、若い読者にはさらに刺激的なものになるだろう。

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