工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

マホガニーのデスク

猛暑が続くかと思えば、突然の豪雨で慌てさせられる。
暑いので、窓という窓を開け放しての工房内作業だが、窓際に置いてあるジョインター(手押鉋盤)定盤を何度濡らしたことだろう。
1時間も経たないうちに赤サビが出る。

京都・宇治に工房を構える、知人木工家の朝倉くんの住まい兼工房の地域が先の豪雨で大変な事態に陥っているとの報には驚いた。
電気、水道、道路 等々寸断され、生存環境そのものが奪われるような事態。
あまつさえ、支援物資として届けられた食料による食中毒という泣きっ面に蜂状態とのこと。

若夫婦、何とか生き存えているようではあるが、支援の手を差し延べたい。
(今日の夕刻のニュースでも、またもや豪雨が襲いかかっているらしい。困ったものだ)

さて、そんなこんなの去りゆく夏のうっとおしい光景だが、仕事は仕事として淡々と……… でもないか、汗止めのヘアバンド、Tシャツを濡らし濡らし、あえぎながらの過酷業務ではあるよね。


画像は、マホガニーのデスク。
ご覧のように、1杯だけの袖を左右にぶらさげ、中央に薄い抽斗を着けた、シンプルなものだ。


デザインを含め、いくつかのところで初めての試みを施したが、まずまず首尾良くいった。

デザイン

デスクとは言っても、そのデザインは様々だが、今回は注文主がご婦人ということで、エレガントさを引き出したいと願いデッサンした。

エレガントとは言ってもデコラティヴになるのを排し、できるだけシンプルに、かつモダンにしたかったが、果たして喜んでいただけるであろうか。

エレガントさをどこで出すかと言えば、デスクというシンプルな家具なので、やはり脚部がポイント。
うちでは多用する、テリ脚、という奴だが、Topのところで45度に大きく絞り込むことで、より意匠を意識することになった。
もっともこれは甲板の納まりとの関わりから、ある種規定されるものなのだが、設計段階で想定したよりも、意匠的効果は大きく、間違いでは無かったと安堵する。

それと、ご覧の通り中央部を凹ましてある。使用者の姿勢を考えたものであることは言うまでもないが、この単純なイレギュラー設計も、実は仕事としては、トンデモなく、困難を強いられるものになってしまった。ホゾを効かせるために、通常のホゾでは無く、蟻を多用することになったのもその要因の1つ。
その蟻も複数の仕口(この場合、3種)で繫いだのだが(継ぎ手、という奴だね)、こうした困難な仕口は楽しみながらやるもんだ、とは普段から口にしてはいるものの、実際はあえぎあえぎのものであったことは告白せねばならない。

他に、配慮したのは、各部位、エッジを効かせるようにしたこと。
テリ脚の面取りはもちろんだが、甲板の面も、画像のハイライトから伺えるようにしっかりとエッジを効かせた。

この辺りが量産もの、あるいはフラッシュものとは一線を画す、本来の無垢材の家具造りのキモだと考えている。

デザインということでは、やはり触れておかねばならないのが、この色調。
真性マホガニーならではの奥深い赤褐色。甲板はウレタンMixのオイルフィニッシュ、他はオイルフィニッシュだが、画像では分かりにくいがとても光沢があり、ゴールデンレッドとも呼びたくなってくるほどの色調である。

抽手はインディアンローズウッドによるカスタム。
全体のシンプルなデザインの中にあって、程よくアクセントになっている。

構造(仕口)

ただこの無垢の甲板の季節変動、経年変化による収縮があるために、どのような変化を見せるかは、少しリスキーかな。
因みに9分厚の甲板は棚口(一部、あおり留め兼用)に相欠き(という表現はあまり正しくないが、要するにカタカナのコの状態に小穴を突いたものを相互に嵌め合わせる仕口だ)で納めてあり、妻手中央部にボンドを塗布しただけで、前後に伸縮を逃がしている。

マホガニーはしかし、寸法安定度がとても良いことで定評がある材種なので、心配には及ばないよ、とマホガニーを良く知る人から聞こえてきそうだ(この読者でマホガニーを扱った人がどれだけいるか分からないが)。

なお、最初の設計段階では脚部にH型の貫を設けるはずだったが、止めた。
理由は単純。美しさを阻害するからだ。
構造的にはもちろん、あるに越したことが無いが、よほど荒っぽい使い方をしない限り、塗装過程で何度もひっくり返したりしたが、揺る様子は毫も見せず、しっかりと1つの構造体となってくれていた。

小袖エレガントデスク
寸 法 1,500w 700d 710h
材 種 マホガニー(ホンジョラス)
仕上げ オイルフィニッシュ


hr

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  • >、、フラッシュものとは一線を画す、本来の無垢材の家具造りのキモ、、
    >、、脚部にH型の貫を設けるはずだったが、止めた。理由は単純。美しさを阻害するから、、
     同感です。 しっかり面を取りたいですね、そしてムダな構造材を省ける実感を持ちたいです。 逆から見てみると、フラッシュの大面を貼り材で処理したものや考え無しに構造材を省く手法には否定的ですね。

    • いかにも、たいすけさんらしいコメントと伺いました。

      このデスクのデザインは、近世の欧州の家具にルーツを見付けることができると思いますが、
      主たる素材、構造としては、今ではそれらの多くが合板です。
      (ただ日本の量産ものとは似て非なるすばらしい構造体のものですが)

      ただしかし、無垢だぜ、とばかりの素材主張主義は取りたくありません。
      素人目では一見してどちらか分からぬとも構わないのです。

      そこに目的合理性と必然性に演繹されたものであれば、どちらでも良いわけです。

      今回の甲板処理は、本文に記述した通りですが、
      したがって過度に構造主張をすることは避け、
      無垢材でいかに洗練されたものへと到達するのか、
      という考えの結果というわけです。

      貫のカットは、構造的堅牢性と意匠追求とのせめぎ合いの結果としての総合的な判断です。

      たいすけさんは建築という視点からの評価が基準になると思われますが、
      それだけに、よりシンプルで本質的なものへの関心が強いのかな、
      などと思いました。

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