工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

Takemitsu Songbook・武満 徹のセンチメンタリズム


秋だから、ということではないのだろうが、3.11からこのかたの、流したいく筋もの涙を拭うための歌も時には必要だ(いや、むしろ哀しみを哀しみとして純化させ、希望へと昇華させるための涙だってあるだろう ‥‥)。

この新しい武満徹ソングブック。7人の素敵な歌手たちが、武満への深いリスペクトを込め、丁寧に、深く、美しく歌いあげてくれている。

ボクにとり武満徹とは世界に轟いた『ノヴェンバー・ステップス』の作曲家である前に、無類の映画好きとして、黒沢映画などに映画音楽を提供した作曲家であり、「三月のうた」、「死んだ男の残したものは」、「MI・YO・TA」などのポピューラーソングの作曲家、というイメージの方がむしろ強い。

無類の映画好きといっても様々で、ボクのように年間20本ほどしか観る機会の無い者だって映画ファンを自称することはできるが、彼の場合は年間200本を超えるときもあったというので、並では無い。
ただ『エル・スール』、『ミツバチのささやき』(いずれもビクトリ・エリセ)や、タルコフスキーに魅入られていたという話しを聞くと、いきなり親近感を持ってしまう。
あぁ、少しは感性、美的基準においてそんな遠くにいる人では無かったんだと思えてきて、ちょっと嬉しくなる(その捉え方の水準においては違ってはいても、だ)。

このアルバムはそうした彼が遺した映画やドラマのための音楽を中心として編まれている。

全編、ショーロクラブという弦楽奏者とのセッション。
このアンサンブルが奏でる演奏は、編曲の妙とあいまって、Jazz調に、あるいはブラジル風の響きを豊かに奏で、唱にロマンティックに絡み合っていく。

武満徹のソングはこれまでも少なくない数のアルバムが編まれているが、今回のようなコンボをバックとしたものはめずらしいのでは。
武満徹のピュアな精神、ピュアな美しさが、ショーロクラブのロマンチシズムにより、より響きは深くなっていく。

7人の歌手の中で、知らない人も数名いたが、武満ソングではおなじみの沢知恵さんはもとより、数枚のアルバムで親しんできたアン・サリーが参加しているのがうれしい。

おおたか靜流さんは知る人ぞ知る、CMソングの女王。
広告産業、CMプランナーは彼女に足を向けては寝られないほどの人で、7色の音色を持つ実に巧みな歌い手だ。
「三月のうた」にはしびれた。

浄化された唱法とでも言えば良いのか、彼女の類い希な7色の歌唱力はいつもとちょっと違って、少し背景に退きつつ、良質なエッセンスだけがこぼれ落ちるという風の、抑制的な中に一筋の光が差してくるようで一音一音聴き逃すことのできない作品だ。

このディーバ3人によるセッション「MI YO TA」もおもしろい試みだと思った。
音色の異なり、ヴィブラートの有無などから聞き分けるのだが、録音スタジオでの様子が知りたくなってくる。

他に、おおはた雄一、松平敬、 松田美緒、tamamixらが加わる。

  1.  ( 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 秋岡 欧 )
  2. めぐり逢い ( 作詞 : 荒木 一郎 / 編曲 : 笹子 重治 ) 歌 : アン・サリー
  3. うたうだけ ( 作詞 : 谷川 俊太郎 / 編曲 : 秋岡 欧 )  歌 : 沢 知恵 
  4. 明日ハ晴レカナ、曇リカナ ( 作詞・曲 : 武満 徹 / 編曲 : 沢田 穣治 ) 歌 : おおたか静流
  5. 島へ ( 作詞 : 井沢 満 / 作曲 : 武満 徹 / 編曲 : 笹子 重治 ) 歌 : おおはた雄一
  6. 恋のかくれんぼ ( 作詞 : 谷川 俊太郎 / 作曲 : 武満 徹 / 編曲 : 沢田 穣治 ) 歌 : tamamix
  7. 小さな空 ( 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 秋岡 欧 )
  8. 見えないこども ( 作詞 : 谷川 俊太郎 / 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 笹子 重治 ) 歌 : 松平 敬
  9. ワルツ~他人の顔 ( 作詞 : 岩淵 達治 / 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 沢田 穣治 ) 歌 : 松田 美緒
  10. 死んだ男の残したものは ( 作詞 : 谷川 俊太郎 / 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 沢田 穣治 ) 歌 : アン・サリー
  11. 三月のうた ( 作詞 : 谷川 俊太郎 / 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 沢田 穣治 ) 歌 : おおたか静流
  12. 燃える秋 ( 作詞 : 五木 寛之 / 英詞 : Ella Louise Rutledge&Kiristi Kaldo / 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 沢田 穣治 ) 歌 : 沢 知恵
  13.  ( 作詞 ・曲 : 武満 徹 編曲 : 秋岡 欧 ) 歌 : 松田 美緒
  14. MI YO TA ( 作詞 : 谷川 俊太郎 / 作曲 : 武満徹 / 編曲 : ショーロクラブ ) 歌 : おおたか静流、沢 知恵、 アン・サリー
  15. MI YO TA ( 作曲 : 武満徹 / 編曲 : 秋岡 欧 )


なお、このアルバムリリースを記念して参加アーティスト全員が登場する「♪武満 徹 ソングブック コンサート」が開催されるとのこと。
期日:2011/11/19
会場:めぐろパーシモン大ホール(都立大学駅から徒歩7分)

また、これを主催するのは目黒区美術館の運営主体:公益財団法人目黒区芸術文化振興財団だが、同時期にこの美術館で企画されているのが「DOMA 秋岡芳夫展 -モノへの思想と関係のデザイン」 だが、開催初日の翌日、10月30日「Takemitsu Songbook」のショーロクラブによるミュージアムコンサートが催されるとのこと。

〈要綱〉
[日時] 2011/10/30 午後1時間程度 (開演時刻未定)
[会場]目黒区美術館
[定員]70名
[料金]無料(当日の展覧会観覧料必要)
[申込方法等]事前申し込み制。

詳細はhttp://www.mmat.jp/まで

以上、詳細パンフPDF

*参照
ショーロクラブ
アン・サリー「こころうた」

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=pXgCPKYkXOM[/youtube]
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=oPVL5cYX9XY&feature=related[/youtube]

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